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第169話「あからさまに怪しげな二人」

 元魔王のケイロンと、猫耳賢者シンクーに明らかに怪しいと言われたアンブロサム魔王国五大公という地位にある二人。


 毛むくじゃらの巨人。

 岩トロール族族長ボーボウ・ド・トロールと。


 小柄のくすんだ灰色をした狼人。

 コボルト族の族長ウルブストー。


 不気味な沈黙を守る二人は、後に行われた武闘大会の交流戦でも大活躍を見せる。

 結果から先に言うと、商人賢者シンクーの疑いは正しかった。


 彼ら二人はアンブロサム魔王国を裏切りっており、反神の軍師を名乗るシェイドより特別な武具を与えられていたのだ。

 そのため、二人は格下の魔王国五大公でありながら、それを超える魔王クラスの実力を有している。


 かつては、のろまとあだ名されたボーボウ。

 岩トロールとは思えぬ口調で、シンクーが用意した対戦相手を前に果敢に攻めかかっていく。


「公国の騎士よ。こないのならば、こちらからいくぞ――。空震烈激掌アースクエイク・バングゥウ!」


 もとより、巨大な岩をも超える硬さを持つ拳だ。

 それが、シェイドにより与えられた反遅の籠手により弱点であった動きの鈍さが反転して、神速の拳となる。


 単純にして、ストレート。

 音速を遥かに超え、ソニックブームをまとって突き進む拳はまるで天より落ちてくる流星の如く、無比の強さを見せる。


「ぐぅぬぁああああ! ま、まいった……」


 対戦相手は、鉄壁の防御力を誇る天星騎士団金剛の騎士オルドス団長であった。

 若干ズルだが、相手の力を試すためにシンクーが防御魔法を七重にもかけまくっていたにもかかわらず。


 聖鎧金剛ダイヤモンドの防御をもってしても、たった一撃でなすすべもなく弾き飛ばされて激しく壁にまで叩きつけられた。

 手加減されていたとは言え、神帝竜シュウドウの一撃にも立っていたオルドス団長がいともたやすく倒されたのだのだ。


 うーぬと、観察していたシンクーは唸る。

 やはり、その力は魔王クラスに達していると言っていい。


 そして、もう一方。

 かつては五大公であるのに、狡知だけの男。


 数合わせの男とバカにされて、心も身体も小さき者と蔑まれた灰色の狼人ウルブストー。

 こちらの対戦相手も、もともとアンブロサム魔王国とは因縁の相手である、公国の姫騎士。


 聖剣天星剣シューティングスターを構えるマチルダである。


 手に訓練用の素槍を持つウルブストーは、その狡知こうちを生かした的確な突き技を放つ。

 こちらも、実力を測るために、シンクーがマチルダに補助魔法をかけたのだが……。


「なっ、なぜ攻撃がきかない」


 果敢に聖剣で斬りかかっていくマチルダだが、その巧みな連撃攻撃はウルブストーの身につけている禍々しき鎧によって跳ね返される。

 この鎧。硬いとかそういうレベルではない。


 まるで地面を斬りつけているような重さがある。


「その程度ですか、公国の姫騎士」

「断ちがたきものを断つのが、この聖剣天星剣シューティングスターよ! 公国騎士の誇りを舐めるなぁああ!」


 姫騎士マチルダは、その猛々しく短慮な性格はともかく。

 実力だけは、魔王国に対する決戦兵器という扱いを受けている騎士だ。


 タダシと交わることで、マチルダ自身もパワーアップしている。

 その上で、商人賢者シンクーが攻撃補助魔法までかけているというのに。


 全力を振り絞ったマチルダの斬撃が全く通じない。


「クククッ、終わりなようなので次はこちらから。機械仕掛けの滅打メカニカル・アタック!」

「うぁぁああああ!」


 反神の軍師を名乗るシェイドにより与えられた反守の鎧。

 その謎の力により、ウルブストーの上位魔族としては脆弱な肉体をカバーする圧倒的な守備力と強大な攻撃力が与えられている。


 もともと、繊細な槍技を得意とするウルブストーだ。

 マチルダのガードをものともしない突き技の連打だけではなく、最後は見事な払い技も見せて、公国の姫騎士マチルダの足を払い除けて弾き飛ばした。


「そこまでニャー!」

「ええい、離せシンクー! 私はまだやれる!」


 勝てない相手になおも立ち向かおうとする負けず嫌いのマチルダを、シンクーは羽交い締めにして退出させる。

 今は模擬戦の形を見せているが、この二人はいつ牙を剥くかわからない。


 もし練習試合に見せかけてマチルダが殺されれば、公国のみならずタダシ王国全体に大きなダメージがある。

 まったく、母親になってもこれとは、少しはマチルダも自重をおぼえて欲しい。


 だが、そのおかげで相手の力を見る役割は果たせた。

 まだ何か力を隠している可能性はあるにせよ、その強さはまさに魔王級だと確定した。


 しかし、この異様なパワーアップの謎もわからないし、まだ裏切ったという尻尾は見せない。

 証拠がなければ、タダシに討伐を進言することもできない。


 敵は、どう仕掛けてくるつもりだ?

 ここからどのように、二人の尻尾を掴むか。


 商人賢者シンクーは、ニャルルルッ! と、猫の爪を構え。敵意を向けた眼差しを向けて。

 その天才的頭脳を回転させて、方策を考え続ける。


 さて、無傷で戦いを終えて、不気味に微笑んでいるかのように見えるボーボウと、ウルブストーの二人であったが……。

 二人は、今まさにとんでもなく焦っていた。


 仕方がないので平然を装っているものの、不気味な鎧の下は、冷や汗ダラダラである。


「おい、ウルブストー。どうするんだ。完全に怪しまれてるぞ」

「どうすると、俺に言われても……こんなはずでは」


 小声でゴソゴソと相談する二人。

 タダシ王国側にあからさまに怪しまれているせいか。


 それとも、異様な空気が漂っているせいか。

 二人の周りには、同じアンブロサム魔王国の魔族たちもかかわりを恐れて寄り付いてこない。


「おい、タダシ王国の宰相から、めっちゃ睨まれてるってー」

「クッ……」


 この緊迫した空気を破るかのように、一人の女性がボーボウとウルブストーの二人に声をかけた。

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生産革命コミック4巻、本日発売です。電子はもう発売してます。

それに合わせて、更新していきます。

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