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11.庭師です……通してください……


【本文】

 時刻は午前十時。

 ところは魔都の一等地。

 坪単価見当も付かない中心街に、組事務所はあった。


 四方を高い漆喰の壁に囲まれた、瓦葺きのジャポネ様式だ。


 大娼館の女館主(ストパー済み)が言うには、自慢のジャポネ式庭園があるらしい。


 ゴクド組の看板が掛かった門の前に立つ。


 馬車が二台、並んで通れるくらいの大きさだ。無駄にデカい。面子が命の代紋背負った連中が権威を示すにゃ、こういうものが必要らしい。


 門を守る人影がある。


 見張りの緑肌――オークは黒服姿だった。


 身長およそ二メートル。デカい門にはデカいやつを立たせるという決まりでもあるのだろうか。


 胸筋よりも腹肉がぼっこりした体型だ。

 一見肥満に見えるが、こいつらオークは脳みそまで筋肉が詰まっていた。


 黒い遮光レンズのはまった眼鏡。腕組みして威圧感を振りまく。


 最初(はな)からスキンヘッドなもんで、髪型で詰めることもできない。メイヤ流美容術の敗北。


 下品な口。発達した犬歯はまるで牙である。


 ニンニク臭い息を私に吐きつけて、オークの用心棒が言う。


「人間が何の用だ?」


 アーク魔帝国には一定数人間がいる。主に奴隷としてこき使われたり、聖王国を追放された連中だ。


 この国じゃ魔族が一等臣民。亜人が二等市民。人間は三等下民になる。


 ま、人間は嘗められて当然ってか。


 ちな聖王国の聖都には、人間以外の種族は「いない」ことになっている。

 あちらじゃ亜人も魔族も人権を認められていない。

 家畜以下だ。


 人として扱ってもらえるだけ、魔都の方が温情かもしない。


 どっちもクソだなクソクソ! うんこ!


 さて、そろそろ通るか。


「庭師です。中に入れてください」

「はぁ? 今日はそんな予定入ってねぇぞ」

「緊急の案件なんです」

「事前の連絡も無しにか? だいたいテメェいつもの庭師じゃねぇよな」

「あの方は急病でつい先日、死にました」

「んなわけあるかッ! 昨日ピンピンしてたぞ!」


 あっ……庭師仕事してたの? ま?


「仕事終わりに死にました」

「何時頃だ?」

「夜のぉ……十一時くらいですかねぇ?」

「その時、オレはあいつと歓楽街で飲んでたんだが」

「そのあと死にました」

「朝までオールでさっきラーメン食って別れたばっかなんだよ!」

「ラーメンに当たって死にました」

「だったらなんでオレがピンピンしてる!?」

「胃腸が弱かったんでしょうね、庭師は」

「だいたいあいつは組長(おやじ)のお気に入りで、身元もしっかりしてるし弟子だのがいるとも訊いたことねぇぞ」

「最近、弟子入りしたんです」

「怪しいな……どこの組の差し金だ?」


 頭の中に脳みそ詰まってるタイプの珍しいオークだった。面倒くさい。

 こんなことなら相手を洗脳する魔法も学んでおけばよかった。

 理力(フォース)とともになんちゃらかんちゃら。


 巧みな話術に自信あり。メイヤ・オウサーになんでもご相談ください。


 チッ! と金属音。


 オークが腰のベルトから伸縮式の警棒を取り出した。身構える。臨戦モードである。

 すぐに得物を抜くなんて、血の気が多過ぎだ。


「誤解です。ただの庭師なんです。信じろ!」

「下手に出てたと思ったら急に風上に立つんじゃねぇよ!」


 もはや問答無用か。十分会話を楽しんだけど。


 オークが警棒を振りかぶる。

 穏便に済ませたかったのに、仕方ない。


 ぶぅん!


 と、警棒が私の側頭部目がけて振り抜かれた。


 私は短杖で弾く。攻撃をいなされてオークは首を傾げた。


「やっぱただの庭師じゃねぇな?」


 私は短杖に魔法力を込める。極大破壊魔法を限定的にまとわせて斬撃モードにセット。


 先日、聖都の大司教の私室で金庫をスパッとやったアレの応用だ。

 短杖は今や鋼鉄をも切り裂く剣となった。


「死神の鎌は気まぐれに首を飛ばすんだよ。貴様は自分自身が今日までの命かもしれないと考えたことはないのか? 一日一日を悔いなく生きているのか!?」

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」


 再びオークが殴りかかる。力任せの大ぶりだ。


 きっとこの男にはそれで十分だったんだろう。技術も技巧も修練もなく、筋力という才能をぶつけることで困難に打ち克ってきたに違いない。


 豪腕警棒を斬撃光の宿った短杖で切り飛ばす。


「なっ!? アダマン合金製だぞッ!?」


 いちいちリアクション。悪い気はしない。

 私は男の顔面に斬撃光を縦一閃。


 サングラスのフレームと低いオークの鼻先を綺麗にパカッと分断。


「ぎょわあああああああああああああああ! お、オレの鼻があああああ!」


 手で鼻を覆う。血が流れ出た。怖い。血とか苦手なんだけど。


 サングラスが左右に落ちて、オークのパッチリつぶらなお目々が、お天道様の元にさらされた。


「可愛い目をしてるじゃないの? 今からでもアイドル目指したら?」

「て、て、テメェ殺す! ぶっ殺すッ!!」


 逆上してオークは左手で鼻を押さえながら、大木みたいな右腕でテレフォンパンチ。

 私は短杖を左手に持ち替えてカウンターで――


 ビンタ。


 おビンタである。


 SMAAAAAAAAAAAASH!!


 オークの首が明後日の方向にぐにっと伸びた。


「――ッ!?」


 声にならない悲鳴を上げて巨漢が地に落ちる。


 白目を剥いて用心棒は気絶した。


 その頭を踏みつけ告げる。


「よかったな。私が死神ではなくて。わかったら二度と逆らわないでくださいね」


 聞こえてないだろうけど。


 念のため、蔓縄の種を撃ち込んで発芽させた。シンプルな後ろ手縛り。レア度ノーマル。終始、面白みのない男だった。


 組事務所の中には、こういうオークがうじゃうじゃいるんだろうな。

 面倒臭いから極大破壊魔法ぶっぱしたくなっちゃった。


 ま、やらんけど。


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------------------------- エピソード12開始 -------------------------

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