【本文】
炭焼きで黒炭が完成した。ま、最初にしては良い感じだ。
木炭同士を重ねてカンとぶつけると、詰まった硬い音がして割れる。
芯まできっちり真っ黒だった。
七輪で肉でも魚でも焼くにはぴったりである。
水分を含まない熱源なので、ふっくらパリッと仕上がる。焼き干し作りで使う炭を外部調達しなくて済むようになったな。
調理だけでなく、部屋の消臭なんかにも使えるらしい。
で――
その日、朝一で私は食材を求めて転移魔法。
聖王国側のとある漁師町。市場で獲れたて新鮮な殻付きの海老を大人買い。
朝ご飯代わりに、塩振って七輪で焼いてみんなで美味しくいただきましたとさ。
シャンシャンは海老を大変気に入ったようで「海の生命力がプリンとしてるわ!」と、よくわからん食レポ。
サッキーとキングで海老の奪い合い。
ドラミは殻ごとバリボリ。他人が残した殻もバリボリ。
幸せそうで、なにより。
黒炭の品質は上々だ。相場より少し安めで魔帝都のブラックマーケットに流す。仲介手数料はとられたものの、黒炭が魔貨に早変わりした。
木材やレンガと違って、日持ちのする消耗品ってのが良かったんだろうな。
高級キノコみたいな単価はないんだが、黒炭の需要は広く浅い。
なにより私が転移魔法で運べば輸送コストが掛からない。ブラックマーケットの仲介人に山ほど預けても、安定してさばけるブツだった。
ま、いきなり炭の束持って転移してくると明らかに怪しいんで、市場の外れの人気が無い暗がりなんかに跳ぶんだけどな。
もちろん顔ばれ防止のため、黒レンズのはまった眼鏡は欠かせない。バレる時はバレんだろうけど。
背負子(しょいこ)につめた黒炭は10㎏で25000魔貨の値がついた。
聖王国側でも、ちまちま売れそうな市場に出している。
品質も良いとかで、こちらも平均㎏単価は2500聖貨ほどだ。
中央平原のおもしろ家族による、両国への経済進出は黒炭から始まるのであった。
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魔帝都のブラックマーケット……というか青空市場。なんでも売り買いされている。
グラサンを装着して身元を隠し(たつもりですがなにか?)つつ、仲介人と売買契約。
20㎏ほど卸し、前回の売上金から手数料(税含む)をさっ引かれた分の魔貨を受け取った。
その場で転移魔法すると目立つんで、今回も街の路地裏へ移動……する最中に、背後に気配が二つ三つ四つ。
六つに増えて私をつけている。
魔帝都はゴミゴミした雑多な建物がひしめきあっていた。死角や暗がりなら探さずとも目端にいくらでも飛び込んでくる。
大通り以外は危険地帯ってか。
六人連れのうち、三人が私を追い越し前に立った。建物と建物の隙間道。左右は壁だ。
挟み撃ちである。
私の正面に立ったリーダー格は、青白い肌をした魔族だった。額に一本ツノがある。鬼人族ってとこか。上半身が異様に発達したムキムキマッチョだが、下半身はアンバランスにひょろガリだ。
ベンチプレスばっかやってたんですかね。
「おいガキ。さっきブラックマーケットで金を受け取ってたよなぁ?」
同じく鬼人の取り巻きたちが前後から私にサラウンド脅迫をかました。
「オレたちさぁ遊ぶ金に困ってんだよねぇ」
「ちょっと金貸してくんね? たんまり持ってんだろ?」
「無利子無担保で返済期限は一万年ってとこでどーよ」
「もちろん貸してくれるよなぁ? 嫌だなんて言えないんじゃないかぁ?」
「痛い目みたくないだろ? 無事におうちに帰りたいよな兄ちゃん?」
みんな揃って似たような声と口ぶりしやがって。数は多いが実質一人みたいなもんか。
「つまりカツアゲですか貴様ら」
リーダーマッチョが鼻で笑う。
「人聞きの悪いこと言うなよ。なぁ人間? 魔帝都じゃあ搾取されるのがオマエらの役目なんだ」
丸太みたいな腕を誇示し、拳を握り込むとポキポキ鳴らす。
あーはいはい。
実力行使ってね。
問答無用でぶちころがしてやってもいいんだが、私はそもそも平和主義者。殺(や)るときゃ殺るけどさ。魔帝都なら殺人も日常茶飯事とはいえね。
はぁ……めんどくさ。キレる気持ちすら起こらない。適当にこらしめて退散してもらいましょうかね。
こっちはようやく商売が軌道に乗りそうだってのに、ブラックマーケット近辺で事件なんて起こしたら、ちょっと来づらくなるじゃない。
私が短杖を腰のベルトから抜こうとした時――
「待てい!」
建物の屋上から声が響いた。見上げれば東方風の、いわゆる忍者装束に身を包んだ男が腕組みして立っている。
カツアゲリーダーマッチョが天を仰いだ。
「なんだテメェは!?」
「魔帝都の闇に潜む悪鬼ども。罪なき人を傷つけようとするならば、この俺が許さない!」
とうッ! と忍者は飛び降りるなり、私とマッチョの間に英雄的着地を決めた。
高さにして十五メートルほどはあるが、特に怪我した様子もない。身のこなしもしなやかにして俊敏だ。
背は私よりも頭二つ低い。小柄といって差し支えない。
先ほど、頭上にいた時は逆光でわかりにくかったが、顔をメンポで覆い隠している。目だけが露出していた。
忍者は短めな直刀を抜いた。逆手に構える。刃は裏返し、峰打ちモードだ。
「大丈夫かい? 怪我はしていないね?」
「あ……はあ、どうも」
気のない返事を忍者の背に返す。満足げに忍者は頷くのだった。
なんとびっくり。
正義の味方が魔帝都に実在したのである。ここは一つご厚意に甘えよう。助けてくれたら飯くらいはおごってやるぞ、忍者君!
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