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第18話ニーアとハンスの決意 1

 ニック司令官と話をした後、レフレオたちと合流して一旦解散することになった。ニーアはニーアの家に、俺は俺の家に。それぞれ考えたいことがあったのだ。


「なんか久しぶりに感じるな」


 俺とレフレオは一週間ぶりに自宅に戻ってきた。


 キース通りの目前、ラジックタワーから徒歩一〇分ほどの好立地なところに我が家がある。


 前回の任務、イリーナ海岸防衛戦の後は、作戦終了を祝って飲みに行ったニーアがそのまま家に転がり込んできたため、俺とレフレオだけでの帰宅は本当に久しぶりだった。


「いや~しかしまいったね~」


 レフレオは自分用の藁のクッションにその身を預けると、飲み屋のおっさんのような口調で現状を表現した。


「まあ、俺もそんな気分だよ」


 ここ一、二週間で目まぐるしく状況が変わってしまった。


 少し前なんて、なんにも知らなかったのだ。

 ある程度疑ってはいたし、ニック司令官からちょくちょく聞いてはいたけれど、正式に事実として、今のレフレオ共和国が置かれている現状を知ったのはここ最近だ。


「結界の弱体化によって、ドラグーンがダニール谷に出現したところまでは良いとして……良くはないんだけど、そこまでは理解するとして、エタンセル王国は何を考えている?」


「それを俺に聞くのか?」


 レフレオは意外そうな顔をしているが、ここには俺とお前しかいないんだから、お前に聞くしかないだろ?


「別に正しい考察を求めてるわけじゃない。単純に頭の整理がしたいだけだ。お前にだってあるだろ? そういう時」


「いや~無いな~」


 うん。分かってた。無いよね、レフレオは悩まないもんね。


「あるんだよ、人間には。だから手伝え」


「しょうがないな~代わりに今度外に出るときは、必ずボルト樹林に寄ってくれ!」


「なんでだ?」


「あの巨大ネコの味が忘れられなくて……」


 そんなに美味かったのか……。そこまでハマられると、俺も気になってくるではないか。


 俺はそのネコの断末魔しか聞いてないのだ。姿を見る前にレフレオにガぶりといかれている。


「はいはい。分かったよ。それでいい。どうせあっち方面の任務が増えそうだからな」


 実際、ダニール谷に竜騎士が再び現れたとなると、俺かニーア、もしく第一師団所属の精鋭でないと、出会い頭に殺されるのがオチだ。


「これからは戦闘が増えるのか……はぁ……」


「ため息をつくなよ。俺だって戦いたいわけじゃない」


 竜騎士団に所属しているくせにと思われるかも知れないが、俺もレフレオも戦いたいわけじゃない。できるならゆっくりと、酒や肉でも食いながら喋っていたいのだ。


「今日は飲もうかな……」


「じゃあ俺は肉の用意をしてくるぜ」


 そう言ってレフレオは、部屋の奥にあるレフレオの個室に消えていった。


 この家は出入り口からすぐに円形のドーム型の部屋があり、そこからキッチン、風呂トイレ、俺の部屋、レフレオの部屋と別れている。比較的イザバナ内でも、高級とされている間取りのマイホームだ。


 今俺が座っている部屋が一番のメインルームとなる部屋で、出入り口から一番最近い場所だ。ここには椅子はおいておらず、両手いっぱいに広げても届かないほどの低めの丸テーブルを部屋の中心に据えている。床は木製で、上にクッションやら動物の皮やら羽毛やらを適当に散らばし、何処に座っても良いようになっている。


 ちょくちょく遊びにくるニーア曰く、急に寝転べる部屋らしく、飲み食いしてそのまま寝ることができる素晴らしい部屋なのだそう。


「俺は酒の準備でもするか。肉はレフレオが持ってくるらしいから、チーズでもあれば上出来か」


 俺は重い足取りでゆっくりとキッチンに向かう。


 我が家では、肉類だけは何故かレフレオが持ってくるということになっていて、レフレオが自身の部屋に消えていくと、その十数分後には焼きたての肉をお皿ごと背中に乗せて戻ってくる。


 一体どうやって調理しているのか分からないが、とにかく出てくる出てくる。


 前に一度部屋の中を覗こうとしたら、凄まじい剣幕で怒られたので、それ以降この謎に挑むのはやめたのだ。


「おーい肉が焼けたぞ~」


 噂をすればレフレオが、大皿に雑に切られた切り落としを背中に乗っけてやってくる。


「こっちももうすぐだから待っててくれ!」


 俺はキッチンから大声を張り、急いで俺の顔ぐらいある円盤型のチーズにメスを入れる。そして氷水で冷やしてある酒瓶を取り出し、メインルームのレフレオの元へ。


 レフレオもお酒を嗜むので、深めの皿に酒をなみなみ注ぎ、切ったチーズを添えたら晩酌の用意の完成だ。


「なあレフレオ」


「なんだよハンス」


 レフレオは不思議そうな顔で俺を見る。こうやって見ると、本当にドラゴンなのか怪しく思う時もあるが、コイツはれっきとしたドラゴンだ。それも守護竜レフレオの血族。守護竜と同じ名前を与えられた、誇り高きドラゴン。


 一方の俺も、レフレオから見たら本当に光の後継者なのか怪しく映るかも知れない。なにせ全くもって英雄っぽくもなければ、救世主感もまるでない。それにレフレオ共々、上層部からの信頼はそんなに厚くない。


「なんだかんだ背負った者同士、これからもよろしくな」


「ふん。何を当たり前のことを……むしろこれからじゃないか!」


 そう息巻いたレフレオは、そのまま黙々と食べ始めた。

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