次の日の放課後、朱良と由香は運動部の練習を見て周った。とくにサッカー部と柔道部に時間をかけたが、由香は何も感じなかったという。容疑者の飯島と八木は練習にいなかった。
「由香さん、あなたの技を感じる能力は生まれつきのものなの?」と朱良が尋ねた。
「わからないわ。気がついたら気配を感じるようになっていたの。外法ではなくて、神社での神様の気配だけど」と由香。
「神様?」と朱良。
「神様って色々な気配があるの。子供のときから感じているわ。外法を感じたのは偶然よ。目の前で見せられて、気配があることに気が付いたの」と由香。
「どんな気配なの?」と朱良。
「その人のは禍々しかったわ。吐き気を催すような」と由香。
「私からも感じる?」と朱良。
「正直に言うと、少しだけ。さっき柔道場で気配を感じたの。あなたのものだったわ」と由香。
「禍々しい?」と朱良。
「いいえ。さわやかで嫌いじゃない」と由香。
「ちょっと安心したわ」と朱良。
「辺り一帯に鳥肌が立つような気配がするようなことってあるの?」と朱良。
「ええ。神社や山奥ではよくあるわ。だれでも感じ取れるくらいの気配がするのよ」と由香。
「夜中に鳥が騒ぐような?」と朱良。
「よく知ってるわね。それってひょっとして外法のことなの?」と由香。
「いいえ。なんとなく聞いてみただけよ」と朱良。
「人間からそんな気配がするなんてありえないわ」と由香。
由香がうっと口を押さえた。「外法の気配がするわ。」
「場所は分かる?」と朱良。
「裏庭よ、吐きそう。朱良さん先に行って!」と由香。
朱良は由香を抱きかかえて走った。
「二人いる。今まさしく外法を使っている!」と由香。「裏庭から出て藪に入ったわ。」
二人が裏庭についたとき、数人の男子学生が藪の奥に走り去るのが見えた。藪は高校の敷地内に校舎を新築するために準備された場所のことで、フェンスが張り巡らされている。犯人グループは、この藪を隠れ家にしていたらしい。
「ここからは私、一人で行くわ。あなたは校長先生に連絡をして」と朱良。
朱良は藪に入り男子学生を追った。男子生徒たちは追われていることに気が付いて、逃げてしまったようだった。がさがさ藪を揺らす音に近ずくと、猿轡をされて縛られた女子生徒がいた。朱良はすぐに縄をほどいた。顔見知りの女子生徒だった。「朱良先輩!」と言って朱良に抱きついた。