チケット売場で並んでいると前にはお母さんと男の子。
男の子はちょっとぐずっている。
入り口前に、お父さんらしき人と女の子が待ってるから家族だろう。
俺は、目の前のお母さんを見て、今朝のバスを思い出していた。
バスは結構混んでいて、俺たちが乗り込んだ時には一席しか空いておらず、無理矢理来馬を座らせた。
次の停留所で、妊婦さんが乗ってきた。
来馬は迷うことなく立ち上がり、妊婦さんに声をかける。
「どぞ」
妊婦さんは来馬が思ったよりデカかったせいか、それともギザ歯故か、ビコーズシーイズハスキーボイスか、少し戸惑っていた。
「こういう時ちゃんとしねーと家で怒られるんすよ」
来馬はそう言って家で決められてるんだとギザ歯見せつけニヤリと笑うと、妊婦さんは少し笑って、俺に会釈して席につく。
俺は思わず合わせて会釈。
隣に来た来馬に話しかける。
「かっこいいかよ」
「惚れ直したか」
「むちゃくちゃな」
「……」
あっれれ~おっかしいぞ~。
隣のあきらねーちゃんがなんにもしゃべんなくなっちゃった!
……チラリと見るとめっちゃ照れてた。
照れるならいうなよお!
なんか俺も照れちゃうよお!
沈黙のカップル。
次の停留所で妊婦さんがこちらに微笑みかけながら、降りる。
「素敵なご夫婦ですね。ありがとうございました」
「「……」」
いやいや、妊婦さん……確かにあなたはお若いですよ?
ウチの来馬は大人っぽいですよ。
だからって。
「……」
「……」
沈黙のカップル2ndシーズン突入!
いやいや、デートぞ。
我、男ぞ。
盛り上げねば。
「と、とか、言われてますけどー」
ド下手かよぉおおお!
「夫婦じゃねーし」
ウチの晶さん、そう言うてますけどぉおおお!
「……まだ」
……もし、これが大人気ラノベ展開であるならば、俺が言うべきは、
「え? なんだって?」
であろう。しかし、我は邪道の男、小角伏人。
答えはこれだ!
「なー」
なぁああああああああああああああああっ!
俯くしか出来ぬ男、小角伏人。
ちらりと横見れば、口をもにゃもにゃしギザ歯チラ見せの女、来馬晶。
なぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
バスの運転手さんよ、飛ばしてくれ。
我、遊園地着く前にしぬぞ。
あ、速度制限ギリギリで。
ルールは守ろう。