【本文】
あたしは目を閉じ思い出す。
レイライン聖王国から特使として送り込まれたことを。
もし、大罪人メイヤ・オウサーを改心させられれば、国を挙げて妹の捜索をしてもらえるという約束だった。
けど、体(てい)の良い厄介払いだった。
困っている人を救うのが聖女だと信じてきたのに、聖教会は喜捨の額で助ける相手を選ぶ。
あたし個人がボランティアで神の奇跡を施せば「無料でやっては他に示しがつかない。聖女の光魔法の価値が下がる」と、叱責された。
だから疎まれた。同じ第一級聖女からは「良い子アピール」とか「金儲けしてなにが悪いの?」とか。
言われてるうちはまだマシで、最近は誰からも相手をされない。
そこにいてもいないことにされる。
空気みたいな扱い。教会に居場所がなかった。息苦しかった。
ちょっぴりだけど、なんで自分が生きてるのかもわからなくなって、死んじゃってもいいかな……って。
大罪人の元に派遣されると決まった時――
その時が来たんだと諦めた。
たった一人の生き別れの肉親を……妹を置いて逝くことになるのだけが心残りだった。
けど――
出会ったのは大罪人とはほど遠い、ちょっと不器用な変人のお兄さん。
顔は格好いいんだけど、やることなすこと言動も含めてめちゃくちゃ。次に何をしでかすかわからない。なのに、急に優しくなったりして。
聖王都にはいないタイプの人だった。
彼の……メイヤ・オウサーの罪は、敵軍五十万人を生かして帰したこと。
それって、本当に罪なのかしら?
もし、あたしだったら……。親兄弟家族友人、親しい誰かの仇がいたとしても、皆殺しなんてできない。
ちゃんとピンポイントで選んで仇だけを倒すと思う。
なんてね。聖なる光の魔法力を与える相手、間違ってたんじゃないの神様?
今は――
幸せ。もちろん、聖王都の暮らしに比べたら不便なことばっかり。大好きなスイーツも紅茶も無し。
だけど、あたしはメイヤさんのキャンプに来たから、コーヒーの美味しさを知った。
窮屈なくせに誰にも認識すらされない、規則正しい教会での一日よりも全然良い。
晴れに喜び、雨にずぶ濡れで泣き、友達になった子がいて、ちょっと頼りないけど頼れる大人がそばにいて。
笑ったり泣いたり。自分の心に素直になれる。
自由でいられる。
だから――
この暮らしをずっと……ううん、あと一年でも一ヶ月でも一週間でも……一日でも存(ながら)えさせたい。
あたしは祈る。願う。
この気持ちを。心に浮かんだ言葉を糧として。
「エーテルドライブ……シャイニングホーリー……グロリアス」
第一級聖女の中でも限られた者にしか使うことができない、第九階位の奇跡魔法。
その聖なる輝きの光は運命さえも味方にする。
簡単に言うと、超幸運のおまじない。
あたしはビンゴテーブルについた。あたしが勝てそうなのは純然たる運ゲーだけ。
カードはルールが複雑そうだし、ルーレットはディーラーが技術で出目をコントロールしてる気がする。
スロットも観察した限り、技術が必要っぽかった。
カードが配られる代わりに、テーブルに備え付けのパネルが点灯。1から75までの数字がランダムで並ぶ。
5×5の25マス。真ん中にはFREEの文字。
数字の組み合わせは億単位。百人でも千人でも参加できる。
FREEマスを利用して最短で一列揃う確率は0.0002%ほど。
もし4ターンで完成したら、掛け金が1000000倍で返ってくる。
チップメダル全掛けの一回勝負。
勝てばええっと……ともかく大金になると思うわ。たしかメダルチップ一枚が20魔貨で、あたしが預かったのは250枚。
となると、2500000000枚になるから、50億魔貨になるってことよね。
それだけあれば、ずっとキャンプできそう。屋根だって施工業者さんに頼んで作れそうだし。
きっとメイヤさんもサキュルさんも喜んでくれるわ。
バニーガールが巨大鳥かごみたいなビンゴマシンの横に立った。
ゲームが始まるみたい。
レバーを回すと同時にドラムロールが響く。
マシンから数字の書かれた玉がコロンと落ちた。
あたしのパネルの右上隅にHITの文字が点灯する。
滑り出しはいい感じ。あとは神様に祈るだけだった。
・
・
・
え? あの、なんで? どうしてあたし、黒服のおっかない人たちに囲まれてるの?
もしかしてバレた? 聖女ってバレた?
やだ、どうしよう。
ちょっと幸運を神様に祈って50億にリーチをかけただけなのに。
ビンゴマシンを回すバニーガールが顔面蒼白。
会場中から野次馬が集まってくるんだけど。
あの、あたし何かやっちゃいましたか?
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