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5.悲しきモンスターのエレジー


【本文】

 大司教を蔓縄で縛り上げる。ちょうど部屋にシェービングクリームとカミソリがあったのが運の尽き。

 毛髪を全部剃り落とした。


 残りわずかな希望にさよならである。


 つるっと一皮むけた大司教が吠える。


「ゆ、許さんぞ! 絶対に許さん!」

「焦るなって剥き卵。代わりにフサフサにしてあげるからさぁ!」


 私はポーチから芝生草の粉末種を大司教の頭皮に振りかけた。

 魔法力を込めて育成すると――


 頭の上に緑が甦る。

 ま、頭頂部は相変わらずの不毛地帯だが。

 手鏡でできばえを見せる。


 気分は美容師。メイヤ・オウサーに清き一票を。


「いかがですかお客様。カッパ魔族風に仕上げてみましたが」

「いかがもなにもあるかーッ!!」

「聖職者なら剃髪するもんでしょうが!」


 聖王教会のルールは知らんけど。


 ぐぬぬ顔で司教は訊く。


「お主の目的はなんだ? どっから降って湧いた」

「人をGみたいに言うんじゃないよ」

「というか……さてはメイヤ・オウサーだな」

「誰ですそれ? 聞いたことない名前だなー」

「第八階位の転移魔法が使えるものなど他におるまい!」


 あ、やっぱり転移魔法ってレアなんだ。

 まさか魔法が上手すぎて足がつくなんて。


 さすが私である。


「だったらなんだバカ司教! とっととシャンシャンのペンダントを返せよ」

「シャンシャン?」

「そちらさんとこの第一級聖女ことシャロン・ホープスさんの私物を没収してるでしょうが?」

「あのポンコツに頼まれたというのか?」

「ポンコツぅ? ちょっとそれどういうことか詳しく話せ。でないと頭の芝生に貴様の生命エネルギーを吸収させて……殺す」

「ひいいいい!」


 そんな機能が芝生草に無いことくらい、植物をちょっとかじっていればわかるんだが。

 情弱騙すのたーのしー。


 真に受けてバカ司教は戦々恐々ガクガクプルプルだ。


「わかった! 話す! あの女は聖属性魔法の才能はあるが、せっかくの浄化や回復の奇跡を貧民どもに無料で施す愚か者なのだ! 追放を検討していたのだが、陛下から直々に『女を差し出せ』とあってな……」


 かっちーん。


 来ちゃったわこれ。バカ司教にバカ国王。バカのバカによるバカのためのバカな国。


 聖女ってさ……持たざる者にも手を差し伸べるもんじゃないの?

 人間じゃねぇよこいつら。(※亜人魔族への差別表現ではありません)


「貴様の……貴様らの毛根は何色だああああ!」

「ぐぬ!? 話したぞ! 元に戻せ!」

「まだだ。ペンダントを返せ」

「そこの金庫に入っているが……わしが死ねば暗証番号は……」


 携帯用の短杖をマントの下から取り出した。


「虚無と混沌を統べし暗黒の真理経典よ、いざ啓(ひら)け! 我が前に立ち塞がるものことごとく破滅の運命を定めん! 蹂躙せよ! 収束式極大破壊魔法!」


 金庫の前面部分に魔法力をシュート。


 中身を傷つけないよう繊細に、かつ大胆にアレンジ。


 魔光一閃。ゴトリと音を立てて金庫の蓋が床に落ちた。


 またつまらぬモノを斬ってしまったな。


 バカ司教が白目を剥く。


「極大破壊魔法を精密操作!? ば、化け物かお主は!? あばばばばばば」

「誰が私のような悲しきモンスターを育てたと思う? 貴様ら腐った権力者どもだ!」

「ぐぬうううう!」


 唸る緑のはげちゃびんを尻目に、私は庫内からペンダントを取り出した。

 小娘が言ってた通り、金色の片翼がついている。


「はい。じゃあ返してもらいますね……っと」

「あの聖女に頼まれたからか?」

「そうですー。全部シャロン・ホープスにやれって言われましたー」

「お主もろとも手配してやる! 二度と聖王国に戻れると思うなよ!!」

「怒ってばっかだと血管ぶっち切れて死ぬんじゃない? 牛乳でカルシウムとってね」

「うるさいうるさいだれのせいだと思ってる!」

「こういうの自業自得ってユーノウアンダスタン?」


 さて、取る物も取ったし騒ぎになる前に帰るか。


「じゃ、お邪魔しました」

「ま、待て待て! わしの髪を戻せ!」

「あ、無理ですかねぇ」

「無理……だと?」

「芝生草が成長しきって根を下ろしたんで、無理に引きちぎろうとすると神経と融合してるから痛覚を刺激してそれはもう……激痛? みたいな」

「はあああ!?」

「さっき牛乳飲んでお腹ゴロってきたんで、お手洗い借りて帰りますね」


 大司教専用の黄金便座で足す用はプライスレスだ。

 せっかくなので流さないでキャンプ地に帰還した。生きた証。我ながら心憎い置き土産である。


 形見の品も取り戻せたし、きっとシャンシャンも喜んでくれるだろう。


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