(来馬晶 視点)
遊園地にやってきた。
家族三人で来て以来、二か月ぶり。
……結構来てる。
しかし、しかし、今日は家族ではない。
いや、最終的には、その、家族、的な、ものになりたい気持ちはありますが、まあ。
今日だけは家族のジャンルから一旦外させてもらう。
彼氏と来た。
彼氏と来たんだ。
なんかもんくあんのかこらあ。
正直気合を入れ過ぎた。
いや、アタシもだけど、ウチの女性陣が。早朝から、メイクさんの莉緒ねえ、美容師の莉奈ねえ、アパレル関係のママが総出でコーディネートしてきた。
自分で選びたい気持ちもあったが、今回は任せた。
何故なら、自分では絶対に選びそうにないピュアな感じのカワイイ系のコーディネートだったからだ。自分で選んだと思われたら死ねる。
けど、絶対こういうのが好きだろうなとは思ってた。だから、悩んでた。
彼氏の髪も切ってる莉奈ねえさんが『きっと、彼ならこういうの好きだと思うから。お願い、きばっち、あたしの勘が当たってるか確かめさせて』と言ってきた。
多分、嘘だ。いや、嘘じゃないけど、アタシの為だ。アタシがふんぎりつかないから背中を押してくれたんだ。
アタシは長身ギザ歯だ。自分でも怖いヤツだろうなとは思う。
だから、カワイイなんて無理だろうな、と思ってた。
まあ、モデルの時も基本カッコイイ系だし。
けど、着てみたい気持ちはあったし、着るなら、デートの時かなあとは思ってた。
けど!
けど!
恥ずかしいもんは恥ずかしい! コイツ気合入れて来たんじゃねってアイツに思われるのが腹立つ!
けど。
まあ、見てもらうことは、まあ、やぶさかではないので、結局それで行くことにした。
これも普段被んないようなかわいい帽子を深く被って待ち合わせ場所に行く。
向かっている間、こんなかわいい服装だし、ギザ歯は見せないようにしようと心に決めた。
待ち合わせ場所。ヤツがいた。
めちゃくちゃ爽やかな格好してた。
多分、莉奈ねえさんだな。今日ちょっとウチに遅れてきたし。
スマホをめっちゃ見てる。
あ、顔上げた。
こっち見た。
見てる。
見てる。
見てる。
ああ、もう! 見つけたならこっち来いよ!
アタシは急ぎ足でアイツの所に行くと、アイツはハッとしたように、動き出した。
「ご、五体投地を……」
やめろ! 服汚すな!
どんだけ、どんだけ、アタシの恰好気に入ってんだよ全く、全く……!
全く、もうコイツは……。
駄目だ。笑う。
早速自分への誓いを破ってしまった。
あ~あ、折角かわいい恰好してきたのにな。
「やっぱ、服装もかわいいけど、中身のほうがかわいいな」
駄目だ。この恰好やめときゃよかった。
待ち合わせでこれだぞ。
アタシ、幸せ過ぎて死ぬわ、これ。