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20.おもしろ家族の外貨獲得計画


【本文】

 発端は第一長女の一言だ。


「そもそもメイヤさんってどうやって稼いでるの?」


 続く第二長女がはやし立てる。


「知りたい知りたーい! 働いてないのにどうやって? サキュルも週一回犬撫でるだけで五億魔貨稼ぐお仕事に就きたいよ~!」

「そんな仕事があったら私に紹介しろ。完璧にこなしてやる」


 で、今……三人で森に来てます。


 鬱蒼と茂る中、堆積した枯れ葉の絨毯を踏みしめる。


 シャンシャンが首を傾げた。


「いつもの薪を拾う森よね。ある意味職場ではあるけれど」


 サキュルもそこかしこをキョロキョロした。


「ここに五億あるの? 金塊? もしかして秘密の埋蔵金!?」

「あるか! んなもん」


 長女どもは二人並んで腕組みすると口を尖らせた。


「仕事の内容によってはお手伝いできると思ったのに、これじゃ協力もできないわ」

「五億もらえないの? なんで!?」


 なんでなんでしょうね。常識に照らし合わせてお考えクダサイ。


 クソッ! 最近の私はすっかりツッコミ役が板についてきたではないか。


 そろそろヘラってキチムーブかまさないと、常識人になってしまう。

 どこかに手頃な悪党はいないものか。


 悪人しばかないとおかしくなっちまうよ。ったく。


「貴様ら耳をかっぽじって拝聴しろ。私こそがスーパーカリスマ薬草摘み師のメイヤ・オウサーだ。なんと国家資格の薬草摘み三級を所持しているのだぞ」


 サキュルが尻尾をピンと立てた。


「え!? 国家資格なの? それってすごそうなんだけど!?」


 シャンシャンが淫魔の肩にそっと手を置く。


「落ち着いてサキュルさん。三級よ? つまり上から一級、準一級、二級とあっての三級ってことでしょ?」


 カチッと久々にスイッチが入りそうだ。


「なんだ文句あるかぁ!? 三級でも立派な資格だがぁ?」

「なら第一級聖女のあたしの方がすごくない? もっと褒めてくれてもいいんだけど」

「元だろ元聖女様がよぉ」


 サキュルがふふ~んと自信満々に胸を張った。毎度おなじみのゆっさたゆんだが、見飽きないものである。男のサガ……ってね。


「じゃあじゃあ千人に一人の逸材の方がすごくない?」

「第一級聖女の倍率の方が高いわよ?」

「えー? そうなのぉ?」

「疑問視しないでよ!」

「となるとぉ……やっぱ三級のメイヤが一番ショボくない?」

「薬草摘み三級なんて子供でも取れる資格よね?」


 急に二人して私に詰め寄った。


「う、うるさいぞ黙れ。昇級試験が面倒で受けてないだけだ。実質、一級以上の実力だからな」


 シャンシャンが顎先を指でつまんで子リスみたいに首を傾げる。


「つまり薬草を町に売りに行って生計を立ててたのね?」

「精製器材があればポーションにするところだがな」

「器材揃えればいいんじゃないかしら?」

「置き場が無いでしょうがよぉ! 分かってて言ってますかーシャンシャン?」


 元聖女はベッと舌を出して「それもそうね」である。


 最近、遠慮がない。


「見つけやすい薬草は一通り摘んじまったんでな」


 一方で――


 第二長女が雑草をむしってもってきた。

 人の話を聞かないことには定評がある淫魔である。


「ねえコレ! 薬草? 薬草でしょ?」

「適当に見繕うなサッキーよ」

「なーんだ雑草かぁ」

「雑草なんて草はありません! 雑草に失礼でしょうがッ!!」

「ひいっ! メイヤだって雑草扱いしてんじゃん!」


 近場の森のめぼしい薬草は頼れない。

 若い芽は残しておかねばならない。

 魔法力で育成させてもいいが、それだと回復成分が基準値を超えちまう。


 足がつく。まず間違いなく。


 前に一度、私が促成した薬草を使ってポーションを作った錬金術師がいたんだが、ハイポーションどころかエクストラポーション級になってしまって、一部界隈で高額ポーションの値崩れが起こってしまった。


 魔法薬学科の教授と私がバチギスった遠因だ。私の善意はあのクソ教授の利権に土足で踏み込んでしまったらしい。目の敵である。


 ま、今となっちゃどうでもいいんだが。


 ともあれ促成栽培品の売却をすれば、仲介した連中が魔導学院の薬学界隈に潰されかねない。


 と、シャンシャンが。


「メイヤさんは聖王国にとって国家を揺るがす大罪人よね? 三級資格も失効してるでしょうし、そもそも買い取ってもらえるものなの?」

「そこらへんはほら、適当に金握らせてやってるから。聖王国だろうと魔帝国だろうと、どこにだって腐ったヤバイ奴はいるんでな」


 先日の鳥貴族ことコッコ鶏の買い取りも、同じ要領だ。


 私は決して、悪人絶対に殺すマンではない。


 この世の幸福には絶対値があって、大なり小なり同じパイの奪い合いをしている。

 私が覚悟を決めるのは、文字通り他者を食い物にし、絞り尽くすだけの限度を超えた連中のみ。


 サキュルが私を指さして笑った。


「一番ヤバイ人が渋い顔してなんか言ってらぁ~! あっはっはっは!」

「うるせええええええええっ!!」

「あっごっめ~ん♪ 事実陳列罪しちゃったかも」

「貴様も大概だぞ、ご指名ゼロ人」

「ぎゃああああああああああああああああああッ! やめてよぉ! 泣いちゃうからぁ!」


 元聖女はため息だ。


「ハァ……じゃあ薬草で五億は稼げないのね」

「欲望はみ出てんぞ元聖女。無理くり摘めなくもないが、残ってるのは未成熟な芽だ」


 サキュルが挙手する。


「じゃあじゃあメイヤお得意の魔法でバキューン! って育てちゃえば?」

「それやって売ると聖王国じゃ色々問題になるんでダメだ」

「え~! なら魔都でいいじゃん?」

「貴様に売買ルートがあるならいいんだが……」

「媚薬専門店なら知ってるよ! 精力剤とかも扱ってるし! あっ! けど、売買ルートってなに?」


 全く当てにならんな。まあ、その手のアンダーグラウンドなお薬となると、ヤのつくケツモチが頭を出しそうだ。


 ケツのくせに頭とはこれいかに。


 ふと、シャンシャンが木の根元に視線を向けた。


「ねえ、メイヤさん。採取したのって薬草だけかしら?」

「そうだが」

「キノコってどう? 植物魔法の専門家なんだし」


 サキュルが「悪人しばきの専門家でしょ?」とちゃかした。

 しばかれたいようだが、中途半端にしばくと喜ぶMの可能性がある。


 スルーしつつシャンシャンへ。


「魔法薬の材料になるものは取り尽くしてしまってな」

「なら食用はどうかしら?」

「ああ、まあ……美味そうなのは食っちまったが」

「そ、そうなんだぁ」

「あんま美味くないのしか残ってねぇなぁ」


 松の木の下を指さす。枯れ葉のこんもりしたところから、茶色い笠が顔を出していた。

 と――


 淫魔が犬のように駆け寄って掘り起こした。


「うわああああ! これ! 天然モノしかないやつ!」

「どうしたのサキュルさん?」

「一本5000……いや、8000魔貨はするかも!」


 なん……だと?


 変な匂いがするだけの雑魚キノコがか?


「人間は苦手かもしれないけど、特に魔族にはたまらないんだよねぇ。このマラタケって」

「危険な名前だな。そういえばフォルムも……いや、なんでもない」


 シャンシャン笑顔で手のひらに八つ裂き的な光輪出すのやめな~。おっかないから。


 で、サキュル曰く――


 捨て値で売っても一本3000魔貨。目の利く料理店なら品物見れば……というか、匂いを嗅げば良品ってわかってくれるらしい。


 シャンシャンが淫魔に訊く。


「どうしてサキュルさん、高級食材キノコに詳しいのかしら?」

「え、えっとぉ……ひ、秘密!」


 家族はいない天涯孤独と言ってはいたが、それもどこまで本当なのか。

 ともあれ、疑ったところでしょうが無い。


 ここは森の恵みをかき集めて、おもしろ家族の活動資金にするとしよう。


 で――


 見つけるのが大変かと思いきや、メスブタを自負する淫魔は鼻の良さを大いに発揮した。

 次々にマラタケを発見する。


 だけでなく――


 地中に埋まった黒いダイヤ――トリュフ茸まで見つけるのだった。


 トリュフは魔帝国じゃ不人気だが、聖王国では貴族たちに珍重される高級キノコだ。


 サキュルがドヤ顔で胸を張る。


「はーい二人ともサキュルに注目~! 今日一稼いだのは誰ですかぁ?」

「「サキュルさんです」」

「はっはっは~! 超きもてぃー! もっと褒めてあがめて尊敬して!」


 く、悔しい。けど事実!


 こうして――


 指名ゼロ人チェンジマンだった淫魔は、キノコ狩りの女として生まれ変わったのだった。


 適宜、両国でキノコを換金。買い取り担当者に手数料を握らせても、今日一日の稼ぎで向こう一ヶ月は三人で暮らせる額になる。


 キノコ……恐るべし。


 しかし、家を建てるにはさすがに足りないか。


 これを元手に増やす方法でもあればいいんだが……。


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