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14.君たちはどういうアレなの?


【本文】

 ひとっ走り(転移魔法)して聖王都のダンキホーテで寝袋買ってきた。


 しばらく二人にテントを明け渡し、私は夜空と共に眠ろうと思う。


 で、キャンプに戻って早々、サキュルが平伏した。


「改めて今日からお世話になります。サキュルはシャロンからメスを学んで、立派な淫魔になることをここに誓います」


 あっ……そう。


 シャンシャンはといえば――


「あ、あたしから学ぶことなんてないわよ!」

「くぅ~! そういう慎ましやかなと・こ・ろ♪ シャロンは可愛いね!」


 ダメだこの淫魔。宣言早々頭の中身がパリピ男子である。

 元聖女が私を見る。


「もしもの時はサキュルのこと、止めてくれるわよね?」

「は? 営業でも本気でも百合の花咲き乱れるところ、私は遠方からそっとしておくぞ」

「どうしてよ!」

「困るというならメスを学ばせることだな」

「だ、だからあたしじゃ……」


 眉尻を下げたシャンシャンに、サキュルは立ち上がると一礼した。


「先生! 師匠! おなしゃす!」

「だそうだシャンシャン。ちゃんと女の子らしさを叩き込んでやれ」

「う~! 物は言い方よね。わかったわ。サキュルさんの女子力アップに努めればいいのね」


 淫魔は尻尾をピンっとおっ勃(た)てる。


「ありがとねシャロン! サキュルは立派なメスになるよ!」


 胸をばい~んと張って淫魔は胸元をグーでトンと叩く。おっぱいドラミング。


 シャロンは俯いた。


「教える前からあたし、負けてない? 負けたと思ったでしょメイヤさん」

「どんまいシャンシャン」

「あ~! もう、度しがたいほど諦めてるじゃない。どうしていい感じに慰めてくれないのよ? もっとフォローしてくれたって、バチはあたらないでしょ?」


 プンプンなシャロンをみてサキュルは「なーほーねー。勉強になるなぁ」と腕組み納得頷き連打。


 たぶんわかってないな。こいつ。


 と、淫魔はぽんっと手を打った。


「ところでさぁ、チーム名どうする?」

「急にどうしたサッキーよ」

「わぁい! サキュルのことニックネームで呼んでくれるんだねメイヤ! だーい好き!」


 淫魔がぽふんと抱きついてくる。

 ここまでは許せる。


「いいかシャンシャン。貴様は抱きつくなよ」

「しないわよ! 挟まれたくないんでしょ? 人が嫌だと思うことはしないようにしてるの」


 サキュルが私に胸をぎゅっぎゅと押しつけてくる。


「じゃあタイマンで対よろしちゃおっかなぁ」


 途端に元聖女が私を反対側から挟んできた。


「だ、ダメ! メイヤさんを誘惑しないで!」

「ぐああああああ! 挟むんじゃねええええええええええ!」


 苦悩する私に淫魔は楽しそうにキャッキャと笑った。


 サキュルを振りほどき元聖女を「はい、離れた離れた」と説得する。


 シャンシャンは「え、あ……うん」と聞き分けが良かった。


 話を戻そう。


「で、チーム名がなんだって淫魔よ?」

「なんかあった方がよくない? 自己紹介する時とかさ。いにしえの昔から、三人組って○○団とか○○一味みたいなのがあるし」


 長居するどころか元聖女も巻き込んでいくスタイルか。


 シャンシャンも人差し指を自身の顎先に当てて首を傾げる。


「確かに、あたしたちってどういう集まりなのかしら?」


 別にどうもこうもないと思いますけどね。


 と、サキュルが「ハイハイハーイ!」と挙手。


「なんだサッキー?」

「チーム名はサキュルと愉快な仲間たち! で、どう? 良くない?」

「却下だ!」

「な、なしてぇ? いいじゃんいいじゃん」

「一番最後に加わった奴がセンターとるんじゃないよ。ったく」


 淫魔は口をとがらせ元聖女に訊く。


「シャロンはどう? 賛成だよね?」

「う~ん、このキャンプはメイヤさんがリーダーだと思うし、愉快な仲間はあたしたちじゃないかしら?」

「ええぇ~? そうなのぉ?」


 何びっくりしてんだこの淫魔は。

 元聖女が私に訊く。


「メイヤさんは良い名称あるかしら?」

「THE 他人」


 サキュルが「それはライン越え! 事実陳列罪だよメイヤ!」とご立腹だ。


「実際そうだろうが」

「う~! そうだ! ここは平等にシャロンに決めてもらおうよ」


 どういう基準でシャンシャンにお鉢が回るのか。これがわからない。


 元聖女は困り顔だ。


「良い案は浮かばないけど、他人だとあたしもちょっと寂しいわ」


 寂しい……なんて、情が移るような事を言うんじゃないよ。


 と、淫魔が胸を張った。


「他人じゃないならぁ……家族とかどう? サキュルね! ずっと独りぼっちだったから、家族に憧れてるんだよね!」

「知るかそんな事情。却下だきゃ……どうしたシャンシャン?」


 元聖女の瞳が輝いた。


「あたしも家族っていいと思うわ!」

「でしょでしょ~! はい多数決。二対一で家族に決定!」

「けどサキュルさん。ただの家族じゃちょっと一般名詞すぎないかしら?」

「そだねー。えーと、美女揃いの淫魔の中でも千人に一人の逸材のサキュルでしょ~! で、シャロンは元第一級聖女様。で、メイヤは神出鬼没のヤクザスレイヤー。なにこれおもろ! 統一感ゼロじゃん」


 勝手に話を進めるんじゃない。と、止める間もなくシャンシャンが――


「あたしたち、今日からおもしろ家族ね!」

「チーム名決定やったー!」


 少女二人はハイタッチした。


「私の意見は無視ですかそうですか」

「それが多数決よ。諦めてちょうだいメイヤさん」

「そーだそーだ! メイヤだからってなんでも自由にはできないんだぞ!」


 それは……そう!


「わかった。好きにしろ」


 そして――


 戦争が始まった。


 シャロンとサキュルがにらみ合う。


「うー! シャロン違うってそれ絶対解釈違いだから!」

「サキュルさんの方こそ冷静になって。どう考えてもあなたの方がおかしいわ!」


 割と仲良しに見えていたのに、こんな些細なことでぶつかり合うなんて。


「私のためにケンカはやめて」


 一生で一度は言ってみたい言葉ランキング78位くらいのセリフである。


「「メイヤ(さん)は黙ってて!!」」


 ケンカしてても息ぴったり。


 シャンシャンが吠える。


「どう考えてもメイヤさんはパパでしょ?」


 サキュルが吠え返す。


「メイヤはママに決まってんじゃん!」


 家族に当てはめた結果――


 よくわからんことになってしまった。


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------------------------- エピソード15開始 -------------------------

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