【本文】
鬱蒼と茂り、昼でもまだ暗い森を三人で歩く。
枯れ葉の絨毯が敷き詰められてふかふかだ。
先陣を切るのはサキュル。
中腰で周囲を警戒するように左右確認。
ターンして振り向くと。
「くんかくんか……スンスン……おや? ここにキノコがあるような」
私の股間のあたりに顔を埋めようとした。
デコピンで淫魔の額を弾く。
「いった~い! ジョークじゃん! 小粋なサキュバスジョークじゃん! 逆ラッキースケベでしょ?」
デコを赤くしながらサキュバスは上目遣いでにらみつけた。
隣でシャンシャンが眉尻を下げる。
「サキュルさん。女の子がそういう……その……下ネタは良くないわ!」
「え~何言ってんのぉ? 下ネタってどういう意味ぃ~? サキュルちょっとわかんないから、シャロン説明してよ!」
「だ、だからえっと、キノコの形状が男の人の……やだ! ど、どうしよう! メイヤさん! 助けて!」
「困ったからってすぐに私に振るんじゃないッ!」
こんなやりとりをしていると――
薄暗い茂みに真っ白いシルエットが浮かんだ。
鴨かと思ったが、それよりもずんぐりした体型だ。
お尻をフリフリよちよち歩く姿は愛らしい。
黄色いクチバシにパッチリお目々。ふわふわもこもこコールダック。
アヒルである。人里離れた森の中に、家畜がいるのは不思議なものだ。
「近くに誰か住んでいるのか? 私に届け出も無しに!」
途端にシャンシャンがフフンと笑う。
「メイヤさんだって勝手に不法占拠してるでしょ」
「黙らっしゃい。みんなの中央平原ですよ?」
「二秒で矛盾してるわね」
アヒルがこっちに気づいて視線が合った。
「バーグァバーグァ!」
特徴的な鳴き声だ。汚い。デカい。妙に煽ってくる感じである。
よく見れば、アヒルの頭には小さな王冠が載っかっていた。
私は腕組みする。
「ふむ。飼い主の躾(しつけ)がなっていないようだな」
淫魔も同じく下乳支えの腕組みだ。
「なんかさぁ、サキュルたちのことバカにしてるっぽくない?」
シャンシャンは首を左右に振った。金髪ひらひら美少女は言う。
「気のせいよ。それにとっても美味し……可愛いし。ほらこっちにおいでアヒルさん。川魚をたっぷり食べさせてあげるわ」
元聖女は笑顔で手招き。
「ペットにでもするのか? うるさいのはサッキーだけで十分なんだが」
「サキュルうるさくないよ! 賑やかって言って! けどけどペットいいじゃぁ~ん! 名前どうするのシャロン?」
「そうね。フォアグラなんてどうかしら」
「「あっ……はい」」
食べるんだ。
止めよう。
「いいかシャンシャンよ。頭に王冠を載せた野生のアヒルなんて存在しない。どこからか逃げてきたのかもしれんが、飼い主がいるだろう」
「あっ……そうよね。じゃあ今回は諦めるわ」
サイコなパスの元第一級聖女様め。いずれリベンジしますみたいなドヤ顔やめーや。
淫魔が万歳した。胸をゆっさぷるるんさせる。
「んじゃー今日も張り切ってキノコ狩りやっちゃいますかぁ!」
と、言った途端――
茂みからアヒルがひょっこり飛び出すと、木の根元をほじくり返し始めた。
トリュフ茸を掘り出して、そのままパクリ。
「あっ! それサキュルが先に見つけたのに! 食べないで! らめぇ~!」
「バーグァバーグァグァッグァッ!」
翼をバタバタさせてアヒルはジャンプする。
と、続けざま別の木の根元に生えたマラタケをパクり。
毒キノコは器用に避けて、確実に高額なキノコばかり。
あのクチバシ……命(おもしろ家族の外貨獲得手段)を刈り取る形をしてやがる。
かっちーん。
「極大破壊魔……」
「メイヤさんストップ! 森ごとはダメよ!」
「ハッ……そ、そうだなシャンシャン。良く止めてくれた。偉いぞ」
「けど、フォアグラをなんとかしないと収入がなくなっちゃうわね」
名前、それで決定なんだ。
サキュルが胸を四方八方に揺らして白い影を追いかける。
「逃げるな! 逃げるな卑怯者!」
「バーグァ! ザァ~コ!」
「喋ったああああああああああ!!」
木々の隙間を縫うように駆け抜けるアヒルをチェイスし、淫魔も森の奥へ。
兎に誘われて異世界転移する少女のようなアレだな。
「サキュルさん行っちゃうわよ!?」
「放っておけ」
と、森をぐるりと回ってアヒルが私の前に立つ。
尻を向けてフリフリ。
「バーグァザァーコハァーゲェ!」
「やんのか貴様ぁ! フサフサやろがいッ!!」
今夜のメニューはアヒルのフルコース。これで決まり。
と、思ったのもつかの間、風を食らうようにアヒルはシュババッと森の奥に消えた。
サキュルが涙ながらに訴える。
「サキュル悔しいよ! あんな鳥にバカにされっぱなしで恥ずかしいよ!」
「貴様に恥の概念があったのには驚きだ」
「サキュルさんもメイヤさんも、ぼーっとしてたらフォアグラに逃げられちゃうわよ?」
淫魔が吠える。
「あいつの匂いは覚えた……絶対に……絶対に逃がさない!」
今日ほどサキュルが頼もしく思えた日は無い。
我々取材班は真実を追い求めて暗い森の奥へと足を踏み込むのだった。
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