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第55話 交渉

 朱良は八角高校の校長から、どうしても会いたいと連絡を受けた。大学の授業の後、朱良は母校の校長室を訪ねた。


「君が花山道場の出身だなんてね。朱良と言う名前で気が付くべきだったよ」と校長の北山。


「どのようなご用件でしょうか」と朱良。


「君の弟の弘樹君には大変申し訳ないことをした。謝りたいのだが、機会を作ってもらえないだろうか」と北山。


「それがご用件でしょうか?」と朱良。


「そんなに慌てないでくれ」と校長。


「きみはOGだからよく知っていると思うが、この高校には風紀にやたら厳しくて、高校入学組の生徒をよく思わない教員がいるんだ。それで、君の弟さんには嫌な思いをさせてしまった」と校長。


「今日は道場の当主代理としてきています。その話は別の機会にお願いします」と朱良。


「そうか、では仕方がない。本題に入ろう。実は外法使いが高校に入り込んでいるのだ。何人かは特定したが、彼らは生来の使い手ではない。手ほどきした者が他にいるのだが見つからない。校内で探して処分してほしいのだ」と北山。


「処分ってどういうことですか?」と朱良。


「外法を使えないようにしてほしい。学校を追い出しても外で犯罪を犯すようでは意味がないからね」と北山。


「そもそも外法とはどういうものですか?」と朱良。


「超常の能力のことだよ。君も知っているはずだよ」と北山。


「私たちは自分の技を外法などと呼びません。そもそも超常の能力ではありません」と朱良。


「そうだったね。言いなおそう。外法と言うのは、犯罪に利用される特殊な身体能力のことだよ」と北山。


「私たちは外法のことを公にしたくない。教育的ではないし、外法の能力を身につける努力は無駄な場合が多い。だから君たちにお願いしたいのだ」と北山。


「私たちには、犯罪を捜査したり犯罪者と戦うような経験も能力もありません」と朱良。


「もちろん、必要なサポートはするよ。君たちは、あぶりだした外法の者たちと戦うだけでいいんだ。捕まえるか行動不能にさえしてもらえれば、あとはこちらで処理するから」と北山。


「あまり気が乗りません」と朱良。


「先代の当主には話したが、報酬を出すよ。相場通りのものだ」と北山。


「それはありがたいのですが」と朱良。


「報酬を受け取れば、君は今のアパートよりも、もっと条件の良いところに住めるよだろう。君の弟さんとの生活がもっと心地よいものになるはずだ」と北山。


 この言葉は朱良の心にぐっときた。


「当主に相談しなければなりません。私には決定権がないので」と朱良。


「そうだったね」と北山。「それから少しだけ君の弟さんの話をさせてくれないか。彼にこの学園に戻ってきてくれるように、説得してもらえないだろうか。」


「それは無駄だと思います。弘樹は誰の言うことも聞きません」と朱良。


「だが、君の言うことだけは聞くと、先代当主から教わったのだ。彼が戻ってきてくれれば、何もなかったように計らう。弘樹君にはこの部屋で私から謝罪するし、退学の処分を取り消す。担任の東山には、やめてもらってもいい。それから、退学中の出席日数は考慮するし、今後も少しぐらいの欠席は大目に見るよ。彼は家出することが多いそうじゃないか。それから大学進学に不利にならないように成績を考慮しよう。なんなら希望の大学に推薦することも約束する。どうだろう。お姉さんの君から口添えしてもらえないだろうか」と北山。


 弘樹の進路を心配していた朱良には願ったりかなったりな条件だった。退学処分のままの弘樹の進路を心配しなくてよいのだ。


「説得してみるわ」と朱良。


「商談成立だね。」と校長は満面の笑みを浮かべた。


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