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第60話 捕り物(4)

 すでに薄暗い時刻だった。由香から報告を受けた校長は、待機していた関係者だけでなく、中学と高校の教職員をかき集めて藪を取り囲んだ。


 朱良は電話で弘樹に判断を仰いだ。蓮、蘭と三人で取り囲んで捕まえろ、とのことだった。弘樹はこっそりと高校に侵入していた。


 朱良は中等部の校舎から駆け付けた蓮、蘭と合流した。校長は犯人を藪の中に閉じ込めたと大喜びした。


 朱良の携帯電話が鳴った。朱良は人の輪から離れて電話に出た。「犯人たちが、木の枝を伝って藪から抜け出した。野球場に向かっている」と弘樹。


 朱良が校長に告げると驚いて人を走らせた。


 朱良、蓮、蘭は人目につかない藪の中を獣のように走り抜け、野球場に出た。すぐに犯人たちに追いついた。


「待ちなさい!」と朱良が怒鳴った。と同時に蓮と蘭が左右に分かれて後ろに回り込み、犯人たちの退路を断った。


 犯人は5人のグループだった。そのうち二人が技を使うはずだ。


「あきらめて自首しなさい!」と朱良。


「あ、朱良先輩だ」とグループから声がした。


 電話が鳴って、「人が来るよ。話なんかしてないで、すぐに片付けて」と弘樹。


 電話を切る間もなく朱良は飛び込んで三人を一撃で倒し、逃げ出した二人を蓮と蘭が素早く当身を入れて動きを止めた。


 関係者が野球場に駆け付けたのは、決着がついた後だった。


 弘樹は校庭に近い高圧鉄塔の上から事の顛末を見届けた。帰宅するために校庭の縁を歩いていたとき、ふいに後ろから抱きつかれた。


「弘樹君、捕まえた」と女子の声。白木結衣。


 驚いた弘樹は、かろうじて「白木さん?」と返事をした。


「結衣って呼んでって言ったでしょ」と結衣。


 どうして背後を取られたのかわからない。「ぼくは通りすがりなんだ。ちょっと事情があって通り抜けさせてもらっているだけで……」と言い訳をした。


 結衣が耳元でささやいた。「弘樹君、高圧鉄塔の上で何をしてたの?」


 弘樹は恐怖を感じた。自分の背中に張り付いているのは何者なのか?「高圧鉄塔ってなんのことかな、結衣ちゃん。」


「内緒にしてあげるから、毎日お話ししに来て。もうじき高校に戻ってくるんでしょう?私、ずっと待ってたのよ」と結衣。


「どうして知ってるの?」と弘樹。


「弘樹君のことが好きだからよ。何でも知りたいと思ってるから」と結衣。


 弘樹は言葉に詰まった。


「私、告白してるのよ。こうして弘樹君の背中に抱きつきながら」と結衣。「返事は待ってあげる。でも約束して、毎日お話ししに来てくれるって。」


「わかったよ、結衣ちゃんのクラスの教室に会いに行くよ」と弘樹。


「約束よ」と結衣。


「うん」と弘樹。


「じゃあ帰らせてあげる」と結衣は言って抱きついていた両手をほどいた。


 驚いている弘樹に両手をかわいく振って「約束だよー」と笑いながら結衣が去って行った。


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