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24.一晩で二億の男の敗北


【本文】


 カジノホールがざわついて、客たちが蟻のようにビンゴコーナーに集まっている。


 何かイベントでもあるんかね。


 ま、こっちは集合時間まであと少し。


 100%勝ったと思う。シャンシャンとサッキーには耳パスタを堪能してもらうとして……だ。


 私、メイヤ・オウサーの前にそびえ立つ巨大な赤い筐体。


 金で縁取られたゴージャスなスロットマシンにつく。


 超高レート台。


 こいつと遊んで帰るとしよう。


 高レート用のメダルチップを九枚投入。

 がっちゃんことレバーを引いてドラムが回転。


 ん? なんか見えるわ。


 目押しで7を並べていく。


 あれ? マジで? すっげぇ簡単。


 罠かよ? 7が綺麗に揃っていって……。


 最後のピースがパチッとハマる。7×7のラインが完成した。


 祝福のファンファーレとともに、ゴールデンチップコインがじゃらじゃら出る。


 うっひょー! 脳汁ぶちゅぶちゅ~!


 ん~! カジノ運営の人、見ってる~?


 ほら見てねえ見てみんな見て見て~! 一発よ? 一発で10000チップコイン×100よ?


 えっと魔貨にするとぉ1チップコインが20魔貨だから、その10000000倍で……二億じゃん。宝くじじゃん。


 やっぱ日頃の行いが良いからかなぁ。


 ってさぁ……ここに二億当てた人がいるんですけどぉ!?


 なんで誰も来ないわけ? 黒服に取り囲まれて「お客さんちょっと」ってバックヤードに拉致られたりしないの?


 ここ、そういうカジノ? 健全? 健全ですかぁ?


 盛り上がってるの私だけじゃない。


 急ぎ足の黒服オークの用心棒を掴まえた。


「おい貴様! 二億当てたぞ」

「お客様、ただいま緊急事態でして」

「だよな。なにせ私が二億当てたわけだから」

「あ……いえ、お客様などよりも……」

「などってなんだー!!」

「で、ですからその……あちらのお客様が大勝ちいたしまして」

「はあ?」


 なにそれ?

 ちょっと落ち着こう。

 まずは一服。煙草に火をつけくわえる。


 ドル箱をカートに積んで、私は人々が集まるビンゴテーブルに向かった。


「おらどけどけ愚民ども! 二億の男のお通りだぞ!」


 カートで轢き飛ばしながら人混みをゴミのようだしていく。さすが二億だ。どいつもこいつも道を譲った。


 噂の震源地に到達。


 ビンゴマシンの払い戻し口から壊れた蛇口のようにじゃらじゃらとゴールデンチップコインが湧いている。


 黄金の泉にたたずむのは金髪の少女だ。

 その足下で――


「サキュルはシャロン様の便座になります! 枕でもベッドでもなんにでもなります! もう好きにして! おっぱいもお尻も好きにして!」


 淫魔が床でへそ天ローリングを決めていた。


 シャンシャンはといえば――


「壊れちゃった」


 溢れるチップに興味なし。ひどくつまらないものを見るような眼差しである。


 元聖女を囲む黒服たちを押しのけて声を掛けた。


「シャンシャン!」

「メイヤさん? どうしたのそんなに怖い顔して」

「貴様のせいで私が超高レートスロットを当てたのに、誰も……誰も褒めてくれなかったんだぞ! 見向きもされない! どうしてくれる!!」

「あっ……ごめんなさい」


 普通に謝られた。


 と、黒服が私の肩を掴む。


「お客様、ちょっとよろしいですか?」

「よろしくないッ! 貴様、鼻に落花生を詰め込んだ上でつまんでやろうか? 鼻の中で落花生の殻をパキッてくれようか? ああん?」


 煙草のスモークを肺に入れて溜めるとぶわっと黒服の顔に食らわせた。


「ひい! と、ともかくこちらの女性のお知り合いなのでしょうか?」

「顔見知りだ」

「なるほど……足下のそちらは?」

「ペットだ」


 サキュルが目を♥にして「にゃんにゃ~ん」とケモ化している。大金を前に元から無い理性が完全閉店セールしてしまったようだ。


 と、そこで人混みがスッと割れた。


 モブ客どもがどよめく。


「支配人だ……」

「ついにあの男が動いたぞ」

「やりすぎたんだこいつらは」


 なにやら異様な雰囲気だ。


 店の奥から赤絨毯を颯爽と、純白スーツの男がやってきた。

 左目に眼帯をしたオールバック。痩身だが鍛え抜かれた筋肉を感じた。


 こいつ……できる。


 支配人とおぼしき男は、元聖女に恭しく一礼する。


「おめでとうございますお客様……と、言いたいところですが」

「はい?」


 シャンシャンはきょとん顔だ。


「なにか……されましたか?」

「神に祈りを少々」

「なるほど。幸運だ……と」


 コクコク頷く元聖女。あっ……これ……シャンシャンやったな。やってんなぁ。


 私も目薬はさしたけどさ。ほら、あれよ。ちょっと目が良くなるだけよ。他は技術だし。


 床を転げ回る淫魔が猫撫で声だ。


「明日から毎日唐揚げ~唐揚げ~ごちそうパーティ~いえいいぇーい! FOOO! 高まる~!」


 幸せそうでなにより。


 と、支配人が黒服たちに目で合図を送る。


「お客様。お話があります。少々お時間いただけないでしょうか? 事務所までご足労寝返れば幸いです」

「はい?」

「すっとぼけんじゃねぇよ」


 正体現したね。支配人がシャンシャンを掴んで席から剥がそうとした。


 その腕に私は……。


 ジュッと煙草で根性焼き。


「な、なにをする!」


 支配人は手を引っ込めた。


「うちの子に汚い手で触ってんじゃねぇよ。トイレでちゃんと手を洗ってますか貴様ぁ?」


 同時に黒服たちがベルトのホルダーに手をかけた。


 警棒大好きね貴様らって。


 どうやらただじゃ帰してもらえないっぽいな。こりゃ。


 私は呟いた。


「モンブランかなぁこりゃあ」


 相手の出方次第である。もう少し小さく勝っておくべきだったか。


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------------------------- エピソード25開始 -------------------------

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