悠真(モノローグ)
「“恋愛観測部”にも、だんだん慣れてきた三日目。……いや、そもそもこれ、慣れる必要あるのか?
ま、それはさておき——今日は、ギャルの子、ルナとの観測セッションらしい」
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「んじゃ、始めよっか? “部長サン”」
軽く指を立てて笑うのは、ギャル然とした外見が目を引く、ルナ。金髪のポニーテールに、カラコンの大きな目。制服もスカートの丈が短めで、ネイルまでバッチリ。
「名前で呼んでくれよ……。えーっと、ルナって、好きな人とか——」
「いないよ? つーか、“恋愛”とかマジめんどいし。ギャルはノリとテンションで生きてんの」
にっこり笑って、ルナは机にあごを乗せる。全身で“興味ないアピール”をしていた。
「それにしては、やたら恋バナ好きだよね?」
「それはネタになるからでしょ。あんたも、ネタになってくれんじゃん?」
悪戯っぽく笑って、片目をつむる。
「……なにそれ、怖い」
—
放課後、観測が終わり、部室を出た帰り道。並んで歩く俺たちの間に、ふと静けさが流れる。
そのとき、ルナがぽつりとつぶやいた。
「昔さ、“好き”って言ったら、バカにされたことあんだよね」
「え?」
「小学校のとき。好きって言った相手が、ウチの気持ちをクラスにばらしてさ。ギャルっぽくなる前ね。
“真面目ぶってんのに気持ち悪い”って言われた」
俯き気味に話すその声は、思っていたよりもずっと静かで、脆かった。
(冗談っぽく見せてるけど……本当は、傷ついてたんだ)
「だからウチ、あんま本気にならないようにしてんの。“本音”とか、知られんの怖いし」
「……俺は、ルナの話、バカにしないよ」
言った瞬間、ルナが驚いたように目を見開いた。ほんの一瞬だけ、ぽかんとした顔。それから——
「……マジで変なやつ。……でも、ありがと」
頬を少し染めながら、ルナは前を向いて歩き出した。
「じゃ、次はウチが“観測”する番ね。成瀬の“本音”、知ってやる」
「それは……やめてくれ」
—
別れて帰ろうとした矢先、学校の裏庭を通りかかったとき、思いがけない人影が目に入った。
「……生徒会長?」
花壇の前にしゃがみ込み、丁寧に花に水をやっていたのは、神崎紅だった。俺の声に、彼女はびくりと肩を揺らす。
「っ! 成瀬?……なぜここに」
「いや、こっちこそ……。ていうか、生徒会の仕事、終わったんじゃ?」
「……花が好きなの。綺麗で、まっすぐで……余計な感情とか、持たないから」
ジョウロの水が花の葉を濡らす音が、静かに響く。ふと、紅は手を止め、ポツリと呟いた。
「でも……あなたと話すと、わたし、なんだか変な気分になるのよね。まっすぐじゃいられなくなる」
「……それって、悪いことですか?」
紅は一瞬、黙り込んだ。そして小さく、でも確かに言った。
「わからない。でも……“嫌いじゃない”かもしれない」
その頬には、いつか見たことのある、淡い紅が差していた。
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悠真(モノローグ)
「ギャルの仮面の下に隠された、本音。
完璧主義の生徒会長の中に芽生えた、ほんの小さな揺らぎ。
少しずつ——でも確かに、“誰かを知る”ことが始まってる気がした」