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第16話報告と準備と葛藤と 2

 ナルム平原を抜けると、いよいよ目的地である主都イザバナが見えてくる。


 とにかく急いで報告しなければならない。

 あの竜騎士、ドラグーンとか名乗っていたダースゴール。レムレース空域から来たと言っていた。もしもそれが本当なら、今までの言説は覆される。


 空の国、レムレース空域には人間はいないはずだ。神話の通りなら、レムレース空域を作り出したのは闇のドラゴン。


 ドラゴン以外の全ての種族を消し去ろうとしたとされるあのドラゴンが、人間と共存しているとは考えにくい。そもそもからして、あの竜騎士は人間なのだろうか?


「人間ではない?」


「なによハンス。急に」


 イザバナを目前にして、思考の海に沈んでいた俺の独り言にニーアが反応する。


「いや、ダースゴールのことを考えていた。アイツがレムレース空域から来たというのが嘘なんじゃないかって。神話の通りなら、闇のドラゴンが人間と共存なんてしないだろう?」


「それもそうね。何より、あの強さはちょっと異常よ? 龍技を使用してないとはいえ、私たち二人で挑んでギリギリ。あんなの化け物じみてるわ」


 ニーアも同じ感想だった。

 いくらなんでもスピード、パワー、反射神経、タフネス。どれをとっても人間のそれではない。竜の加護を得ている俺たちと対等か、それ以上。


 俺とニーアはこの国トップの戦力とされている。その二人が同時に挑んで、いなされるとなると、いよいよ人間だとは思えない。


「何か別の種族かもな」


 レフレオは俺たちの会話を聞いてそう結論付ける。


「人間っぽい、人間じゃない種族ってこと?」


「ああそうさ。匂いが人間っぽくなかったんだよな~アイツ」


「匂いで分かるのか?」


「匂いで分かるの」


 どうやらレフレオは匂いだけで種族が分かるらしい。どんどん守護竜の血族とは思えないスキルばかりが表面化しているが、彼のブランディング的にはこれで良いのだろうか?


「着いたぞ!」


 ダースゴールの考察を行っていた俺たちは、気がつけばイザバナの住宅地に突入していた。


「緊急事態だ。構わず全速力でラジックタワーへ向かえ」


「良いのか? イザバナ内でドラゴンには跨らないんじゃなかったのか?」


「そんなこと言ってられるか。ただし人との衝突だけは避けてくれ、ドラゴンの人身事故など見たくない」


「了解!」


 レフレオは大きく返事をすると、ナルム平原を突っ走った時と同じだけの速度で、イザバナを疾走する。大通りは避け、小さい道や屋根の上などを経由して、とにかく人があまりいないルートを探しながらラジックタワーへと向かった。



「はぁはぁ……」


「レフレオ。お疲れさん」


 ラジックタワーに辿り着いた俺とニーアは、それぞれのドラゴンを労いねぎらニック司令官の元へと急ぐ。


「失礼します!」


 ラジックタワー三階に辿り着いた俺は、返事を待たずして司令室を開けると、ニック司令官は驚いた様子でこちらを凝視していた。


「そんなに慌ててどうした?」


 ニック司令官は冷や汗をかいていた。なんとなく分かってはいたのだろう。俺たち二人を派遣するということはそういうことだ。


「報告します! ダニール谷にてエタンセルの騎兵隊を目撃、しかし彼らは、すでに全員殺されていました!」


「殺されていた!?」


「はい! そしてその直後、ダースゴールと名乗る男に強襲され、俺とニーア二人がかりでなんとか退け、今に至ります! ダースゴールは自身をレムレース空域のドラグーンだと申しておりました!」


 俺の報告を受けて、ニック司令官は言葉を失う。

 表情からは血の気が失せ、拳を強く握りしめていた。


「そうか……遂に来てしまったか……」


「司令官?」


 おもむろに呟いたニック司令官は、どこか虚ろな目をしていた。


「いずれやって来るだろうとは警戒していた。エタンセルの件もあったが、どちらかといえば空からの襲撃に備えてお前たちを行かせたのだ」


「ということは事前に危惧していたのですね? だったらどうして教えてくれなかったのですか? 分かっていればもう少しやりようだって……」


「ハンス……君の気持ちは分かる。だがこれは機密情報扱いの案件だ。簡単には話せない」


「それが光の後継者と守護竜の末裔のペアが相手でもですか?」


 黙って聞いていたニーアが口をはさむ。


「私に教えないのは当然理解できます! でもハンスとレフレオは違う! 彼らは神話の後継者! 特別だから、光の後継者としてハンスを指名して、レフレオをあてがったのでしょう? だったら最後まで信頼しないでどうするんですか! 神話の後継者の名を背負わされたハンスの気持ち、分からないとは言わせないわ!」


 とても上司に向けて使っていい言葉遣いではないが、それだけ彼女は怒っていた。怒ってくれていた。


 彼女は国の上層部を除けば、数少ない俺が光の後継者だということを知る者だ。


 俺は常に悩みながら、竜騎士として、光の後継者として、生きてきた。


 それを知っているからこそ、彼女、ニーア・ストラウトは怒るのだ。怒れない俺の代わりに、この国最強の女騎士、炎撃のニーアが食って掛かる。


「そう……だな。ニーアの言うことに間違いはない。我々は無責任だった。ハンス、ニーア。君たち二人には話しておこうと思う。今この国がどういう状況か、敵は誰なのか、そして今後の指針について」


 ニック司令官は覚悟を決めた様子だった。

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