目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

8.後悔先に揉まず


【本文】

 夢を見ていた。


 宵闇の天幕の中――


 大きなおっぱいを両手で鷲づかみにしてもみもみしている夢だ。


 手のひらに吸い付く柔肌の感触。脂肪ゆえに少しだけひんやり。もちっとした重量感。


 まるで現実。人差し指でなぞるようにして、徐々に山頂を目指すと。


「はうん……あぁん……そんなにじらさないで」


 耳元で熱い吐息がASMRした。


 背筋がぞわる。


 シャンシャンとは思えない艶めかしさだ。


 おかしい。小娘の胸に小玉スイカサイズのおっぱいが並んでいるはずがない。


 だから夢だと判断できる。


 夢だし……なにやってもいいか。


 声の主が私の耳たぶを軽く噛んだ。


「んちゅ……」


 私は――


 おっぱいから手を離すと身体を入れ替え、女をうつ伏せにする。背中に馬乗りになると女の顎を片腕でぐいっと持ち上げた。


 背中を強制海老反り。女の胸がばいんと揺れる。

 空いた手で女の鼻の穴に指をつっこんで引っ張り上げた。


「あがっ! あががががが!」

「夢だから無罪! 夢だから無罪!」


 鼻フックキャメルクラッチ。一度試してみたかった技だ。


 たぶんあれだなぁ。夢の中でこういったことを無意識のうちにやってしまうから、私の寝相って悪いんだと思う。


 夜襲を受けても自動反撃。メイヤ・オウサーに死角なし。


「やめてやめて助けてぇ殺さないでぇ! 折れる! 背骨が折れちゃうからぁ!」

「夢だから大丈夫だろ」

「大丈夫じゃな~い! 起きて! 目を覚まして!」

「夢だと痛覚ないっていうからな。現に私は全然痛みを感じていない。つまりこれは……夢ッ!!」

「技かけてる方だからでしょ! こっちは痛いの!」


 声もしゃべり方も雰囲気もシャンシャンっぽくない。


 パッ……と、テント内の魔光ランプが灯った。

 つけたのはシャンシャンだ。


「ちょっとぉ。うるさいわよ何暴れてんの……よ?」


 あくび交じりに目を擦る元聖女と視線がスパーク。

 あれ? じゃあ今、夢だと思って私が鼻フックキャメルクラッチしているのって……誰? やだぁ怖い。


「こ、こんばんわ! 素敵なお嬢さん! 助けてください暴漢に襲われてるんです!」


 鼻をふがふがさせて懇願する全裸の少女。

 おっぱいぶるんぶるんさせながら、背中に馬乗られている。

 少女のお尻から黒い革の鞭みたいな尻尾がしゅるり。先端が矢印っぽくなっていて、いかにも魔族味がある。


 紫色の艶やかなショートボブに、虹の光彩を放つ瞳がシャンシャンに懇願した。

 これには元聖女も大困惑だ。


「ねえメイヤさん。いったい……なんてことしちゃってくれてるわけ!?」

「キャメルクラッチを少々嗜んでおります」

「夜中にテントに全裸の女の子連れ込んで、どったんばったん夜の大運動会なんて! しかも隣にあたしが寝てるのよ!? 大胆通り越してスリリングなプレイに興じる変態じゃないの! そ、そういうのしたいならしたいって言ってくれれば……」


 小娘は後半震えた小声になって、ちょっと何を言ってるのかわからない。


「え? なんて?」


 聞き返すつもりでシャンシャンの方に重心を移動した瞬間。


「うきょおおおおおおおお! 折れる! ねえ! 折れます折れちゃうから! 心も体もバッキバキになっちゃうからぁ!」

「夢の分際で泣きわめくな」

「夢じゃない! 現実! 現実見て! あ、あと自己紹介させてくれると嬉しいんだけど」

「なんだ言ってみろ」

「この苦しい体勢のままで? 一旦解放して落ち着いたところで、改めて自己紹介じゃダメ?」


 なぞの巨乳ショートボブ魔族が瞳を潤ませる。

 シャンシャンの眼差しが「離してあげて」と訴えた。


「いいやダメだね。一発ギャグで私を笑わせることができたら解いてやる」

「滑らせるつもり!? 大けがさせる気まんまんじゃないですかやだもー!」

「裸芸に頼るからいかんのだ」

「これは裸芸じゃなくて、おまえを誘惑するためだったんだけど」

「貴様! 初対面の人におまえだなんて失礼でしょ!」

「ひいいすんません!」

「けしからん乳だ。さあ、笑わせてみろ」


 一瞬、間をおくと巨乳はおっぱいをぶるんぶるんとゆすってみせた。


「ヘイジョージ! おっぱいが並ぶと何になるか知ってるかい? そう……パイが列を作るからパイレーツさ!」

「ハッハッハッハ! 傑作だな……死ね」


 私は女の鼻の穴にかけた指をさらにぐいっと引き上げた。


「きょわあああああああああああああ!」

「もうやめてあげて! その子の心が壊れちゃうわ!」

「ちょっとお嬢さん! 身体の方も心配して!」


 なんだか愉快なテント暮らし。

 どうやら夢でもないみたいだし、十分楽しんだので釈放してやろう。



 たき火を起こした。

 まず全裸に服を着せた。といっても、光沢のあるビキニの上下だ。上も下も布地面積が極端に少なく、ほぼ裸。限りなくカニに近いカニかま。モザがイク必要がなくなる最低限だった。


 巨乳を地面に正座させる。その上から蔓縄で後ろ手にしばりあげ拘束は完璧だ。

 実に美しい亀甲縛りである。胸が強調されて、盛り上がりも最高潮だ。


 うむ、エロい。100点。いや120点。


 シャンシャンが私に尋ねた。


「ねえ、女の子の裸とか恥ずかしくなっちゃう童貞君じゃなかったの?」

「夢だと思ってたからな」

「へぇ……怖っ。夢だったらなんでもするんだ」

「夢でなくとも縛り上げたりするぞ」

「メイヤさんって容赦ないのね」


 恐れおののけ小娘よ。というか、夢じゃないならもっときちんと揉んでおくべきたった。

 揉み揉みしだいておくべきだった。

 山頂を制して旗を立てるべきだった。


 技を掛けてしまったのは実にもったいない。


 で、正座亀甲縛りおっぱいはというと――


「このたびはお騒がせして大変申し訳ありませんでした」


 こんこんと頭をさげた。

 ゆっさたゆんと双丘が重力に従って揺れ落ちる。

 谷間を維持したままなんて、ものすごい重量感だ。


「貴様は誰だ?」

「えっとぉ、サキュルはサキュルって言います」

「一人称を自分の名前にするタイプか。さては可愛いという自覚があるな?」

「あ? わっかる~? けっこう可愛いって言われるんだよねぇ」


 軽いぞ、こいつ。

 シャンシャンが首を傾げた。


「女の子が夜中に一人で訊ねてくるなんて、よっぽどよね。何があったの?」

「あ! お嬢さんご心配なく。サキュルは大丈夫だから。あのねあのね、家出とか放浪癖とかじゃなくてぇ、魔帝国の偉い人に指示厨されてきました」


 つまり刺客か。


「私の寝込みを襲ったということだな?」

「うん! だってサキュルは淫魔だから、エッチなことが得意だし」

「隣に子供が寝てるでしょうが!」


 一瞬、シャンシャンが「何言ってるの子供なんてどこにも」という顔をしたが――


「あ、あたしを子供扱いした? 今、完全に売ったわよね? ケンカする? ねえメイヤさんケンカする? グーで殴り合う?」

「私と小娘じゃ相手にならんだろ」

「そんなのやってみないとわかんないじゃない! だいたい、大きい子のおっぱいは揉んで、あたしのは無視するとかひどいと思うの。おっぱいは平等よ! もっと丁重に扱って!」

「さっきから元聖女がおっぱいおっぱい言うんじゃありません!」


 シャンシャンとにらみ合うと、巨乳が間に挟まってきた。


「まあまあ二人とも落ち着いて。サキュルが話くらいは聞いてあげるから」

「貴様は偉そうだぞ」

「あなたにあたしの心は解らないわ! 永久に!」


 ともあれ、魔帝国からの新たな刺客。

 殺意は無かったようだが、いったいどうしてくれようか。


 少なくとも――

 黙っていればルックススタイル全部ヨシ。

 口を開けば残念美少女。


 もったいない。もったいないゴーストがお盆に一斉に押し寄せ最後尾2時間待ちをするくらいに、もったいないと思う、ある春の夜の私です。


【リアクション】

いいね: 7件


------------------------- エピソード9開始 -------------------------

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?