【本文】
元聖女は頭を垂れた。
「あっ……ご、ごめんなさい」
普通に凹んでるな。
ちょっと幸運になったくらいで、よってたかって平たい……もとい、あどけない少女に奇異の目を向けるだなんて。
白スーツが歯茎を見せる。
「そうだ! 他のお客様にご迷惑をかけたわけですから、まずはこの場で全裸土下座でもしてもらいましょうか?」
「あうぅ……」
隣で淫魔が「シャロン大丈夫だからサキュルが脱ぐから! 代わりにサキュルが脱ぐから! 土下座慣れしてるし」と必死に励ました。
なんて健気な百合なんだ。
ありがとう。
ただ、ただ……ありがとう。
こうなれば仕方ない。
全員ぶちのめして帰るか……。
と、思いきや――
元聖女が顔をあげた。
「大丈夫よサキュルさん。あたしが間違ってたわ。自分だけ幸運魔法で得しようだなんて」
「ふぁ!? ど、どうしたのシャロン? なんか背中から眩しいくらいに魔法力が出ちゃってるんだけどッ!?」
「支配人さん。他のお客のみなさん。ごめんなさい。目が覚めました。私利私欲のために幸運魔法を使ったことを、ここに改めて謝罪し……この場のお客様全員に、聖女の祈りと祝福を捧げます」
少女は胸元で手を組み祈る。
「エーテルドライブ……シャイニングホーリー……グロリアスオール!」
幸運の力が客たちに宿る。
と、騒ぎに我関せずスロットを回していた客が悲鳴を上げた。
「で、出た! 苦節十年! ついに! 初めて勝ったぞ!」
低レート台ながら7777777が揃ったようだ。
一気にざわつく客たち。
私は咳払いしてから叫ぶ。
「ん~あ~げふんげふん! スロットマシンだ! 早い者勝ちだぞ!」
我先にと客たちはスロットコーナーになだれ込んだ。
そこからはもう台の取り合い殴り合い。
回せば当たり「しか」でない。
黒服が「おやめくださいお客様!」と、超高レート台から客を引き剥がそうとすれば、血に飢えたギャンブラーたちが囲んでボコしだす始末。
支配人が悲鳴を上げた。
「お、おい! やめろ! やめてくれ! ああもう閉店! 本日は臨時休業です! おいクソ客ども! どんだけ遊ばせてやったと思ってるんだ! うちの店を潰したいのか!?」
返ってきたアンサーはこちら。
「「「うるせー! 今までさんざん搾取しやがって!! このインチキカジノめ!!」」」
身から出たサビである。
膝から崩れ落ちた白スーツの眼帯男。私は優しく肩に手をかけた。
「これでお客様は平等に楽しめる。本懐を遂げられて良かったな」
「ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる」
「あれれ~壊れちゃった?」
ぶつぶつ呟く男の眼前にバイバイと手を振って、私は元聖女と淫魔に向き直った。
「時刻はちょうど零時だな。そろそろモンブランすっか」
淫魔がぶんぶん首を左右に振る。
「もっと遊んでいこーよ! 今ならサキュルね、大勝ちできそう」
「ディーラーは雲隠れしてるし、マシン系は席の取り合いだし無理だろ」
「じゃあじゃあ換金して帰ろうよ!」
「換金係も逃げちまってるな」
シャンシャンが困り顔だ。
「ご、ごめんなさいメイヤさん。大事(おおごと)にしちゃって。それに元の掛け金も……」
「聖都でトリュフ茸売った金は残ってる。またコツコツがんばろうな」
淫魔がぶるんと胸を上下に揺らす。
「今度は他の賭場行こう!」
「コツコツって言葉の意味わかってないのか貴様は」
三人並んで店を出る。止める者など誰も居ない。恨めしそうな支配人の視線に見送られた。
夜の繁華街。深夜を回っても人通りは多い。これが眠らない魔都だ。
シャンシャンが、外の新鮮な空気を吸い込んでゆっくり吐き出す。
「お金を稼ぐのって大変なのねメイヤさん」
「悪銭身につかずっていうしな」
サキュルが私の二の腕にぎゅっと抱きつき胸で挟んできた。
「けどけど超楽しかった!」
「そりゃ結構。と、挟むなよシャンシャン。キレちまいそうだ」
「は、挟まないわよ! ところで……あたしたちのこと……助けてくれたのよね?」
「はぁ?」
「人質にとられたりしても見捨てるって、最初に約束したじゃない?」
「あ~。まあ、相手が雑魚中の雑魚だったからな。毎回期待すんじゃねぇぞ」
淫魔が「はーい」と声を上げた。本当に、返事だけは優等生である。
しかしだ。
「なあシャンシャン。どうして幸運魔法なんて使ったんだ?」
「お金があればキャンプでもっと……えっと……一生ずっといられるかな……って」
「何を言っているんだ貴様は。妹捜しはどうする?」
「妹が見つかったらキャンプに呼びたいんだけど、ほら、そのためにもお金は大事かなって」
だからといって50億稼ごうとするのはいかがなものか。
あっ……そういや私、スロットで2億出してたんだっけ。
まあ、あの調子じゃそもそもカジノ側に払うつもりなんて無かったろうけどな。
なにせ大当たりを出した人間を取り囲んで、暴力でどうこうしようとするクズどもだ。
こっちが世界最強クラスの暴力装置だったからいいものを、大当たりを出した人間を処分して無かったことにする腹づもりなのも見え見えである。
サキュルが足を止めた。
「勝負はどうなっちゃったの? やっぱシャロンの勝ち?」
「今回は引き分けってことにしておいてあげるわ二人とも」
「そこは勝った気分でいるのか貴様!!」
「だって耳スパは酷いじゃない?」
「なら3P!」
「「却下」」
そんなこんなで楽しい夜を過ごすことができたのでした。
・
・
・
翌日――
魔都の全カジノに出入り禁止の手配書が張り出された。
黒マントにサングラスの男一人と女二人。
コイツらにピンと来たら即通報。
こうして私たちのギャンブル王への道は閉ざされたのであった。
あと、白服眼帯男のカジノは破産というか、払い戻しをしなかったことで客たちが暴動を起こして破滅したらしい。
ちゃんちゃん♪
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