目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第8話 魂を売り渡したんですケド!

 春休みに聞かされたが、来馬はマジでモデルをやっているらしい。うわあ、ラノベみたい。


 体型維持や美容、あと芸能関係に詳しいのもそのせいで、休みがちなのも仕事の関係だったらしい。

 けれど、学校はやめたくないと猛勉強をして、学年一位をキープ。なんだったら、補習はめちゃくちゃ真面目らしく先生はみんな好意的らしい。バレるのがいやで、髪で顔をかくして化粧も全くせずに学校に来てたらしいが、春休みになってそのことを全部話してもらった。


『ふぅん、そうなのか』

『え? お、お前、驚かないのか?』

『いや、別に。俺としては、なるほどなくらいの感じだったかな。だって、普段の努力している姿もそうだし四六時中ずっと一緒にいたら、あれ? コイツ実は美人じゃね? くらいは流石の鈍子・どM・鈍男、小角伏人でも気づくってばよ』


 なんて話をしてたら蹴られた。理不尽子・どS・理不尽よ、来馬晶である。


 ただ、その後学校もこれで行くからと春休み宣言された時には意味が分からなかった。

 聞いたら「アタシもざまぁに参加したい。あと、虫よけ」と言われた。

 鈍子・どM・鈍男、小角伏人はふーんとしか言えなかった。


 正直、ざまぁもどうでもよくなっていた。


 学年末でなんとなんとの二位をとって、近所のスポーツチームでエースとして活躍、近所でも爽やかお兄さんの名を欲しいがままにしている俺にとって、お山の大将天羽に対して特に何の感情も持ち合わせてなかった。


 なので、俺の後ろで口をパクパクさせた後、何も言わず俯いた天羽を見て、もういいやと思った。

 ただ、来馬は納得いかないようで、天羽に声を掛けていた。


「テメエに変われるってことを教わったつもりだったが、結局テメエは変われてねえよ。あの頃のままだったな」


 天羽はその言葉にびくりと震え無言のまま席についた。


 その日、天羽はずっと小さく震えていたような気がする。休み時間もすぐに外に出て授業ぎりぎりに飛び込んできてた。放課後も彼女は取り巻きを待つことなく一人で帰っていた。


 俺は、大きく息を吐いた。


 多分、俺の『ざまぁ』は終わった。


 元ド変態野郎、小角伏人は、我が変態人生の始まり、故郷、アンチ潔癖トイレに立ち寄りて後に、帰宅を試みようと思ったのだが、首根っこをむんずと捕まれ、止められちまったわけだ。


「なんぞ?」

「いくぞ」


 捕まった。『ざまぁ』を達成してしまったということは契約終了のお知らせである。

 俺は、バクバクする心臓を押さえながら、来馬と一緒に屋上へと向かった。


「さて、では、契約はこれにて成立だ。報酬を貰うぞ」

「あ、ああ……」

「それは……」


 と、そこで、来馬が言いよどむ。来馬が言いよどむようなことが報酬なのか?! なになに怖い!

 と、震えていると、来馬が顔を上げ、口を隠しながら頬杖をついている。


「一つ目は、その、な……名前で、呼びあいたい、んだけど……」


 あれ? コイツ顔真っ赤じゃね?

 来馬はモデルやってるだけあって美白とかちゃんとこだわっているので、めちゃくちゃ白くてきれいな肌をしている。だからこそ、赤くなるとめちゃくちゃ目立つ。


 しかし、名前呼びか……。


 気が付けば来馬からは小角と呼ばれ始めた。

 俺も出世したもんである。そして、俺も来馬のことを名前で呼べと。

 俺が何か言おうとすると、俯きながら手で制し滅茶苦茶早口で喋ってくる。


「二つ目! 今度遊園地に連れていって! 週末空いてたら!」


 それを言うと、来馬は慌てて立ち上がり、屋上から去ろうとする。

 あれ? コイツ顔どころか手も足も真っ赤じゃね?

 俺は、笑った。心の底からもにゃもにゃした。


「三つめは?」

「……ま、また、今度でいい。週末とかに」


 おい、これ以上俺をもにゃもにゃさせるでないよ。表現の仕方が分からん。

 基本ファンタジーとかのラノベしか読まないから、もうちょっと恋愛系も読むべきだな。

 でも、今となってはお勉強大好き、小角伏人、ここの答えには自信がありますぞ。


「じゃあ、三つめはいいから、俺からもお願いあるんだけど」

「なに……? 内容によっては考える」


 来馬は振り返らずに立ち止まって背を向けたまま尋ねてきた。

 いやー、まさかね、こうなるとはね。いつからかね。いや、多分決定打は分かってるのよ、いつからかは。


「あの、さ。晶」


 びくりと来馬の身体が跳ねて、小刻みに震えている。


「俺は晶のことが本気で好きなんです! 俺と付き合ってくれませんか!?」


 向こうの答えは最悪どっちでもいい。いやいや嘘嘘、成功の方がそりゃあいいよ。

 でも、ここまで変われた俺を改めてみてほしい。そして、答えを聞かせてほしい。


 来馬が振り返る。


 その顔は、俺が人生全てを、命を、魂を、この子に捧げてもいいと思った、びっくりするほどかわいい笑顔と同じくらい、輝く泣き笑い顔だった。


「伏人!」


 ギザ歯を見せつけながら彼女はこちらに駆けてくる。


 俺の魂はこれからも彼女に売り渡したままになりそうだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?