「いや~、しかし変わったねえ、おづのっち」
「菩薩様はお変わりなくお美しいですね」
「大原だから! でも、褒めてくれてありがとう!」
俺は、定期的に来馬の勧めてくれた菩薩様のいらっしゃる美容院に来ていた。
来馬はピンキリとは言ったが、美容院ってすげえなと思った。
ちなみに今日は来馬も一緒だった。来馬はなんかカットじゃない何かだったらしく、早々に終わって、俺の後ろでスマホをいじっているのが鏡越しに見える。時折、目が合うのだが、くわっと睨まれる理不尽。ぴえん。
「で、おづのっち。最近どーよ」
「お陰様で、毎日楽しいです、どーぞ」
髪の整え方は勿論、色んなことを菩薩さまから伝授していただいた。
菩薩様は下界の話題に詳しく、テレビではあれが今人気だとか、あの芸人が来てるとか、あのアーティストをしっておけば間違いないとか、街のあの店のスイーツがうまい、とか。
教えてもらった情報を元に、俺はそれを漏れなくチェックし、あの芸人はどうだったかとかあのアーティストの曲はどうだったかを来馬と評価しあった。ちなみに、来馬の評価はマジで厳しい上に、「あの芸人はモデルをナンパしまくってる」とか「あのアーティストは二股かけてるからゴミ」とかすげー芸能界のゴシップネタに詳しくて、俺は心の中でキバゥンシュンと呼んでいた。
それはさておき、流石なのは菩薩様である。美人美容師菩薩はお話がうまく、俺のその話術がうつってるなと他のヤツらと話している時によく思う。そのお陰か、よくクラスで話しかけられるようになった。盛り上げも出来てる、気がする。
そして、何度目かの菩薩様のご教授が終わる。
「今日もありがとうございました、菩薩様」
「大原でございました、また来てね」
「ええ、今日も凄い楽しかったですし、為になりました。美人の話は飽きませんね」
「も~、おづのっちはおべっか上手になったねえ」
「いえいべっ……!」
ケツを蹴られた。蹴ったのは来馬だった。ヤバいなんか知らんがめちゃくちゃ苛々している!!?
「どした? なんかあったか?」
「なんでもない……」
「あらあら~、とらないわよ私旦那いるし~」
「……! と、とるとらないじゃなく! 小角が! 調子に乗らないよう戒めてんの!」
そう叫びながら来馬はさっさと出口の方へ歩いていき、振り返ったと思うと、そのギザ歯を遺憾なく見せつけ、
「イーだ!」
その大人っぽい雰囲気とはかけ離れた子供みたいな仕草で俺を笑わせた。
笑ったら蹴られた。