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9.人として行ってはいけない最低限のライン越え


【本文】

 夜風が吹く。

 たき火がパチリと爆ぜた。

 月は大きい。


 淫魔がじっと私を見る。


「なんか超怖い人間って聞いてたけど」

「怖い? 私がか?」

「うんうん。送り込んだ刺客はみんな調教済みになるって偉い人が言ってた」


 シャンシャンが隣で「え?」と、真顔になった。


「メイヤさん……変態だったの?」

「私は変態ではない。紳士だからな」

「どこに紳士の要素があるのかわからないわ。この子の縛り方って……拘束する以上に複雑よね」

「なんだ貴様も興味があるのか」

「な、ないわよ!」

「私も別に興味ない!」

「じゃあなんでこんなことするわけ?」

「種を蒔いて魔法力を込めると勝手にアートが出来上がる。安心しろ。貴様にはやらんぞ」

「いくらあたしがその……清楚な体つきだからって興味ないはひどくない?」

「清楚ぉ?」

「元聖女よ! 懐疑的な視線を向けないで!!」


 正座淫魔が身もだえた。


「二人さぁ付き合ってんの?」


 自称清楚が金髪をぶんぶん振った。


「ないないないない絶対無いから! ほらメイヤさん。尋問するんでしょ?」

「うむ。そうであったな。淫魔よ正直にこたえるのだ。目的はなんだ?」


 尻尾を立てて淫魔は口を開く。


「サキュルはね、贈り物なんだって」

「どういうことだ?」

「えっとぉ、刺客みんな送り返されちゃって、おまえのこと殺すの無理かもって」

「おまえって言うんじゃないよ!」

「じゃあなんて呼べばいい?」

「メイヤだ」

「メイヤを殺すの無理かもって」

「メイヤさん……な?」

「え~他人行儀っぽくてやだ」

「他人でしょうが!」

「今日からサキュルはメイヤの所有物になるんだよ? やだなーもー。親しき仲にも親しさありってね」

「はは~んさては貴様バカだな?」

「ば、バカじゃないし!」


 シャンシャンが顎に手を当て首を傾げる。


「贈り物とか所有物って、どういう意味かしら?」


 淫魔は「んこいしょ」と立ち上がった。


「だからねサキュルはこれまでにご迷惑をかけたお詫びなんだって。煮るなり焼くなり好きにして! って。こういう風に縛られるのも大丈夫だし」


 刺客がだめなら女で私をまるめこもうという腹づもりか。


「じゃあ帰れ」

「帰ったら……サキュル酷い目に遭うの」

「知ったことか!」

「だ、だってだってぇ……もしここに置いてもらえなかったらサキュルね、魔神教会の修道院に入れられちゃうの!」

「なに? 修道院だと?」

「うん! 淫魔にとって規則正しい生活をしなきゃいけない修道院は生き地獄。怠惰にだらだらしてたいのに、朝四時起きとかありえなくない?」


 隣でシャンシャンが「それって普通よね」と元聖女コメ。


「普通じゃないよ! あんなの人の暮らしじゃないって! サキュルまだ恋もエッチもしたことないんだよ? 淫魔なのに! かわいそくない?」


 途端に小娘の顔が耳まで赤くなった。


「え、えっちとか……女の子がそういうこと言うのよくないわよ!」


 シャンシャンよ短期記憶喪失か? さっきおっぱい連呼してたでしょうに。けしからん。

 うぶな反応に淫魔はにんまりだ。


「あ~! お嬢さんかわいいんだ。ね? 名前なんていうの?」

「シャロンだけど」

「わぁ! 素敵なお名前! シャロンちゃんかぁ。むふふ♪ サキュルね別腹でかわいい女の子がだーい好きなんだぁ」


 私は腕組みして一歩下がる。


「よかったなシャンシャン。あとは任せた」

「ま、任せないでちょうだい!」

「私は百合の間に挟まる無粋な男ではない。後方見守りおじさんをさせてもらおう」


 サキュルが「わーいやったぁ!」とその場で跳ねた。

 巨乳が縄跳びすると起こる現象。アレである。ぶるんぶるんと元気いっぱいだぁ。


 一方シャンシャンは大慌て。


「ちょ! 待って! えっとサキュル……さん? いいの? ターゲットはメイヤさんでしょ? 失敗したら修道院で監獄みたいな暮らしなんでしょ?」


 やっぱ監獄の自覚あったんッスねぇ元聖女様。

 巨乳が首を左右に振る。


「やだやだ修道院も行きたくないしシャロンちゃんとも仲良くなーりーたーいー! ね! シャロンちゃん! サキュルのことはサキュルちゃんとか、サキュルとかメスブタとかフレンドリーに呼んで?」

「最後のがシンプル罵倒なんだけど」


 助けを求める聖女の眼差しに――


「いいかシャンシャン! もっと仲良くしろ!」

「メイヤさんも止めてってば!」

「百合の間に挟まるわけにはいかんだろ」


 淫魔が男女平等に愛せて本当に助かった。


 巨乳が私に向き直る。


「サキュルはむしろ百合で男子を挟んでいきたいんだけど。二人より三人の方がきっと楽しいよ! エッチも!」


 かっちーん。いや、これはブチィッ! 案件だ。

 こいつ地雷原でタップダンスしたあげくぶち抜きやがった。


「貴様許さんぞ! 絶対に許さない! 百合の間に男を挟む百合など言語道断! 風上にもおけん!」

「え~! いいじゃんいいじゃん! ほらシャロンちゃん! 二人でメイヤさんを挟んでぎゃふんと言わせちゃおうぜ!」


 シャンシャンがハッと目を丸くする。


「もしかしてサキュルさんと二人なら……メイヤさんに勝てる?」


 こいつもこいつで元聖女とまっとうな肩書きにみえるけど、大概なやつだった。


 二人は俺とたき火を中心にして、ぐるぐる回り出す。

 虎虎虎。

 そのままバターにでもなってしまえ。


 淫魔がさえずる。


「さあどうするメイヤ? 百合に囲まれて大ピンチ……みたいな?」

「くっ……煽りおる。やめろ! 私は百合を遠くからそっと観賞したいだけなんだ! 当事者になんかなりたくない! なりたくなーい!」

「FOOOOO!! 効いてる効いてる!」


 巨乳単品ならどうってことはないんだが、シャンシャンめ、これみよがしに百合の連立政権を発足しやがって。


 二人が俺を囲む輪を狭めてくる。このままでは挟まってしまう!?


「乗るなシャンシャン」

「だ、だけどメイヤさんにやられっぱなしだし」


 ぐぬぬ。私を追い詰めてなにが楽しいというのだ。

 淫魔がシャンシャンにウインクした。


「今だよシャロンちゃん!」

「え、ええ!」


 右から亀甲縛りされたままの巨乳が私の二の腕を谷間で包むように密着。

 左から聖女が清楚ボディーで私を抱きしめる。


「ぐあああああああああああああ!!」


 百合の間に挟まってしまった。

 私はもうだめかもしれない。


 なんて無粋な連中なのだ。

 許せない。この恨みはらさでおくべきか。


 巨乳両刀使い処女淫魔を送り込んできた魔帝国の「偉い人」とやらを、私は絶対に許すわけにはいかなくなったのである。


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------------------------- エピソード10開始 -------------------------

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