【本文】
ひとっ走り(転移魔法)して聖王都のダンキホーテで寝袋買ってきた。
しばらく二人にテントを明け渡し、私は夜空と共に眠ろうと思う。
で、キャンプに戻って早々、サキュルが平伏した。
「改めて今日からお世話になります。サキュルはシャロンからメスを学んで、立派な淫魔になることをここに誓います」
あっ……そう。
シャンシャンはといえば――
「あ、あたしから学ぶことなんてないわよ!」
「くぅ~! そういう慎ましやかなと・こ・ろ♪ シャロンは可愛いね!」
ダメだこの淫魔。宣言早々頭の中身がパリピ男子である。
元聖女が私を見る。
「もしもの時はサキュルのこと、止めてくれるわよね?」
「は? 営業でも本気でも百合の花咲き乱れるところ、私は遠方からそっとしておくぞ」
「どうしてよ!」
「困るというならメスを学ばせることだな」
「だ、だからあたしじゃ……」
眉尻を下げたシャンシャンに、サキュルは立ち上がると一礼した。
「先生! 師匠! おなしゃす!」
「だそうだシャンシャン。ちゃんと女の子らしさを叩き込んでやれ」
「う~! 物は言い方よね。わかったわ。サキュルさんの女子力アップに努めればいいのね」
淫魔は尻尾をピンっとおっ勃(た)てる。
「ありがとねシャロン! サキュルは立派なメスになるよ!」
胸をばい~んと張って淫魔は胸元をグーでトンと叩く。おっぱいドラミング。
シャロンは俯いた。
「教える前からあたし、負けてない? 負けたと思ったでしょメイヤさん」
「どんまいシャンシャン」
「あ~! もう、度しがたいほど諦めてるじゃない。どうしていい感じに慰めてくれないのよ? もっとフォローしてくれたって、バチはあたらないでしょ?」
プンプンなシャロンをみてサキュルは「なーほーねー。勉強になるなぁ」と腕組み納得頷き連打。
たぶんわかってないな。こいつ。
と、淫魔はぽんっと手を打った。
「ところでさぁ、チーム名どうする?」
「急にどうしたサッキーよ」
「わぁい! サキュルのことニックネームで呼んでくれるんだねメイヤ! だーい好き!」
淫魔がぽふんと抱きついてくる。
ここまでは許せる。
「いいかシャンシャン。貴様は抱きつくなよ」
「しないわよ! 挟まれたくないんでしょ? 人が嫌だと思うことはしないようにしてるの」
サキュルが私に胸をぎゅっぎゅと押しつけてくる。
「じゃあタイマンで対よろしちゃおっかなぁ」
途端に元聖女が私を反対側から挟んできた。
「だ、ダメ! メイヤさんを誘惑しないで!」
「ぐああああああ! 挟むんじゃねええええええええええ!」
苦悩する私に淫魔は楽しそうにキャッキャと笑った。
サキュルを振りほどき元聖女を「はい、離れた離れた」と説得する。
シャンシャンは「え、あ……うん」と聞き分けが良かった。
話を戻そう。
「で、チーム名がなんだって淫魔よ?」
「なんかあった方がよくない? 自己紹介する時とかさ。いにしえの昔から、三人組って○○団とか○○一味みたいなのがあるし」
長居するどころか元聖女も巻き込んでいくスタイルか。
シャンシャンも人差し指を自身の顎先に当てて首を傾げる。
「確かに、あたしたちってどういう集まりなのかしら?」
別にどうもこうもないと思いますけどね。
と、サキュルが「ハイハイハーイ!」と挙手。
「なんだサッキー?」
「チーム名はサキュルと愉快な仲間たち! で、どう? 良くない?」
「却下だ!」
「な、なしてぇ? いいじゃんいいじゃん」
「一番最後に加わった奴がセンターとるんじゃないよ。ったく」
淫魔は口をとがらせ元聖女に訊く。
「シャロンはどう? 賛成だよね?」
「う~ん、このキャンプはメイヤさんがリーダーだと思うし、愉快な仲間はあたしたちじゃないかしら?」
「ええぇ~? そうなのぉ?」
何びっくりしてんだこの淫魔は。
元聖女が私に訊く。
「メイヤさんは良い名称あるかしら?」
「THE 他人」
サキュルが「それはライン越え! 事実陳列罪だよメイヤ!」とご立腹だ。
「実際そうだろうが」
「う~! そうだ! ここは平等にシャロンに決めてもらおうよ」
どういう基準でシャンシャンにお鉢が回るのか。これがわからない。
元聖女は困り顔だ。
「良い案は浮かばないけど、他人だとあたしもちょっと寂しいわ」
寂しい……なんて、情が移るような事を言うんじゃないよ。
と、淫魔が胸を張った。
「他人じゃないならぁ……家族とかどう? サキュルね! ずっと独りぼっちだったから、家族に憧れてるんだよね!」
「知るかそんな事情。却下だきゃ……どうしたシャンシャン?」
元聖女の瞳が輝いた。
「あたしも家族っていいと思うわ!」
「でしょでしょ~! はい多数決。二対一で家族に決定!」
「けどサキュルさん。ただの家族じゃちょっと一般名詞すぎないかしら?」
「そだねー。えーと、美女揃いの淫魔の中でも千人に一人の逸材のサキュルでしょ~! で、シャロンは元第一級聖女様。で、メイヤは神出鬼没のヤクザスレイヤー。なにこれおもろ! 統一感ゼロじゃん」
勝手に話を進めるんじゃない。と、止める間もなくシャンシャンが――
「あたしたち、今日からおもしろ家族ね!」
「チーム名決定やったー!」
少女二人はハイタッチした。
「私の意見は無視ですかそうですか」
「それが多数決よ。諦めてちょうだいメイヤさん」
「そーだそーだ! メイヤだからってなんでも自由にはできないんだぞ!」
それは……そう!
「わかった。好きにしろ」
そして――
戦争が始まった。
シャロンとサキュルがにらみ合う。
「うー! シャロン違うってそれ絶対解釈違いだから!」
「サキュルさんの方こそ冷静になって。どう考えてもあなたの方がおかしいわ!」
割と仲良しに見えていたのに、こんな些細なことでぶつかり合うなんて。
「私のためにケンカはやめて」
一生で一度は言ってみたい言葉ランキング78位くらいのセリフである。
「「メイヤ(さん)は黙ってて!!」」
ケンカしてても息ぴったり。
シャンシャンが吠える。
「どう考えてもメイヤさんはパパでしょ?」
サキュルが吠え返す。
「メイヤはママに決まってんじゃん!」
家族に当てはめた結果――
よくわからんことになってしまった。
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