目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

21.倍にして! 倍にして返すから!


【本文】


 ピンクにブルー。オレンジにグリーン。色とりどりの魔力灯が煌めく夜の魔都。

 色つきレンズのはまった眼鏡をかけた三人が扉を開く。


 フロアに響く大音声。飛び交うチップ。唸るスロット。


 ディーラーたちはしたり顔。


 破綻者破産者を増産し、ほんの一握りが成功を収める。


 人々は集う――


 カジノ。一夜の夢。興奮と絶望の同居する娯楽の殿堂だ。


 ゴスっぽい聖女の装いの上から、マントを羽織ってサングラス。

 不審者コーデの元聖女が不安げに私を見上げた。


「こんな変装で大丈夫かしら」

「大丈夫だ。問題ない」


 もしなにかあったら転移魔法ですたこらさっさである。


 片やビキニの上からマントにサングラス。

 痴女。露出魔の装いに興奮を隠しきれない淫魔が尻をくねらせた。


「くうううう! 鉄火場の空気美味しいれすぅ♪ やっぱ夢のマイホームはギャンブルで資産運用してこそ手に入るっしょ!」

「資産運用という言葉の意味を辞書で百回引いてこい」

「お金が増えたり減ったりするじゃん! これも立派な自分への投資だよぉ」


 夜の歓楽街のこいつ……強い。


 本日のアイディアはサキュルの発案だ。


 なにせマラタケとトリュフ茸を匂いで探り当てた功労者。


 一発逆転狙うならとカジノへやってきた。


 私はもともとマント姿。なのでサングラスのみで身元を隠す。


 バレたらどうするって? そんときゃそんときさ。(転移魔法)


 このゲームには必勝法がある! メイヤ・オウサーは運否天賦(うんぷてんぷ)に頼らない。


 で、一歩前に出て、賑わう人混みを背に淫魔がこちらに振り返った。


「じゃあ勝負勝負!」

「ギャンブルだからな。そりゃ勝負もするだろ」

「そーじゃないってメイヤ! せっかく三人なんだし、チップを三等分して誰が一番増やせたか競い合おうよ! 絶対楽しいし!」


 シャンシャンがため息。


「ハァ……ねえサキュルさん。お金を増やすのが目的だったはずよね」

「パーっと行こうよシャロン! 絶対楽しいからさ! 勝てばいいんだって」

「思考が破綻者よ……もう」


 優等生の元聖女は不服なご様子である。


 さて――


「三人で勝負ということは、優勝すると何か特典でもあるのか?」

「ガチりたいからぁ~負けた二人は勝者の言うことなんでもきくってどう? メイヤまさか逃げないよね?」


 カッチーン。

 言ったなこいつ。


「やってやろうじゃねええかああ! 私が勝ったら貴様ら耳の穴でパスタ食え。唐辛子たっぷりのペペロンチーノだ」

「それ消化器官とつながってないって! えっとぉ、サキュルが勝ったらエッチね! とびっきりねっちょり濃厚なや~つ! もち3Pでおなしゃす!」

「あ、あのちょっと勝手に決めないで!」


 困惑するシャンシャンに淫魔が尻尾を揺らして詰め寄る。


「あれあれぇ? シャロンはお願いとかないのぉ?」

「あ、あたしは現状維持で十分だから」

「それじゃつまんなーい! メイヤをぎゃふんと言わせる滅多にないチャンスなんだよ? 戦闘力じゃかなわないんだし」


 いや淫魔よ。私が油断しきっている状態なら元聖女の八つ裂き的な光のリングは、致命の一撃になりえるぞ。


 シャンシャンは下を向くと……ぽつり。


「スイーツ……デートしたい」

「きゃああああああ! かっわいい! そっかーこれかぁ! これがメスかぁ! サキュルもエッチじゃなくて、ラブちゅっちゅデートにすればよかったぁ」

「そ、そんなラブなんとかじゃないわよ! 三人で甘い物を食べてゆっくり紅茶を飲みたいってだけ。聖都じゃおたずね者だけど、郊外のカフェならすぐには追っ手も来ないと思うし」


 意外に現実的なプランまで用意しているな。


 私は財布を取り出した。

 マラタケで築いた財産の重みを三分割する。


「決まりだ。刻限は深夜零時。この場所に集合。身バレしたら『モンブラン』と叫べ。すぐ助けに行く」

「わがったメイヤママ!」

「りょ、了解したわ」


 魔貨をチップに交換し、いざ開戦!

 勝てば天国負ければ地獄。

 目指せ屋根付き一戸建て。というか、家なんて贅沢は言わないからまともな屋根。


 ルーレットにスロットマシン。ポーカーにブラックジャックと有象無象の化け物たちが行く手に待ち構える。


 罰ゲーム対策なら、何もしないというのが手だ。


 二人がスって元金残しで大勝利。耳からパスタ食って唐辛子で悶絶してもらおう。

 聞けニンニクの音を! 麺類ASMRの刑に処す。


 というのも芸が無いので、普通に勝って家長の威厳を知らしめてやるとしよう。


 さて、何して遊ぼうかな。


 きらびやかな照明に彩られたゴージャスなホール。赤絨毯を歩く。


 魔都のカジノは初めてだ。なーに、スロット目押しが効くならなんとでもなるだろう。


 赤絨毯を横断し、奥の化粧室に入った私はサングラスを外した。


 鏡に写る男前。ポーチから小瓶を取り出す。


 ――このゲームには必勝法がある。


 目が良くなる魔法の点眼薬を使うのだ。


 チート? 違う。これこそが知恵というもの。勝利の鍵を眼球に染みこませる。


 くうううう! 効くぅ! 今なら飛んでるハエもスローもションだぜ。


 王都の魔導学院生時代にスロ神と称された辣腕(らつわん)、久々に振るっちゃいますかね。


 勝ちすぎて出禁にならん程度に。


【リアクション】

いいね: 5件


------------------------- エピソード22開始 -------------------------

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?