目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話 菩薩と出会って丸くなったんですケド!

 腹筋を触りセクハラ発言をぶちかまし、ドゲザ行動をぶちかました放課後、俺は赤鬼様に鬼様からの指令を早急に果たすべく学校を飛び出した。

 決して怖かったわけではない怖かったわけではない。


 赤鬼様は髪を切れと仰られた。

 なので、俺は鬼様に指示された美容院に向かった。高そうな美容院だった。勿論、費用は俺持ちぴえん。


 清潔感を出せということだった。


『いいか、まず見た目でいうなら清潔感だ。一に清潔感、二に清潔感、三四がなくて五に……』『十!』


 その俺の会心のボケをかました瞬間で俺の記憶は途絶えた。


 その後拝見させていただきましたメモによると、顔面をいじるのは最終手段として、清潔感は努力でもどうとなる上に、顔面をのぞいては一番のモテ要素らしい。その中で髪は一番早くに手を掛けるべきところらしく、短めに切ってもらうよう命令された。


「はいはいはい、キミがきばっちの言ってた子ね。よろしく~☆」


 赤鬼様の紹介で来ましたと美容院のお姉さんにいうと怪訝な顔をされたので、真名を伝え直した。

 そして、現れたのが、赤鬼様の知り合いとは思えない菩薩のようなやさしい仏様であった。しかし、煩悩を呼び起こす煩求煩な御身体をしてらっしゃるので、思春期小角伏人の身体にはやさしくない仏様であった。


「いや~、きばっちが『おもしろいのがいる』って言って紹介されたからどんな子かと思ったけど、存外普通だね~」


 菩薩様は、アルカイックなスマイルをかましながら俺にクリティカルヒットをおかましになられた。


「でもね、あの子に友達がいて本当に良かった。あの子、高校に入ってすぐはめちゃくちゃ荒んでてね、それが、夏休み明けくらいからかな。面白いヤツがいたって表情が柔らかくなり始めたのよ~」


 流石菩薩、今のあの状態で柔らかくなったと思えるとは……。


 しかし、そうか。

 確かに、俺と来馬がちゃんと知り合ったのは一年の二学期に入ってからだった。

 俺はそれまでの学校での来馬は噂でしか知らなかった。


 なので、話してみると意外と話せるなという印象だった。

 その後、なんやかんやで漫研に入り浸られ、仲間を連れてこられ、徐々に封印を解き放つように暴れはじめた。


「はは、そんなに変わりましたか、アイツ」

「そりゃもう、元々頑張り屋で溜め込む癖があったからねえ。それがここに来る度、キミの話を聞かせてくれて、楽しそうだったよ」


 週刊ネタジャンプがまさかのここで公開されているとは……けれど、そうか。

 俺は、なんと言えばいいのかわからないもにゃもにゃした気持ちでいっぱいになった。

 そして、急に腰が据わったような気がした。


「あの、菩薩様」

「あ、私、大原ね。何?」

「こんなお洒落なところでアレなんですが、坊主にしてもらえませんか? あの、一回、生まれ変わりたいというか、その……」

「……うん、キミはやっぱり面白い子だね。わかった! でも、ちょっと伸びたらウチに来なさい。めっちゃかっこよくしてあげるし、整え方とかも教えてあげるから」

「感謝します。菩薩様」

「大原ね」


 そして、菩薩様のお陰で、俺は見事に坊主となる。……ちょっと誤解がありそうだが、仏の道にはまだ入れない、煩悩丸出しの男、小角伏人だからだ。


 けれど、なんかちょっと余計なものが髪と一緒に切り落とされた気がした。


 翌日、クラスでは嘲笑どころか、爆笑をかっさらい、意外にもクラスメイトから受け入れられ始めた。坊主のせいか、俺の心もすっきりしており、クラスメイトのいじりもポジティブに受け入れられた気がした。なむなむ。


 そんな俺を天羽は憎々し気に睨みつけて来たので、結局ネクロノミコンを掲げて退散させた。申し訳ありません、仏様、私は先に悪魔に魂を売ったのです。悪魔にクーリングオフはきかないのです。


 昼休み、そんなノンクーリングオフ来馬は俺の坊主を見ると目を見開いたが、その後、にやりとギザ歯を見せつけ、昼休み中俺の頭をシャリシャリし続けた。おっふ。


「あの、来馬さん」

「あん?」

「いつまで私はシャリられるのでしょうか?」

「アタシが満足するまで」


 放課後、引き続き来馬にシャリられていた。ガクブルする俺。

 しかも、そのせいか腕が疲れたとか言って、来馬の膝の上に寝転がらされ、両手でシャリされた。太ももはちょっとやわらかかったし、線香臭いと思っていた匂いもなんだかいい香りじゃない? ギザ歯で笑ってる来馬って意外と……とトランス状態に入りかけた俺、小角伏人は、心の中で読経(適当)をし続けてなんとか耐えしのいだ。


 これが悟りか……。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?