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第36話復讐 1

 ニーアは一睨みしたと同時に飛びかかる。


 間違いなく全力。


 彼女の殺意が炎となって周囲を焦がしながら、あっという間にダースゴールの懐に潜り込む。


「おっと、危ない危ない!」


 しかしダースゴールは余裕の表情を浮かべて飛び上がり、ニーアの剣戟を避けると、そのまま重力通りに真下のニーアに斬りかかる。


「甘い!」


 ニーアはそこまで読んでいたのか、振り下ろした剣をそのまま斬り上げ、迎撃する。


 両者の剣がかち合い、火花が飛び散る。


 一方は赤い刀身。もう一方は黒い刀身。


 対照的な両者の剣が、周囲を戦いの色へと染めていく。

 しばしの鍔迫り合い後、両者とも一度距離をとって構える。


「そろそろ参戦するか」


 俺は剣を片手で構え、剣先を真っすぐダースゴールに向ける。


「変わった構えだな」


 ダースゴールは俺をちらりとみやり、そう呟く。


「今は、このスタイルがピッタリなのさ」


 淡い月明かりの中、俺は意識に光を纏う。俺が司るのは光だ。


 俺は光の後継者。


 神話の後継者。


 ここでニーアを失うわけにはいかない!


「行くぞニーア!」

「ええ!」


 俺とニーアは同時に斬りかかる。


 俺が先に片手で突きを放ち、ダースゴールが躱したところを、大振りに薙ぎ払うニーアの一撃で襲撃する。


 ダースゴールはそれを剣で受け、ニーアの剣から放たれる炎の斬撃をその鎧に受ける。


「くっ! なるほど。そういうことか」


 分かったところで止められるものか!


 俺たちは同じパターンで攻撃を続ける。


 何度も何度も、躱されながらも繰り返し、徐々にダースゴールにかすり傷が増えていく。


「小賢しい!」


 一瞬の隙をついて剣を大きく振り払ったダースゴールは、そのまま剣を再び構える。


 吹き飛ばされた俺たちだったが、上手く着地し、構えを崩さない。


「そういう戦い方か……考えたな」


 ダースゴールはそう感想をもらす。

 俺たちの戦い方は非常にシンプルだ。


 俺とニーアを比べた場合、一撃の重さは圧倒的にニーアだ。しかし二人そろって剣をぶん回していては、お互いが邪魔となってしまい、上手く数の利を活かせない。


 そこで思いついたのがさっきのやり方だ。


 俺が剣を片手で構え、攻撃は斬るのではなく突く。


 そうすることで、ニーアが剣を振るうスペースを確保し、ほとんどタイムラグのないままダースゴールに攻撃をし続けられる。


「そいつはどうも。だがどうする? いくらアンタが強いとは言っても、今のままでは俺たち二人相手に勝てないことぐらい、分かっているだろう?」


 俺は安い挑発をする。

 今のままでは勝てないのは、どちらかといえばこちらの方だ。


 ダースゴールはまだ一度たりとも自分から攻撃してきていない。すべてカウンターだ。コイツは本気どころか、まともに戦ってすらいないのだ。


「うむ。そうだな……お前たちの剣の腕前は見せてもらった。正直期待以上だ。だが、それは攻勢時の話だ。しかし」


 言葉の途中でダースゴールが消えたかと思うと、一瞬で俺の目の前で剣を振り被っていた。


「守勢に回った時は、どうかな?」


 そんな言葉と共に振り下ろされた黒刀が、俺の左腕を掠める。


「クッ!」


 顔をしかめ後ろに飛んだ俺の後を、ダースゴールが追撃してくる。凄まじいスピードと剣の圧。確実にここで俺を仕留めるつもりだ。


「ハンス!」


 ニーアが叫びながらこちらに向かうが、間に合わないだろう。


 前方にはスローモーションに映るダースゴールの姿。


 ここで死ぬのだろうか?


 そう思った矢先、心の中でそれを否定する自分がいた。

 俺はこの世界の行く末を見届けたい。


 光の後継者として、神話の後継者として、空と海を我々人類の手の中に……。


「こんなところで死んでたまるか!」


 その瞬間、自身の左胸から一筋の光が漏れだし、ダースゴールの剣を防ぐ。


「なんだと!」


 流石のダースゴールも驚いた様子で剣をさらに押し込むが、それ以上剣は進まない。ダースゴールとのあいだに現れた光の盾は、一切の侵攻を許さない。


「こ、これはレフレオの!」


 ダースゴールはそう言って飛び退く。


 そこにニーアが振るった剣が空を斬る。


 今あいつ、この盾のことを「レフレオの」と言ったか?


 俺はちらりとレフレオを見る。


 あいつは他の竜騎士たちと共に、エタンセルの騎兵隊の対処をしている。俺に対して何かした気配はない。


 ダースゴールが言うレフレオとは、おそらくコイツじゃない。守護竜レフレオのことだ。


「お前……何者だ?」


 ダースゴールは明らかに警戒した表情で、俺を睨む。

 先程まで確実にニーアに対してのみ警戒していたが、その警戒心は俺に向いている。


「俺か? 俺はレフレオ共和国第一師団所属、光の後継者、ハンス・ロータスだ。覚悟しろよ罪人!」


 俺の前に現れた光の盾は砕け散り、俺の周囲を円環する。


 俺の能力は光。闇夜で光がないのならば、自身から発すれば良いだけのこと。


「光の後継者だと? ハハハ! 何を言っている! あれは伝承だ! そんなもの実在するはずがない!」


 明らかに取り乱した様子で取り繕う。


「信じられないか? だったらお前の肉体に刻んでやる!」


 俺とニーアは一斉に飛びかかる。


 ニーアは炎の加護を纏いその速度を上げ、俺は光の加護を纏い、彼女に追随する。


 もうすぐダースゴールに届くかというタイミング。


 ピクリとも動かなくなったダースゴールの上空から、凄まじい爆裂音がした。


 嫌な予感がして、ニーアを庇いながら方向転換しようとしたが遅かった。


 突如上空から襲来した黒い光を躱しきれず、背中に黒い火傷を負った俺は、そのまま立ち上がれなかった。


「嘘でしょう……? ハンス! ねえハンス!」


 ニーアは必死に俺に声をかけるが、なんとか手で合図をするのがやっとだった。


 ニーアが俺に声をかけているあいだに、黒い光は黒い雷となって、ダースゴールの周囲に降り注ぎ、地面を抉り、大地を変形させる。


「待ってて! すぐにアイツを殺して手当てするから!」


 鬼の様な形相でニーアは立ち上がり、剣を鞘に沿わせる構えを見せた。

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