【本文】
夜明け前――
水面に釣り糸を垂らして浮きを見る。
聖王都のダンキホーテで買った初心者用釣りセット×3。
バケツには川魚。イワナかヤマメか、たぶんそこらへんだ。
土手を掘り返して見つけたミミズで釣ってるんだが、案外上手くいくものだ。
と、シャンシャンが釣り竿を手にやってきた。
「ね、ねえメイヤさん……ミミズつけて」
彼女の竿の釣り針には何もついていない。
「餌をとられるたびに私にすがるんじゃない!」
「だ、だってぇ……ミミズ怖いし。キモいし。なんかウニョウニョしててやーなの」
「まったく。サッキーを見習え。あんなにミミズと仲良しだろうが」
サキュルは二メートルほどある巨大ミミズに全身巻き付かれて粘液まみれにされていた。
「た、たしゅ、たしゅけれぇ! らめ! らめぇ!」
「仲良しっていうか捕獲されてない? メイヤさん助けてあげなくていいの?」
「あのミミズなら大物が釣れるってケンカ売ったのはサキュルだからな。放っておけ」
淫魔の悲鳴をBGMに私はシャンシャンの針にミミズをつける。
夜明け前から日の出の時間までのマズメ時――
魚たちの朝ご飯タイムに合わせて釣りをする。
二人で十匹ほど釣り上げた。
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魚のはらわたを取り出して渓流で洗った。自作の竹串を打ち、塩を振ったあと、満を持して登場。
七輪である。火起こし万全。鉢の中で炭が赤く燃えていた。
網の上にイワナを置いて遠赤外線で焼いていく。
次第に香ばしい皮の焦げる匂いが漂い、魚の脂が滴って炭が煙りを立ち上らせた。
女子二人が川の方から戻ってくる。お揃いのダサい文字Tシャツにパンツルックだ。
淫魔の胸元。
肉食女子の文字が、持ち前の大きなアレで上下左右に引き延ばされて読めないレベルである。
「ふぁああ! お風呂ありがとうございまっす!」
「タオルはちゃんと物干し台に干しておけよ」
「は~い」
一方、元聖女のTシャツには「ビールビール」と聖女らしさの欠片も無い文字が刻まれていた。
土台が水平なので凹凸もなく読みやすい。
「読みやすいって思ったでしょメイヤさん?」
「いいえ全然これっぽっちっぱいも」
「ちっぱいって言った! 今、ちっぱいって言ったわよね?」
朝から元聖女はぐぬぬ顔。
知らぬ存ぜぬで焼き魚を、コッペパンに挟んで二人に渡す。
「サキュルご飯がいい~! お味噌スープと焼き魚~♪」
「キャンプ飯に文句言うな」
東方風の朝食なんて準備に時間が掛かりすぎるんだが。
二人はイワナパンにかぶりつく。
風呂に入れて飯にありつけるだけでいいだろうに。
シャンシャンが食べる手を止める。
「それにしても、魚がふっくら焼けて香ばしくてびっくりするくらい美味しいわね」
「七輪買って良かっただろ」
「パンが負けちゃってるわ。窯と材料があればパンくらい焼いてあげるけど?」
サキュバスが七色の虹彩を輝かせた。
「シャロンってパン焼けるの!? すっごーい!」
「教会でパンとかクッキーとか作って貧しい人たちに施してたから」
淫魔は尻尾をぶんぶんさせた。
「ねえねえ! 作ろうよメイヤ! レンガとか積んでさ! ピザ! ピザ食べたい!」
「ますます定住するつもりまんまんじゃねぇの?」
「ね~いいでしょいいでしょ~? どのみちお金が掛かるんなら、楽しい方がいいじゃない?」
朝食を食べ終わると、長女どもはアレコレ欲しいものや、したいことを相談しだした。
家に図書館に竃に農園。カフェテーブルだの製氷魔導器だの。風呂に脱衣場と目隠しの壁とシャワーも増設したいとかなんとか。
勝手な連中である。
もはや私がしなくても、二人は勝手に豆を挽きコーヒーを淹れ、私の分まで用意する。
シャンシャンがカップを渡してきた。
「メイヤさんほど上手くは淹れられないけど、良かったらどうぞ」
「いただきます」
「あら? 文句を言わないのね」
「まるで私が常日頃から不平不満しか言わない人間みたいに言うんじゃないよ。人様のご厚意は受け取るぞ」
カップを満たす煮詰めた琥珀色。一口飲む。
抽出で蒸らしが足りないな。一方、サキュルが淹れると、こちらはギリギリまで出してしまって豆のえぐみが出る。
コーヒーの淹れ方一つとっても、個性がにじむものだ。
シャンシャンが目をキラキラさせて私を見る。
リアクション待ちか。
「まっず」
「ちょ! なによそれ! 厚意を受け取るんじゃなかったの?」
「味は別だっつーのつけあがるな貴様ッ!!」
「んもー。意地悪なんだから」
「正直者と言いたまえ」
淫魔は薄いコーヒーが好きらしく「メイヤさんのよりぜんぜん美味しいよ!」と笑顔である。
豆に謝れ。
元聖女が微笑んだ。
「ですってメイヤさん」
「好みってものがあるからな。誤差だ誤差」
「ところで話は変わるんだけど、メイヤさんのやりたいことってなんなのかしら?」
「そら見ればわかるでしょうがキャンプだよキャンプ」
「じゃあ、今は充実してるって……こと?」
「お荷物どもの面倒を見なきゃならんけどな」
「今日のメイヤさんなんだかチクチク言葉多くない?」
「うっせーわ。貴様こそ遠慮がなくなってきたぞ」
「だって家族だもの。いいじゃないこれくらい。だからあたしも、メイヤさんがちょっとヒスったくらいじゃ気にしないんだから」
すすすっとサキュルが私と元聖女の間に割って入った。
「二人ともなに? もしかしてえええ……付き合ってんの!?」
シャンシャン耳まで赤くなる。
「そ、そんなわけないでしょ? ほらあんまり近づくとメイヤさんが挟んだのなんだのってキレちらかして、そこらの村一つ焼きかねないから」
「私を魔物の群れか厄災か何かだと思っているのかシャンシャンよ?」
淫魔は下乳持ち上げ腕組みで「うんうん」と納得顔だ。どっちの意見に対して? ねぇどっちの味方なの?
サキュルは続ける。
「大丈夫だよシャロン。今、挟まれてるのはサキュルだから。カップルの間に割って入るNTR淫魔だから」
とっさに私の右腕がサキュバスの額を鷲づかみにした。
「許さんぞ貴様。NTR脳破壊を目論む悪魔の申し子め! 成敗いたす!」
「痛い痛い痛いやめてやめてNTRしないNTRはんた~い! NTRとか絶対よくない文化だからぁ~!」
「許す」
スッと力を抜く。サキュバスはこめかみを両手でさすった。
「ちょっとメイヤってば地雷多過ぎぃ」
シャンシャンがサキュルの頭をよちよち撫でる。
「大丈夫サキュルさん? コラ! メイヤさんも相手は女の子なんだから、加減しなさい」
「え? でもほらだってNTRだよ? 一匹いれば三十匹はいるかもしれないし」
元聖女がきょとん。
「それってGみたいなものなの? っていうかNTRってなに?」
「教えてやれサッキー」
淫魔は「え? サキュルがぁ?」と抗議の視線だが、言い出しっぺは貴様だろうがよ。
「えーとね、NTRっていうのはぁ……」
淫魔は元聖女に耳打ちした。
話を聞き終えたシャンシャンはというと……。
手に光輪(八つ裂くタイプ)を発生させてサキュルの首筋へ。
「う、打ち首!」
「ひいいいいいいいいいいいん! 反対! 反対派になったから今日で手首クルクルしたから許して~!」
こうしてまた一つ、おもしろ家族に掟が生まれた。
汝NTRなかれ。ライン越えし者は打ち首である……と。
しかしまぁ――
NTRは置いといて。
お金儲けするにもギャンブルは使えず。
ひとまず家ゲッツとは、いかんらしい。が、いくら稼ぐか目処を立てたいところである。
目標はログハウスをデッキ付きで。幸い材料なら中央平原で揃いそうだ。
木材を切り出すのはシャンシャン。運ぶのは転移魔法で私がするとして、施工できる技術者を雇わねばならんか。
逃した50億は……いやいい。
地道に稼ぐと決めたのだ。どっかに手頃な金鉱脈とかないかなぁ。川の砂さらったら砂金でも出ないかね。
無理か。
中央平原の森を探って、しばらくはキノコ狩りの日々かもしれん。
【リアクション】
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