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13.どっちつかずのバランスブレイカー


【本文】

 マフィアの本家を壊滅させがてら、魔都の市場でお買い物。


 魔貨は手持ちが少ないから、あまり贅沢はできないんだが、少し買いすぎた。

 家には腹を空かせた食べ盛りな子供たちが二人もいるんだしな。


 食料でパンパンになった紙袋を抱えて市場を出る。

 ほっと息をつく。


 日常が戻ってきた。生を実感した。

 魔都の町並みを行く人々の流れに身を任せ歩く。


 一人、殺(あや)めた。


 裏の組織やら任侠やらのすべてが悪いわけじゃぁない。

 地元を守るため組織化しちまった連中や、行き場の無い奴らが徒党を組んだ結果だ。


 品行方正にしろって方が無理だから、末端の荒くれたやつらがしでかすこともあるだろう。


 無論、私の視界に入った瞬間、成敗の対象だ。


 ただ――


 ゴクド組の組長はやりすぎたのだ。安全な場所から戦争を煽って利益享受。


 百合の間に男を挟む百合よりも、邪悪な存在だった。


 ペラペラおしゃべりしなけりゃ、庭のリフォームだけで済ませてやったものを。


 私は戦争と百合の間に挟まる男が嫌いだ。


 私は殺しをしないわけじゃない。


 私は命の天秤が平等であって欲しいと願う。


 だから――


 五十万と一人なら、一人を選ぶ。


 聖都の主戦論者が先月立て続けに三人消えたのも偶然じゃない。


 それでも聖王は止まらなかったけど。


 人気の無い裏路地に入って立ち止まった。


「ハァ……やっぱ聖王か魔帝倒すしかないんかねぇ」


 転移魔法も覚えたんで即実行可能状態だ。


 問題は――


 たぶん聖王にせよ魔帝にせよ、無茶苦茶強い。寝込み襲って互角ってとこだろう。


 相打ちになるかもしれん。


 で、片方の戦力がゴリッと削れると、残る一方が攻め込んで戦火が広がるってわけ。


 バカみたい。


 私がどっちかについて、即時降伏させるってのも手だけどね。


 負けた方の国民がどんな扱いを受けるかはお察しである。


 多分世界の方も、私に命運握られてることをバカらしく思っているに違いない。


「私が消えたら消えたで内圧が上がって、そのうち全面戦争だろうしなぁ」


 今は中央平原でキャンプしながら、両国が「先に動いたら不利になる」と牽制しあってもらうのがやっとだ。


 現状維持。遅延行為。


「ま、なるようにしかならんか」


 その場で軽くジャンプして転移魔法。

 景色がぐるんと回って、着地と同時にナナシ川沿いのキャンプ地に舞い戻った。


「ただいま~!」


 お昼前に帰宅できた。


 二人は河原の土手の草原に転がっていた。

 シャンシャンが淫魔に背後から密着されて、大きな胸を背中にぐいぐい押し当てられている。


「あっ! おかえり~! はむ……むちゅ」

「耳たぶ食べないで! やだ! お、おっぱい押しつけてくるのケンカ? ケンカ売ってんでしょ!?」

「じゃあじゃあサキュルのおっぱい好きにしていいよ」

「そういう問題じゃないから!」

「スンスン……シャロンの匂い……焼きたてのパンみたいで美味しそう」

「嗅がないで! 恥ずかしいわ! もう堪忍してぇ」


 淫魔になぶられ元聖女が涙目で助けを求める。


「ふむ。良い眺めだ」


 まるで子猫同士の毛繕い。実に実に実に微笑ましい光景だ。

 淫魔が私に手招きした。


「メイヤも一緒にシャンシャンと遊ぼうよ!」

「貴様吊されたいのかッ!! ほら食料買ってきたからじゃれ合ってないで飯にするぞ」

「「はーい」」


 食欲には勝てなかったようで、淫魔も元聖女もテントに駆け寄ってきた。


 この二人が仲良くできるのに、国同士となると上手くいかないものである。



 サキュルがホットサンドにかぶりつく。


「むは~! なにこれ超おいしいんだけど! パンの外はカリカリで中からトマトとチーズがとろっとろ! スモーキーなベーコンの脂のうま味に目玉焼きのボリューム感が最高!」


 シャンシャンも目尻をトロンと落とした。


「海老がプリップリで命が凝縮されたみたいな味ね。アボカドマヨネーズとの相性もばっちりかも。メイヤさんって、こんなに料理上手なのに彼女いないの?」

「今完全に売ったよなぁ? 私だって不思議だ!」

「やっぱり人間性とか協調性とかが必要なのかもしれないわね」

「うっせー余計なお世話ですよ追放聖女が!」

「あーっはっはっは! おっかしい!」


 小娘は笑い泣きしていた。


「けど、無事に帰ってきてくれてホッとしたわ」

「心配にはおよばん。私は強いからな」


 食後のコーヒーの準備に取りかかる。


「淫魔はコーヒー飲めるか?」

「えっと……えっと……ちょっと苦手かも」


 シャンシャンが「苦手な人でもメイヤの淹れたコーヒーは不思議と飲めちゃうくらいおいしいわよ」と一言。


「じゃじゃじゃじゃあ飲む! 挑戦してみる!」


 良い返事だ。


 底の煤けたヤカンを火に掛ける。沸騰を待つ間に魔都でのいきさつを二人に話した。


 大娼館の女館主にお仕置きし、ケツ持ちマフィアのボスを倒したこと。


 サキュルがぽかんと半口開ける。


「え? え? 大娼館を? その裏のゴクド組壊滅!? ちょっと意味わかんない……けど、そっか。サキュルはPONだから要らない子にされちゃったんだ」


 千人に一人の逸材とか女館主が言っていたな。


「コーヒー飲み終わったら魔都には帰らずどっかの地方都市で静かに暮らせ」

「ええぇ!? やだやだやだやだ! サキュルもここに置いてよ!」

「ダメだ。貴様を罰する者たちはもういない。修道院送りも無しだ。だったら魔帝国でやり直せるだろ」


 どうして居着こうとするんだ。まったく。

 ポンコツ淫魔は平伏した。おっぱいが地面に押しつぶされて、なんとも窮屈そうな香箱座りに見える。


「なんでもするからぁ!」

「家族はいないのか?」

「うんと……いるけど帰るとまずいっていうか……サキュルは絶対に実家に帰れないから」


 訳ありか。

 しかも話せないような理由。


 シャロンが私の服の袖を掴んだ。


「ねえ、良いじゃ無い一人増えたなら二人になっても」

「なに!? 貴様淫魔に迷惑を被っているのではないのか!?」

「そ、それはちょっとやり過ぎっていうか、困るわよ! 困るんだけど……帰る場所も居場所もないなんて可愛そうじゃない」

「元聖女様ムーブですかそうですか」

「茶化さないで。サキュルさん自身がここに居たいって思える場所を、やっと見つけたみたいだし。あたしも同じだから……」


 ソロキャンプが二人キャンプになって三人へ。


 もうこれただのキャンプですよ。


 サキュルがうんうんと何度も上半身を上下させた。胸、暴れてますよ。薄布から今にもはみ出そうなスリリングさだ。


「わ、わかった。もういい。が、先に言っておくぞサッキー」

「サッキー? あ! サキュルにも名前をつけてくれるんだ! うん! なになにメッキー?」

「私のことはメイヤさんと呼べ」

「わかったメイヤ!」


 こいつわかってねぇ。訂正するだけ無駄かもしれん。


「いいかサキュバスよ。もし貴様が誰かに人質にとられたりしても、私は絶対に助けない。100%見殺しにする。それでもいいなら、自立できる状況が整うまで居住を許可してやる」

「ありがとうメイヤ! サキュルもがんばって役に立つよ!」


 人質にされた時の件とか、普通にスルーしてないか。


「早く自立しろよ」

「サキュルにそれができるとお思いですか? ふふん♪」


 立ち上がり、下乳支え腕組みドヤ顔である。この淫魔、宛名の無い小包にしてランダムでどっかに飛ばした方が良かったかもしれん。


「よかったわねサキュルさん」

「シャロンのおかげだよ~! あんがとね~!」


 二人は両手でハイタッチした。


 ちょうどヤカンの口から蒸気が吹き出る。火から下ろしている間に豆を挽かねば。


 用意するカップは三つ。


 テント……二人でも手狭なのに三人川の字とか無理すぎる。


 さてと、どうしたもんか。


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