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12.晴れ、時々、ガチ勢


【本文】

 その日、偶然事務所に詰めていた屈強なオーク100人ほどを倒して、私は母屋の奥へと進みました。


 畳だとかふすまだとか障子だとか、だいたい全部ズタボロになっちゃったけど、仕方ないよね。


 正当防衛を主張する不審者。メイヤ・オウサーです。


 金屏風の間で小柄なオークの爺を発見。

 ゴリラの群れに猿一匹。


 構成員全員のされて戦意喪失したのか、私と対峙した瞬間に土下座である。



「ひいいいい! ゆ、許してくれ!」

「貴様がゴクド組の組長だな?」

「そ、そうだ。もうやめてくれ! 金で解決しようじゃないか! そうだ女もつけるぞ! いや、その腕買った! 是非うちの組織に来てくれんか?」

「黙れ。貴様には死すら生ぬるい」


 組長は怯えながらちらりと顔をあげる。


「いったいワシがオマエに何をしたというんだ? 面識すらないだろうに」

「マフィアのボスなら心当たりが多すぎるんだろうな。では……クイズッ! 貴様は私になにをしたでSHOW!! チャンスは三回。もし、当てることができたらこのまま帰ってやる」


 組長が身体を起こす。


「その言葉、まことか?」

「男に二言はない」

「もし当てられなければ……ワシは死ぬのか?」

「言っただろう。死すら生ぬるいと。命がけで考えろ」


 組長は腕組みすると、じっと黙り込んだ。


 一分ほど沈黙した後――


「わかった。オマエの家族がうちのしのぎのクスリで廃人化しちまったんだな」

「ブッブー! 不正解。貴様の罪を数えるとしよう」


 私は三本指を立てると、薬指を折る。


「ではあれだ! 幼い頃のオマエを奴隷として売り払ったことだ!」

「ちがいま~す! さあ、残る指は一本だ」


 私は人差し指を折る。必然的に中指だけが残った。


「ぐぬぬぬ……わ、わからぬ」

「迷うくらいには悪いことしてんだな?」

「組織を維持するためには仕方の無いことだったんだ! だからこそ、魔都のど真ん中に広大な庭付きの事務所を構えられて……あと一歩で皇族とコネクションを築くところなんだ! 今日の狼藉は不問に付す! だからワシの味方になれ!」

「説得してるつもりなの? むしろ挑発してる? さあ、答えな。私が貴様になぜ怒りを覚えているのかを」


 果たしてこの組織の長に、理解できるだろうか。


 百合に挟まれた男の悲しみと怒りが。


 俯くとゴクド組長は上目遣いになった。


「ううっ……では……あれしかない」

「なんだ? 言って見ろ」

「百合の間に挟まれた……とか? あっ……そんなわけないかぁ。はっはっは」


 こいつ……。


 当てやがった。


「はははは? は?」

「その通りだ馬鹿野郎ッ!!」


 私の不条理な拳が組長の奥歯を頬の上からメキョッっと折る。


「ぐあああああああああ! ひいいいい! なんで当たるんだぁ!」

「そこは当たったのに殴るのは酷いとか、そういうツッコミでしょうが! ツッコミ下手か!」

「そ、そうだ! 当たったのに殴るなんてひどいぞ!」

「貴様こそ一般人に不条理な行いをしてきたではないか!?」

「クスリはほしがるやつがいたからだ! ガキが奴隷になるのは生んで捨てる親がいるからだ!」

「だからってやっていいことと悪いことがあるでしょうに」

「ならば殺せ! あーもう殺してくれ! それで気が済むなら!」


 開き直りやがったか。


 さて――


 一人殺せば犯罪者。

 五十万人殺せば英雄。


 こいつは殺しておくか。


 なんかいっぱい恨み買ってそうだし。


 私は組長の首目がけて蔓縄の種をぶち込んだ。


 綺麗に縄でラッピングされた瞬間、組長の目が丸くなる。


「オマエ……まさか……」

「貴様が大娼館に圧力をかけた結果だ馬鹿野郎」

「そうでもしなけりゃ裏社会で登り詰められん! 皇族を裏から操ってワシはもっともっと儲けたいんじゃ! 戦争になりゃクスリが売れる! 物資の横流しでもっともっともおおおっと金が手に入る! なぜわからん!? 弱者を食い物にしてなにが悪い!!」

「…………」


 久々にカッチーンとかブチィじゃなくて、普通にキレちゃった。

 こいつみたいなのを野放しにしていたら、もっとたくさんの人が死ぬ。

 人間、魔族、亜人関係なく。


 ふん縛って蔓縄を犬のリードのように引っ張り、ゴクド組長を連れて行く。


 目的地は自慢の庭園が一望できる渡り廊下だ。

 縁側の柱に縄をくくりつけた。


「な、なにする気だ?」

「せめて貴様が一番気に入っている景色を見せてやろうと思ってな」

「や、やはりワシを殺すのか!? この極悪人!」

「極道に言われたか無いですねぇ。それに殺せって言ったのそっちでしょ?」

「や、やっぱり嫌だああああ」


 そんな願いをした何人を殺してきたんですかね。


「良い庭だなぁ」

「そ、そりゃあ私財をなげうったワシの城だからなぁ」

「人の哀しみが生み出した歪んだ理想郷……貴様の目の前で破壊する」

「なっ!?」


 私はポーチからミックス種をばらまいた。

 ひと撒きで、いろんな植物が繁栄する特別仕様だ。


「ほーれ庭園をもっと素敵にリノベーション!」


 私は舞うように種を四方八方、端正な枯山水から錦鯉の住む池やらなんやらにまで散布。


 同時に魔法力を込めて即発芽育成を開始した。


 なんということでしょう――


 匠の技で平凡な日本庭園が緑に溢れていくではありませんか。


 組長が発狂した。


「や、やめろおおおおおおお! 蒔くなああああ! 草を生やすなああああ!!」

「貴様の描いた夢の終幕だ」


 私がパチンと指を鳴らせば、植物たちが一斉に花開き受粉し勝手に増え始める。


「ワシの……ワシの庭が……」

「よかったな組長よ。マジカル葛とマジカルミントとマジカルドクダミだ。葛きり作り放題。ミントアイス食べ放題。ドクダミ茶飲み放題だぞ」

「繁殖力強い植物ばかりではないかあああああ!」


 ついでにマジカル笹も植えて伸ばす。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

「きっと貴様が死んだ後、立派な竹林になりますよ」

「ワシが……なぜワシが……あと少しで魔都の裏社会を牛耳れたというのに……」


 百合で挟んだ恨みは恐ろしいのだ。

 まあ、裏社会の大物なんだし余罪が無いわけもない。


 マジカル笹が立派な竹林になり、庭園がうっそうと生い茂るジャングルになったところで――


「じゃ……死のうか」

「ううっ……うううっ……」


 放心状態の組長の首を蔓縄でキュッとして、適当なところに吊す。

 男は絶望の表情のまま息絶えた。


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------------------------- エピソード13開始 -------------------------

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