【本文】
キャンプに戻ってきましたよっと。
シャンシャンはといえば……。
焚き火台に鉄板をセット。
ローチェアーに浅く腰掛けて――
「お、お帰りなさい。大丈夫? べ、別に心配とかしてないけど、ちょっと……ね」
「その割には豪遊してるなぁ」
この女……ソーセージの備蓄全部、焼いてやがった。
「え? 好きにしていいって言ったじゃない?」
「限度があるでしょうが限度ってものがよぉ! 全部焼くやつがあるか!!」
「これプリプリジューシーで香辛料もほどよくて、美味しいわね。幸せ。一本食べたらもっともっとってなっちゃって。はむはむ……う~ん♪ 最高! 麦酒ないの? 出して!」
「出すか!」
「ざーんねん」
美味そうに食いやがって。
嫌いじゃない。
私はペンダントを投げてよこした。
「ちょ! いきなりなに? えっ? これって……」
キャッチした小娘の目が丸くなる。
「貴様のペンダントで間違いないな?」
「う、うん。でもどうやって!?」
「大司教ボコした」
「あっ……はい」
時々、相手が察し顔。メイヤ・オウサーは今日も元気です。
小娘が立ち上がると頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばん。好きにしただけだ」
「あなたって……もしかして本当は優しい人なのかしら?」
「私はずっと優しいだろ。貴様のようなポンの相手をしてやってんだから」
「ポンじゃないわよ! ちゃんと聖女してるんだから」
「なら人の楽しみにしてたソーセージ全部食っちゃうようなことしないでしょうが!」
「好きにしろって言ったのあなたじゃない? 言動には責任持ちなさい」
うっ……言い返せん。
「すみませんでした」
「もっと大きな声で」
「すみませんでした!」
「いいわよ許してあげる」
なんかおかしくない? 立場おかしくない? なんなのこの子……怖っ。
「ともかくソーセージ食ったら帰れ。貴様にも故郷があるんだろう」
「…………あっ」
小娘は目を丸くした。
「ねえ、大司教様に乱暴してペンダントを取り返してくれた……ってことよね」
「安心しろ。ペンダント“だけ”返してもらっただけだ」
「他に方法はなかったの? もっと穏便なやり方とか……」
「無論だ。いかに私が大魔導師だといっても、選択肢が常にあるわけではない」
夜に忍び込んで大司教が眠っているところで、相手の頭の中身をチェックして金庫の暗証番号をゲット。誰にも気づかれずにペンダントだけを奪取して戻る方法を除いては。
穏便に済ませるなど不可能だ!
だって朝だったし、司教起きてたし。寝るまで待つなんて面倒臭いし。
シャンシャンが両腕を万歳させる。コアリクイの威嚇ですかぁ?
「じゃあじゃあ、大変じゃない!!」
「何が?」
「聖王国を敵に回したってことよ」
「最初からそうですが?」
「あ、あたしの名前とか出したりした? だって、ただの強盗行為じゃなくてペンダント狙いだったんでしょ?」
「人の家に上がり込んで物色するのを犯罪みたいに言うんじゃあない。私は勇者行為をしたまでだ」
「犯罪よ!」
ふむ。見方によってはそうかもしれない。
「安心するがいい小娘よ。きちんと『シャロン・ホープスさんに頼まれました』とバカ司教には伝えておいたぞ。これで二度と貴様にちょっかいは出すまい」
「はああああああああああああああ!?」
「なんでキレてんだ?」
「あたしがやらせたってことになったら、もう国に帰れないでしょ? 死刑よ死刑! あたし、戻ったら殺されちゃうわ!」
「知ったことか!」
「なんてことしてくれたのよ!!」
「よせやい照れるぜ」
「褒めてないから!」
「ええぇ私のこと再評価したんじゃないのぉ?」
「落ち込まないで!」
「だいたいさぁ、勝手に身の上話なんぞするからいけないんだぞ」
「会話の流れってものがあるでしょ? それに、取り返してほしいだなんて……」
「雰囲気で言ってましたー」
「うっ……たしかに。ああ、終わりだわ。あたしの人生……このままお尋ね者になって死ぬんだぁ」
「勝手に死ね」
女は泣き出した。
「ひっどーい! せ、責任とって!」
「はあ?」
「だから責任よ! ペンダントはありがとうございます。だけど、それはそれ。これはこれ」
「聖王国に戻れないなら魔帝国にでも亡命したらどうだ? 案外楽しいかもしれんぞ」
「聖女が魔帝国に行ったら、それこそ見せしめに公開処刑されちゃうわよ!」
「貴様……大変だな。人生ハードモードだ。ご愁傷様です」
「誰のせいだと思ってるの!? 死んだら化けて出てやるんだから」
そっかぁ。聖女って魔帝国に行ったらオークとかにアレやこれやされたあと、ころころってされちゃうんだろうなぁ。
小娘は食い意地張りんぼさんだが、教会やバカ司教の命令を無視して人を助けようとしてたようだし……。
聖女はペンダントに視線を落とす。
「うう……ごめんね……お姉ちゃんの人生はここで終わりみたい」
「いいだろう」
「え?」
「責任とってやる。聖王国を滅ぼしてな。貴様を指名手配しそうな連中全員この世界からさよならバイバイさせればいいんだよな」
「ちょ! や! やめてよそういうの!」
「じゃあどうして欲しいんだ? 言って見ろ」
小娘がじっと私を見上げると――
「ここに……おいてくれる?」
「は?」
「今日からあたしも、このテントに住むの! 聖女アーリーリタイヤしてキャンプ生活したいの!」
「ば、バカを言うな! ソロキャンプじゃなくなってしまうだろうが!」
「あなたも一人じゃなにかと寂しいでしょ? 話し相手とか欲しくならない?」
「帰れ!」
「あなたのおかげで帰れなくなったのに?」
「うっ……」
「あのね……本当に……あそこは嫌なの。聖女なんて見かけだけ。聖女の施しに法外な値段をつけて商売をするのが今の聖王教会だから……」
ハゲちゃびんめ。やってんなぁ。草も生えん。
「ちょっと国滅ぼしてくる」
「やめてってば。罪の無い人たちも王都にはたくさん住んでるんだし」
はいはい聖女聖女。
お利口さんでちゅね。
「……いつまでだ?」
「いつまで……って? ここにいていいの?」
「貴様が決められないというなら……うむ、ほとぼりが冷めるまでな」
ばふっと小娘は私に抱きついてきた。
ぐぬっ! 胸がないくせに柔らかい。
「あ、ありがとう! その言葉を待ってたわ!」
上から目線ですかこのやろう。
「ニート聖女じゃ困るからな。いずれは出て行ってもらうぞ。聖王都でなけりゃ身分隠して地方でこっそり、なんとかなるだろ」
まさか追放聖女の再生支援をすることになろうとは、人生なにが起こるか……これがわからない。
「うん! 落ち着くまで……ふつつかものですがよろしくおねがいします」
ぎゅっぎゅと密着するんじゃないよ。年頃の娘さんが! 恥ずかしいでしょうがこっちが!
――こうして
なんか知らんけど私のソロキャンプ生活は幕を閉じた。
今日から二人暮らしである。
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