複数の足音が、城の石畳に響き渡る。
しかし大人数ではない。むしろ大国からの来訪者にしては、少なすぎる人数だと言えた。
けれども百人千人の精兵を引き連れるよりも、遥かに剣呑で危険な四人の男女。
「相っ変わらずシケた城だぜ。辛気臭ぇっつーか、ショボいんだよなぁ。あとさぁ、暗ぇんだよ、雰囲気が」
「いつも言ってるだろう、いちいちデカい声を出すな。頭に響く……。ハァ……ダルい。つうか、俺にはこっちぐらい静かな方がいいわ。オーデンセは何かとやかましいんだよ。ここは静かでいい……」
二人の言い様に対し、
「相変わらず、お前達兄弟はまったく……。いい加減、非礼にすぎるぞ」
「え〜、別にいいじゃんか。属国だろォ? こんな城の事をどう言おうが、オレ達はご主人様なんだからよォ」
「どこまで愚昧なんだ。この城やこの国に対して言ってるのではない。わざわざこんな僻地にまで足をお運びになられた、クローディア様の労苦に対して非礼だと言っているのだ」
むしろそちらの方が非礼すぎるとしか聞こえない、女性の言葉である。それに対して分かったのか分かってないのか、兄弟と呼ばれた二人は「へぇ〜い」と下賤な言葉遣いで生返事をする。
三人は全員、騎士の出立ちであった。
共に形状の似た身なり。明らかに同一の所属になる騎士。
しかもかなり高位の者であるのは、衣類の仕立てだけで分かった。
この三人を引き連れているのが、一際高貴な服装の女性。
彼女が身に纏うのは、深海のような濃い青のドレス。胸元や二の腕飾りには、この世には存在しない青い薔薇のあしらいがあり、シンプルなようで複雑なラインが、王侯貴族以上の品格を見る者に与えた。
艶のある黒髪に、紫がかった深い紺色の瞳は、深沈として底の見えない思慮を思わせる。
この女性こそ、ゼーラン王国を事実上の支配下におく、ダンメルク王国の
クローディア・クローグであった。
そして彼女の引き連れている三名の騎士が、彼女から神霊の力を分け与えられた三人の
「静かなのは――」
先頭を歩くクローディアが口を開いた瞬間、三人はぴたりと会話をやめた。
「私達が来たからでしょう」
「怖れているという事でしょうか?」
三人の内、双剣を差す女性騎士が尋ねる。
「それも勿論ですが、我々を警戒している、という方が正しいでしょうね。城に満ちている
クローディアは光を映さない瞳で、無表情に告げる。
満ちている――と言ってもそんなものを感じ取れるのはクローディアだけである。
巨大なのに精緻。まさに万能の力――それが彼らが仕える聖女の神霊力。
配下なのに、今更ながらにゾッとする――。
〝蒼穹の聖女〟クローディアの底知れなさに、三人は改めて慄然とした。
そもそも――。
大国であれ一国の聖女が、
通常の神霊との契約は、
聖女は、
その代わり、
いわば持ちつ持たれつの関係が、
そのため、通常であれば
彼女らは触媒となる
しかも力が大きすぎるが故に、有り余った神霊力を他の者にも分け与えられるのである。
その余った力を与えられたのが
それほどの強大な力を持っている聖女は、テルス教中央教会直属の使徒聖女以外では聞いた事がなかった。それは最早、一国家の下にいるには過ぎる力。
まさに規格外。
比類なき力を持つ、聖女クローディア。
それほどの存在である彼女が、わざわざゼーラン王国に足を運んだのは、誰がどう見ても明からさまな脅しであろう。
ゼーランにも
そう言いに来たのだという事は、露骨なほどに明白。
王城の玉座の間に通されたクローディアらは、まさにそのような振る舞いでパウル王達と接見をする。