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第31話職人街ギルド 2

「この先か」


 俺たちはトロッコのレールに従い、真っすぐ道なりに進んでいた。そしてトロッコのレールは陽光から逃れるように、薄暗い坑道の中へと続いている。


「洞窟というか、ここが坑道ね」


 ニーアのいう通り、ここは坑道と呼んだ方が正しいだろう。


 洞窟と呼ぶにはあまりに人工的だ。


 トロッコのレールが続いている坑道の入り口は存外に広く、数人が一列に並んだままでも、すんなり進めそう。


「どうだレフレオ。クリーマの気配はするか?」


 俺は洞穴の暗い入り口を睨み、尋ねる。


「いるな。数は……一〇体はいないだろうが、それに近い」


 敵の数が一桁というのが分かっただけでも良しとしよう。二桁を超えられると、いよいよ軍隊を相手にしているような気持ちになる。


「中の広さは分からないが、狭いところで複数に襲われるのは嫌だな」


「じゃあどうする? 出てくるまで待つ?」


 ニーアは俺を見つめる。判断を求める。

 本当はそうしたいが、残念ながらそうはいかない。


「いや、行こう。いつになったら出てくるのかも分からないし、外で戦うことになった場合、逃げ出されたりしたら厄介だ。その点、今こちらから出向けば、逃げ場などないだろう? 一網打尽にできるさ」


 そう言って俺は先導して歩き出す。


 坑道の入り口には見たことも無いような道具が散乱し、職人街ギルドの技術力の高さが窺える。


 中は……思ったより暗いな。


「ニーア。ちょっと待て。光の加護を目に宿らす」

「うん。お願い」


 俺はニーアの目を片手で覆い、意識を集中する。

 覆った手のひらが一瞬淡く光り、俺は手を離す。


「これが光の加護ね。ほとんど太陽の下にいるのと変わらないのね」


 ニーアは嬉しそうに周囲を見渡す。


「これなら急に襲われても対処しやすいだろう?」


 俺は自身の目にも同じ処置をして、ニーアと二人で中へと進んでいく。


「おいハンス! 俺とフレイヤはどうするんだ?」


「お前たちは入り口を見張っていてくれ! この狭い坑道で挟まれたらシャレにならない!」


「了解!」


 レフレオはあっさりと承諾し、フレイヤになにやらごにょごにょ口を動かしていた。もしかしたらドラゴンにのみ伝わる言語でもあるのかも知れない。



 坑道の中をひたすら真っすぐに進んでいく。道中に分かれ道はなく、一本道だ。


「坑道ってこんな一直線に掘り進めるものなのか?」


 俺は首を傾げる。

 なんかもっとこう……いろんな鉱石を求めて、あっちこっちに掘っているものと思っていたのだが。


「ここは普通の坑道じゃないのよ」


 ニーアが意味深なことを口にする。


 普通じゃないのならば、どんな坑道だというのだろう?


「旧人類の技術を掘り出すための場所よ」


「旧人類の技術? よくアンティークショップに売っている”機械”とかのことか?」


「ええ。それの使い方はほとんど知られていないけど、今の人類がこの世界の主役に返り咲くには必須なんですって」


 ニーアは軽いため息とともにそう吐き捨てた。

 まあ彼女の気持ちも分からなくはない。


 元をただせば、その発達しすぎた技術力が仇となって滅びの道を歩んだのが旧人類だ。そこをもう一度辿ったところで結末は同じだろう。


「この先にいるな」


 俺たちは三〇分以上この薄暗い坑道内を歩き続け、ようやく最深部にまで辿り着いた。


 坑道内は一貫して薄暗いままだったが、最深部の最奥は何故かうっすらと光っていた。


 中には複数の気配がある。


 俺はそっと中を覗き、最奥の空間を観察する。


 光源は、驚いたことに岩壁に半分埋まった機械からだった。その光の影になっているのが、今回の討伐対象のクリーマだ。その数は六体。色合いがどの個体も坑道の壁の色と酷似していた。


「敵は六体。壁に埋まった機械から光が放たれている」


 俺は背後のニーアに状況を説明する。


「私が一気に焼き尽くそうかとも思ったけれど……その機械はちょっと気になるわね」


 確かに彼女の言う通り、何故か稼働している機械は是非とも回収して、ギルドの職人たちに鑑定してもらいたいところだ。


「それじゃあ俺か」


 敵は六体のクリーマ。


 手加減するだとか、様子見をするなんて余裕はありはしない。


 最初から全力で行くまでだ。

 幸い相手はこちらに気がついていない。見た感じ、俺が前にカーリルト村で倒したクリーマほど強くもなさそうだ。


「龍技”屈折”……」


 俺は剣を鞘に沿わせて光をイメージする。

 アイツらから光を奪うのだ。


「ハンス。陽光以外でも屈折は使えるの?」


 ニーアは当然の心配をする。


 今まで人工的な光を屈折できたのは、せいぜいが松明の明かり程度。未知の機械の光で試したことはない。


「分からない。だけど、やるしかない!」


光の輝きはお前たちを差別するライトオブヴェーレン


 小さく唱えた瞬間、中から複数の奇声が発せられる。

 上手くいった!


 そう確信した俺は、一気に剣を構え高速で中へと侵入する。


 一番近くにいたクリーマを横一文字に斬り倒し、そのまま次の敵に襲い掛かるが、標的のクリーマは見えていないはずなのに俺の剣を紙一重で躱す。


 おかしい。

 何かがおかしい。

 光は彼らに注いでいないはず。

 何も見えないはず。

 どうやって反応した?


「ハッ!」


 俺は怯まず剣を振る。

 絶対の一撃を繰り出し続け、二体目を無事に斬り伏せた。


 斬り伏せた時点で理解した。


 こいつらは視界に頼っていない。


 ”最初から”光をほとんど認知していないのだ。


「ハンス!」


 残りの四体が全方位から俺に同時に斬りかかる。


 ニーアの声が聞こえる。


 俺は冷静に前方の二体に対処する。


 一体を蹴り飛ばし、もう一体の振るわれたかぎ爪を剣で受け止める。


 俺の背後にいた二体は、俺しかいないと思っていたのか、後ろから迫る炎撃の騎士の存在にまるで気づいていなかった。


「死になさい!」


 薄暗い坑道の中、ニーアが放った炎撃が二体をすんなりと焼き切ってしまった。


 これで二対二。


 こっちにはニーアがついている。


 まさか視界に頼らないタイプだとは思わなかったが、おおむね奇襲は上手くいった。


「助かったぜ、ニーア!」


「視界を奪われても戦えるなんてね」


 俺とニーアは油断せず剣を構える。


 大抵クリーマには特殊な能力がある。視覚以外の感知方法を持っているという特性よりも、もっと厄介なものを持っている可能性だってあるのだ。

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