【本文】
その日、偶然事務所に詰めていた屈強なオーク100人ほどを倒して、私は母屋の奥へと進みました。
畳だとかふすまだとか障子だとか、だいたい全部ズタボロになっちゃったけど、仕方ないよね。
正当防衛を主張する不審者。メイヤ・オウサーです。
金屏風の間で小柄なオークの爺を発見。
ゴリラの群れに猿一匹。
構成員全員のされて戦意喪失したのか、私と対峙した瞬間に土下座である。
「ひいいいい! ゆ、許してくれ!」
「貴様がゴクド組の組長だな?」
「そ、そうだ。もうやめてくれ! 金で解決しようじゃないか! そうだ女もつけるぞ! いや、その腕買った! 是非うちの組織に来てくれんか?」
「黙れ。貴様には死すら生ぬるい」
組長は怯えながらちらりと顔をあげる。
「いったいワシがオマエに何をしたというんだ? 面識すらないだろうに」
「マフィアのボスなら心当たりが多すぎるんだろうな。では……クイズッ! 貴様は私になにをしたでSHOW!! チャンスは三回。もし、当てることができたらこのまま帰ってやる」
組長が身体を起こす。
「その言葉、まことか?」
「男に二言はない」
「もし当てられなければ……ワシは死ぬのか?」
「言っただろう。死すら生ぬるいと。命がけで考えろ」
組長は腕組みすると、じっと黙り込んだ。
一分ほど沈黙した後――
「わかった。オマエの家族がうちのしのぎのクスリで廃人化しちまったんだな」
「ブッブー! 不正解。貴様の罪を数えるとしよう」
私は三本指を立てると、薬指を折る。
「ではあれだ! 幼い頃のオマエを奴隷として売り払ったことだ!」
「ちがいま~す! さあ、残る指は一本だ」
私は人差し指を折る。必然的に中指だけが残った。
「ぐぬぬぬ……わ、わからぬ」
「迷うくらいには悪いことしてんだな?」
「組織を維持するためには仕方の無いことだったんだ! だからこそ、魔都のど真ん中に広大な庭付きの事務所を構えられて……あと一歩で皇族とコネクションを築くところなんだ! 今日の狼藉は不問に付す! だからワシの味方になれ!」
「説得してるつもりなの? むしろ挑発してる? さあ、答えな。私が貴様になぜ怒りを覚えているのかを」
果たしてこの組織の長に、理解できるだろうか。
百合に挟まれた男の悲しみと怒りが。
俯くとゴクド組長は上目遣いになった。
「ううっ……では……あれしかない」
「なんだ? 言って見ろ」
「百合の間に挟まれた……とか? あっ……そんなわけないかぁ。はっはっは」
こいつ……。
当てやがった。
「はははは? は?」
「その通りだ馬鹿野郎ッ!!」
私の不条理な拳が組長の奥歯を頬の上からメキョッっと折る。
「ぐあああああああああ! ひいいいい! なんで当たるんだぁ!」
「そこは当たったのに殴るのは酷いとか、そういうツッコミでしょうが! ツッコミ下手か!」
「そ、そうだ! 当たったのに殴るなんてひどいぞ!」
「貴様こそ一般人に不条理な行いをしてきたではないか!?」
「クスリはほしがるやつがいたからだ! ガキが奴隷になるのは生んで捨てる親がいるからだ!」
「だからってやっていいことと悪いことがあるでしょうに」
「ならば殺せ! あーもう殺してくれ! それで気が済むなら!」
開き直りやがったか。
さて――
一人殺せば犯罪者。
五十万人殺せば英雄。
こいつは殺しておくか。
なんかいっぱい恨み買ってそうだし。
私は組長の首目がけて蔓縄の種をぶち込んだ。
綺麗に縄でラッピングされた瞬間、組長の目が丸くなる。
「オマエ……まさか……」
「貴様が大娼館に圧力をかけた結果だ馬鹿野郎」
「そうでもしなけりゃ裏社会で登り詰められん! 皇族を裏から操ってワシはもっともっと儲けたいんじゃ! 戦争になりゃクスリが売れる! 物資の横流しでもっともっともおおおっと金が手に入る! なぜわからん!? 弱者を食い物にしてなにが悪い!!」
「…………」
久々にカッチーンとかブチィじゃなくて、普通にキレちゃった。
こいつみたいなのを野放しにしていたら、もっとたくさんの人が死ぬ。
人間、魔族、亜人関係なく。
ふん縛って蔓縄を犬のリードのように引っ張り、ゴクド組長を連れて行く。
目的地は自慢の庭園が一望できる渡り廊下だ。
縁側の柱に縄をくくりつけた。
「な、なにする気だ?」
「せめて貴様が一番気に入っている景色を見せてやろうと思ってな」
「や、やはりワシを殺すのか!? この極悪人!」
「極道に言われたか無いですねぇ。それに殺せって言ったのそっちでしょ?」
「や、やっぱり嫌だああああ」
そんな願いをした何人を殺してきたんですかね。
「良い庭だなぁ」
「そ、そりゃあ私財をなげうったワシの城だからなぁ」
「人の哀しみが生み出した歪んだ理想郷……貴様の目の前で破壊する」
「なっ!?」
私はポーチからミックス種をばらまいた。
ひと撒きで、いろんな植物が繁栄する特別仕様だ。
「ほーれ庭園をもっと素敵にリノベーション!」
私は舞うように種を四方八方、端正な枯山水から錦鯉の住む池やらなんやらにまで散布。
同時に魔法力を込めて即発芽育成を開始した。
なんということでしょう――
匠の技で平凡な日本庭園が緑に溢れていくではありませんか。
組長が発狂した。
「や、やめろおおおおおおお! 蒔くなああああ! 草を生やすなああああ!!」
「貴様の描いた夢の終幕だ」
私がパチンと指を鳴らせば、植物たちが一斉に花開き受粉し勝手に増え始める。
「ワシの……ワシの庭が……」
「よかったな組長よ。マジカル葛とマジカルミントとマジカルドクダミだ。葛きり作り放題。ミントアイス食べ放題。ドクダミ茶飲み放題だぞ」
「繁殖力強い植物ばかりではないかあああああ!」
ついでにマジカル笹も植えて伸ばす。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!」
「きっと貴様が死んだ後、立派な竹林になりますよ」
「ワシが……なぜワシが……あと少しで魔都の裏社会を牛耳れたというのに……」
百合で挟んだ恨みは恐ろしいのだ。
まあ、裏社会の大物なんだし余罪が無いわけもない。
マジカル笹が立派な竹林になり、庭園がうっそうと生い茂るジャングルになったところで――
「じゃ……死のうか」
「ううっ……うううっ……」
放心状態の組長の首を蔓縄でキュッとして、適当なところに吊す。
男は絶望の表情のまま息絶えた。
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