【本文】
川のせせらぎ鳥の声。
さんさんと降り注ぐ日差しと、草原の匂いを運ぶ穏やかな風。
豊かな自然に恵まれた中央平原で。
私を中点にして元聖女と淫魔がにらみ合う。
達人の間合いだ。
先に動いたのは――
シャンシャンだった。
「メイヤさんはパパ。これは絶対よ」
後手、サッキーが首を傾げる。
「なんでぇ?」
「サキュルさん冷静になって考えてみて。中性的な顔立ちで美男子だけど、肩幅は広いし背も高くて筋肉質でしょ? イケメンだと……お、思うわけ」
「顔いいよねぇ。けど、ムキムキ系女子かもしれないじゃん!」
「ふふん……女子……じゃないわよね?」
「なら美女! 美妖女ママ!」
「あたしが指摘しているのは、年齢のことじゃなくて性別よ。メイヤさんは生物の分類として男でしょ。はい論破」
「男の人がママになっちゃいけない理由ってなくない?」
私を勝手に妖艶なオカマに仕立て上げないでもらいたい。
淫魔が下乳支え腕組みで胸をぶるんと張る。
尻尾をぴしゃんぴしゃんと鞭のようにしならせた。
「だいたいさぁ、メイヤって時々オネエ言葉じゃん。シャロンもさっき『メイヤさんって話し方さえまともなら、もっとモテると思う』って言ってたじゃん」
「ちょ! やめ! なんで暴露するわけ?」
「ともかくメイヤはしゃべり方がママなの。はい論破」
そんなことないあるわよ。
シャンシャンは引き下がらない。
平らな胸をぐいっと張った。下から支えるものもなく、対抗するだけ虚無(きょむ)るぞ。
「家族の長は父親って決まってるでしょ?」
「けどメイヤは料理上手だよ? ママじゃん」
「そ、それはえっと……料理が出来る男の人って素敵でしょ」
「んもー! サキュルはママに甘えたいの! だからメイヤにはママになって欲しいの!」
「自分の願望に素直すぎるわよ! だ、だったら、あたしはパパがいいな……って」
「それにさ、もしメイヤがママだったらすごく良いことがあるんだけど」
はて、私としてはどっちでも大差ないのだが、違いなんてあるんだろうか。
元聖女が不安げに訊く。
「な、何よその良いことって」
「百合の間に男が挟まるからメイヤは拒絶反応を示す……ってこと。つまり、メイヤがママで女子ならそれは合法百合3Pなわけ! これって革命的じゃない?」
「あ~なるほどね! そういうことなら……」
揺らいでるんじゃねぇ仮にも聖女だっただろうに。
シャンシャンが私に向き直る。
「あ、あの……参考までになんだけど、メイヤさんはどっちかといえば、どっちなのかしら?」
淫魔も七色の光彩を放つ瞳でじっと見つめてきた。
「もちろんママだよね? ママになってよ! いや、おまえがママになるんだよ!」
「おまえっていうなーッ!」
「ひいっ! さーせん!」
どうやら私が決めれば済むことらしい。
「うむ……では私はパパでありママだ。なお、パパ要素を含むので百合には該当しない。よって挟むのを禁ずる。このガイドラインに抵触した場合、折檻尻百叩きを執行する」
と、淫魔がうずくまってこちらにお尻を高くあげた。
尻尾がピンと天を刺す。
「Come Onッ!!」
「貴様さては……相当なバカだな」
世の中には尻を叩かれて喜ぶ輩もいるということを、私は思い出した。
シャンシャンが「ふぅ」とため息吐息。
「ええと、結局どうなったの?」
「パパでもママでも好きにしろ」
どのみち保護者の立場に変わりなし。
って、保護するつもりなんて毛頭無いんだが。
ああもう。まったく。二人揃って守護(まも)ってやらねばならんとは。
いや、そんな義務はない。こいつらが捕まろうが酷い目に遭わされようが処刑されようが……多くの命と天秤にかけたなら、どちらが重いかは明白である。
私は命は平等であると考える。メイヤ・オウサーは誇り高き孤独を選んだはずだ。
けど――
二人を見ていると、家族というのも悪くないように思えてしまった。
まあ、普通じゃないおもしろ家族なんですけどね。
淫魔が啼(な)いた。
「ね~! 早く~! じらしプレイなの? 腰とお尻突き上げてる姿勢結構大変なんだからぁ!」
「尻をくねらせるな」
「あのねメイヤ! お尻叩かれてる時にサキュルが痛いって言ったり悲鳴あげたりするかもだけど、それは気持ちよさの裏返しだから。責められてぞくぞくしてるだけのメスマゾ豚の嘶(いなな)きだと思って欲しいんだ。本当にヤバイって思ったら『アップルパイ!』って言うから、その時はストップかけてね」
「貴様がチェンジマンな理由がよくわかった」
「今の地味に心に刺さるんだけどぉ。んもー! やめてよぉ! 淫魔だって一生懸命がんばって生きてんだよ? あ! シャロンも女の子のお尻を叩いてケツドラムしてみたかったら、サキュルのお尻使ってね?」
元聖女は困り顔だったが――
右手にまばゆい光の魔法力をまとわせた。
聖属性。光系統の力である。
パッと見、結構レベル高めだ。第一級聖女とは聞いていたが、こいつ……強いかもしれん。
「じゃあメイヤさんの代わりに、あたしがペンペンしてあげるわね」
「わーいやったー! 早く早くぅ!」
猫が腰トントンを要求するように、サキュルはプルプルプルっと尻尾を揺らした。
「行くわよ。シャイニングホーリー……ストライクッ!」
光をまとった平手打ちがサキュルの尻肉たぶに炸裂。そして――
「アップルパアアアアアアアアイ!」
一撃粉砕。尻が三つに割れる瞬間であった。
・
・
・
しばらく地面にヤムチャ(誰だっけ)していた淫魔が、やっと身体を起こす。
お尻をさすって一言。
「シャイニングとホーリーは勘弁してくだざい。弱点特攻っす」
「あたしの勝ちね。じゃあ、メイヤさんはパパってことで」
「そ、それとこれとは話が別だよ! メイヤはどっちでもいいって言ってるんだし。ね?」
私は「うむ」とだけ返した。
シャンシャンも「じゃあ、しょうが無いわね」と折衷という名の妥協案を受け入れる。
「はい、じゃあ二人とも握手。仲直りの握手しろ。命令だ」
「「命令なの!?」」
と、同時にツッコミつつも、二人は手を握り合って和解成立。
対立構造は消滅し、ようやく中央平原に平和が甦ったな。
めでたしめでた……
「ところでシャロン」
「なにかしら?」
「やっぱりおっぱいがおっきいサキュルの方がお姉ちゃんだよね?」
「は? 今なんて?」
「だ~か~ら~! おもしろ家族のパパ兼ママがメイヤなら、長女を決めなきゃって……こと」
「そんなの、あたしに決まってるじゃない」
「ええ!? なんで? サキュルの方が色々おっきいし」
「大きさの問題じゃないわよ。あたし、生き別れの妹がいるの。リアル長女なの」
「はうっ……け、けどそんなの関係ねぇ! サキュルお姉ちゃんやりたいのやだやだやだー!」
「あたしの方が先にメイヤさんに拾ってもらったのよ? 順序的にも長女ポジションは譲れないわ」
「長女が先着順なんておかしいよ!」
「兄弟姉妹ってそもそも生まれてきた先着順でしょ」
「シャロン何歳?」
「十六歳……だけど?」
「じゃあサキュルは五百歳! はい勝ち!」
ババアじゃねぇか。
シャンシャンの右手が神々しく輝く。
「年齢詐称してないわよね?」
「ひいいいいごめんなさいごめんなさい! 十七歳です! って、あれ? やっぱサキュルの方が年上のお・ね・え・さ・ま……じゃん! これは長女待ったなしですわぁ」
「うっ……そうなの!?」
「生まれた先着順なら当然、サキュルがお姉ちゃんだよね? ね? ね?」
今度は元聖女が私に泣きついてきた。
「メイヤさん! 長女ポジションは、あたしが適任だと思うのよ!」
サキュバスも胸を揺らして訴える。
「お姉ちゃんには豊胸……もとい! 包容力! コレ! 実年齢でも上なんだしサキュル一択っしょ?」
雁首並べて長女アピ。正直――
「どーでもいいんだが」
「「よくない!」」
二人勝手に決めてくれ。
で、話し合いの結果――
どっちも長女を主張することになりました。
私がパパでママで長女が二人かぁ。
たまげたなぁ。
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