犯人の目星がついてしまうと気が楽だった。これで未知の敵と戦うわけではなくなった。しかも弘樹は朱良一人で楽に勝てる相手だという。
翌日の夕方に再び校長を訪ね、犯人の容疑者として飯島と八木の二人の名前をあげた。適当に理屈をつけて、弘樹の所見であることを隠した。
「ところで、ご当主様の承諾は取れたのかね」と校長。
「ええ、問題ないそうです」と朱良。
「弘樹君の復学の件はどうかね」と校長。
「弘樹は分かったと言っていました。たぶん戻ってくると思います」と朱良。
校長は笑顔で目尻に深いしわを作った。
「紹介しよう、黒川由香さんだ。彼女には君のサポート役をやってもらう。彼女は外法の気配を感じ取ることができる。私たちの唯一の手駒なんだ」と北山。
「よろしくお願いします」と由香。
「こちらこそ、よろしくお願いします」と朱良。
「彼女もここのOGなんだ」と校長。
「私は五年前の卒業生で、今は大学院生です。由香と呼んでください」と由香。
「ええ。では私のことは朱良と呼んで」と朱良。
「由香さんがいれば犯人をすぐに見つけられるのね」と朱良。
「それは誤解です。私は外法を行う人の気配を察することができるだけです。だから、犯罪の場所に居合わせないと分かりません」と由香。
「スポーツのときにこっそり使うという場合でも分かるの?」と朱良。
「ええ、大体は」と由香。
「どれくらいの距離ならわかるの?」と朱良。
「場合によりますが、目の届く範囲であれば見当がつきます」と由香。
「人が密集していても特定できる?」と朱良。
「ええ、目で追える数人程度なら」と由香。
「明日の放課後に校内を一緒に周りましょう」と朱良。
「ええ、わかりました」と由香。