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第22話辺境の村、カーリルト 2

 謎の異形クリーマからの襲撃を受けた後、俺たちは無事カーリルト村に到着した。


 広さはせいぜいがイザバナの一〇パーセント程度で、文明レベルは明らかにイザバナよりも劣っている。


 近頃イザバナで見かける、カラクリで走る乗り物は存在せず、建物に使われているのはほとんどが木材のみで、色も塗られていない。建物の外観に気を使っている余裕は全くないと言わんばかりだ。


「寂しい村だな」


「失礼だぞ? レフレオ」


 俺は失礼極まりないオオトカゲに説教をかます。世の中には言っていいことと悪いことがあるのだ。


「オオトカゲも言って良いことでは無いと思うが?」


「良いんだよあれは。誰も傷つかないだろ?」


「いや! 俺が傷ついてるんですけど!?」


 レフレオは信じられない者を見るような視線を俺に向ける。


 冗談はよして欲しい。俺はごくごく一般論を語っただけだ。


「それにしてもさっきのクリーマは何だったんだ?」


 レフレオは早速この寂れた村への関心を失い、話題は先ほどの化け物、クリーマへとすり替わる。


「何だったんだって言われても、クリーマはクリーマだろう?」


「それは分かってる。俺が言いたいのは、どうして急に襲って来たのかってことだ」


 ふむふむ。

 レフレオの言いたいことは分かる。

 確かに襲われた側はそう思うものだ。

 しかし、よく自身の胸に手を当てて考えて欲しい。


「お前、ボルト樹林で巨大ネコを襲う時、何か理由があったりするか?」


「なんだよ急に。そりゃあ食ったら美味いからだ」


「たぶんそれが理由だぞ?」


「マジで!?」


 レフレオは表情が崩れるぐらい驚いていた。


 そんなに驚くことか?


 騎士団の座学で異形の者について学んだ俺にとっては常識だが、レフレオがここまで良いリアクションをとってくれるということは、どうやら一般的な認識ではないらしい。


「マジだ。覚えておけよレフレオ。異形の者は人間を食べる。一説によると、新たな人類にしようと神が用意したのが異形の者だそうだ。だから俺たち不要な旧人類を貪るのさ」


 実際に土着の異形に食われた例は、たまに報告がある。


「それに任務の撃破対象は、たぶんアイツだろ?」


 俺は自分で言いながら苦い顔をする。


 ぶっちゃけ対峙したくないレベルの強さをしていた。

 ここに派遣されていた第二師団六名が殺されたのも頷ける。あれは第二師団レベルで敵う相手ではないのだ。


「とりあえず村長にでも挨拶するか」


「そうだな。忘れてた」


 レフレオは俺を背中に乗っけて、村長の家があるであろう村の内部へと進行していく。


 人口自体はそこまで多くはないカーリルト村だが、道行く人々は一人残らず、俺たちを遠巻きからジロジロ眺めている。


 妙な感じだ。

 今まで何度も遠方の村や町に行ったことがある。

 怖がる人も中にはいたが、大半は歓迎ムードだった。周囲に出没する異形を倒してくれる存在なのだから当然だ。


 しかしこの村は違う。

 カーリルト村全体に漂うこの空気感は、おそらく諦めだろう。恐怖と諦め、絶望。そんなところだろうか。


 土着の異形に第二師団の竜騎士六名が殺されるなど、前代未聞と言ってもいい。遠く離れたイザバナでもニュースになるくらいだ。それだけショックの方が大きかったのだろう。何度も異形を退けてきた竜騎士たちが、六人がかりで倒せなかった異形。


 彼ら村人からしたら、竜騎士の階級なんて分かりはしない。人数でのみカウントする。それだったら俺とレフレオが受けている視線は納得がいく。


 六名でダメだった異形に対して、派遣されてきたのはたったの一人。


 中央はカーリルト村を見捨てたのだと、この男は捨て駒なのだと、そう思われているのだろう。


「結構な態度じゃないか」


 レフレオも俺と同じく、村人の視線に気がついたのか、やや憤っている。


 彼の怒りは理解できるが、それと同時に村人たちの反応も理解できる。これは速やかにあのクリーマを始末して、この陰鬱とした雰囲気を一掃しなくてはならない。


「ニック司令官も、相変わらず人選が上手い」


「そこには同意する。あのハゲ、民衆の気持ちをよく理解してやがる」


 実に口の悪いレフレオだが、言ってる中身はあっている。ここで俺がたった一人でクリーマを始末してしまえれば、村人からすると、より強力な竜騎士を派遣してくれたと思うだろう。


 これで主都イザバナへの信頼の回復と、たった一人でクリーマを始末できる人材がいるという、竜騎士全体への信頼の上昇。ニック司令官はおそらくこの二つを考慮して、俺を選別している。


「あの家っぽいな」


 俺は団栗の背比べに見えた村の家々の中から、あからさまに大きい家を見つけて指をさす。


「お前は黙ってろよ?」


「アイアイサー」


 ふざけた様子のレフレオは、しかししっかりとお口をチャックする。村人の聞こえるところでベラベラ喋られては、後々めんどくさい。普通、ドラゴンは喋らないのだ。


「失礼します」


 俺は入り口が暖簾になっている、建物に侵入する。


 暖簾をくぐると、中には暖炉が焚かれ、その奥には村長と呼ぶには若すぎる、俺とたいして歳の変わらない青年が、木製のコップに入った何かを啜っていた。

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