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25.黒は一色のみ


【本文】

 きらびやかなカジノのフロアで注目独り占め。


 迫る黒服黒めがね。


 手には警棒。暴力上等。


 用心棒の一人が腕を振り上げた。


 私は身体を反らす。狂気を孕んだ凶器が空を切る。


「正当防衛だかんな」


 普段より相手の動きが良く見える。ま、目薬効いてるだけなんだが。


 膝を相手の鳩尾に一発。用心棒はくの字に折れ曲がり胃液を吐いて床に伏した。


 雑魚が。二度と逆らうんじゃありませんよ。


 支配人が悲鳴をあげる。


「やれ! やれっ! 排除しろ!」


 手に取るように、連中の次の動きが理解できた。


 シャンシャンを人質にしようと他の黒服が動く。


 元聖女の手をとって立たせ、細く平坦な身体を引き寄せ抱き上げる。


「きゃ!? ちょ! メイヤさん!?」

「舌噛むからしゃべるなよ」


 ダンスで男がレディーを持ち上げる、いわゆるリフトというやつだ。


 シャロンの身体で棒術。


「きゃあああああああああああ!」


 少女の足が用心棒どもをなぎ払った。


 足下で駄犬……もとい駄淫魔がゴロゴロくねくね。


「すっごーい! シャロンつよーい!」

「あ、あたしじゃないわよおおおお!」


 180度開脚して旋風キックでKO量産。聖女を装備した私に死角無し。

 適当にシャンシャンを振り回してから床に下ろす。


 ギャラリーと化したギャンブラーたちから拍手が起こった。


 やっぱ観客がいる時は魅せプっしょ。


 グレイテストShowman。メイヤ・オウサーとは私のことだ。


 支配人が黒服の増援をかき集めた。


「取り押さえろ! ボーナス弾むぞ!」


 今の攻防で理解できないとは度しがたい。上司が無能で用心棒たちもご愁傷様だ。


 私はビシッと白スーツの眼帯男を指さした。


「ギャンブルなら胴元が負けることもあるでしょうが! こっちは勝ったんだから負けを認めるもんでしょうがよ!?」

「あ、ありえないんだよ! このビンゴマシンから10000倍の勝ちが出るなんて!!」


 ゴロニャンしていたサキュバスがゆらりと立ち上がった。

 マントの下でゆっさたゆんと胸を揺らして首を傾げる。子リスみたいな仕草とのギャップで大変コケティッシュである。


「支配人さんなんでぇ? 実際出たじゃん! シャロンが出したじゃん大当たりぃ」


 シャンシャンも「確率は限りなく低いけどゼロじゃないわよ」と胸を張る。


 支配人の背中が小さく丸まった。


「そ、それは……だな……」


 ギャラリーたちの視線が白スーツに刺さる。


 私は詰め寄った。黒服たちは覇気に押されたように左右に割れる。ケンカを売る相手を理解できてエラいぞ。


「ありえないわけないよなぁ?」

「う、ううっ」

「出たんだから払えるよなぁ?」

「だ、だから出るわけが……」

「なんでだぁ? まさかビンゴマシンに細工……しちゃってるのかぁ? お上に通報して調べてもらいますぅ?」

「や、やめろッ!」

「はい黒ぉ。自白で黒を出しやがったなこの野郎」


 突然シャンシャンがお腹を抱えて笑い出した。


「あは! あははは! 自白で黒って! 黒出ちゃうって! 白スーツなのに!」


 元聖女の笑いのツボが浅いのか深いのかさっぱりわからん。

 現状を引き起こしておいてお気楽なもんだな。


 白スーツは開き直った。


「胴元に利益が出るようになってるんだ! どこのカジノだって多かれ少なかれ……」

「だけどさぁ店長君。絶対出ない空くじはダメでしょ?」

「で、出ないとは言ってない!」

「じゃあ払えよ5000兆」

「ふ、増えすぎだ! そっちこそゴト行為をしたんだろう!? でなきゃあり得ない!」

「はあ? 何言ってんの客疑うのこの店は?」


 ちょっと特殊加工したブルーベリーエキス相当品を目にぶち込んだくらいで、不正を疑われるとかたまったもんじゃないんだが。


 概ね健康食品みたいなもんだぞ。四捨五入で。


 と、ここでサキュルが元聖女に駆け寄った。


「ねえねえシャロン。なんかやった?」

「幸運になるおまじないの魔法は使ったけど」

「それって聖女のやつ?」

「もう聖女じゃないし、いつでも使えるものじゃないの。今日、たまたま心に灯った……えっと……メイヤさんへの感謝の気持ちを祈りに変えたら……」


 あ、ばかばかばかばかばか。


 白スーツが背筋をピンとさせて襟元をただした。


「聖女……聖女とはどういうことでしょうかお客様方?」


 淫魔が「あっ……やっべ」と漏らした。


 元であろうと聖女が敵国の魔都で聖なる光の魔法を使うのは、百合の間に挟まる男の次くらいに重罪級のやらかしだ。


 ギャラリーたちが騒然となった。


「聖女だ! 聖女が出たぞ!」

「通報しろ!」

「殺せ! 聖女を殺せ!」

「やっぱ人間は薄汚い! 汚すぎる!」


 物騒だな。町中に熊でも出たみたいな大騒ぎだ。


 私は肺と腹に息を吸い込み、グッと溜めてから吐き出した。


「鎮まれッ! 貴様ら!」


 フロアがスッと静かになった。筐体から出る魔導機械のピコピコ音が妙に大きく聞こえる。


 メンタル完全復活した支配人がニヤリ。


「しかし困りますねぇお客様。まさか聖女なんて連れて……その幸運の魔法ですか? 我々魔都の民が知らない力でイカサマをされては、他のお客様に不平等です。皆様に平等に楽しんでもらうことこそが、カジノの本懐でございますから」


 今や敵意は私……ではなく、シャンシャンに集まっていた。




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