ジャンヌとオヴィリオの会話の後――。
いよいよというかやっとクローディアらが出立するというので、国王を初め主だった面々で見送りに向かう事となった。
王城の外で馬車が待機しており、ダンメルクの四人がそれに乗り込もうとした、その手前の事。
不意にクローディアが立ち止まる。
「お見送りくださり、ありがとうございます。とても大変な時であるというのに、痛み入ります」
その瞬間、ゼーラン側の全員の表情が強張った。
「大変……?」
「ええ、聞いておりますよ。何やら
「は……え、ええ……」
咄嗟に否定も肯定も出来ず、したたかなはずのパウル王が声を詰まらせる。
王国で何かの異変があった事は、気付かれたと思っていた。けれども
誰かが情報漏らした――だがそんな事は今更である。
ゼーラン王国がダンメルクの属国である以上、裏切り者というか内通者がいるのは分かりきった事である。だが、それにしてはあまりに知られるのが早すぎる。何より、
つまりそれは、ゼーラン王国側の上層部に敵と通じている者がいるという事に他ならない。
だがその可能性も有り得るだろうと思っていた。
しかしそれにしては露骨にすぎるし、よもやこんな形でそれが露見するなど――。
だからこそパウル王は、彼らしからぬ動揺を見せたのである。
「それに、肝心の騎士団長様がいらっしゃらないところを見ると、まだ傷が癒えていないのですね。
その原因はお前達だろうに――と誰もが言い返したかったが、口には出せない。
「そこで、一つご提案なのですが」
「はい?」
「そちらの騎士団長殿に怪我を負わせたのは我らの責任です。なのでこちらで起きている
耳にした瞬間、思わずジャンヌとオヴィリオは顔を見合わせた。
もしかして――と。
「
王達からすれば思いがけぬ提案であり、ジャンヌからだと半ば想像していた申し出でもあった。
これは協力という名の監視。または工作かもしれない。
何せ協力に駆り出したのは。ダンメルクの女性騎士団長。二名の
「それはまた有難い申し出ですが……しかしそこまで気を遣っていただかなくとも、これは我が国の問題。我々だけで鎮めて尚無理であった場合は別ですが、まだそこまでではないはず」
「新しい
良からぬ事というなら、それは全部お前達の仕業ではないか――。
あのコーネリアを貸し出すという事自体その一貫だろうと思うが、しかし断れる理由も力もない。
ジャンヌはオヴィリオに頷き、彼もそれを受けて首を縦に振る。
断れぬなら、むしろ利用すればいいのだ、と。
オヴィリオは父王にそう耳打ちした。
最初、パウル王は渋い表情を作っていたが、状況的に他に道はないと腹を括ったのだろう。
「……かしこまりました。そのお申し出、有り難くお受けさせていただきます」
こうして、聖騎士コーネリアだけが、ゼーラン王国に残る事となった。
ダンメルクからの予期せぬ訪問者騒ぎがあったと思ったら、今度は
果たしてこの後に如何なる事態が待ち受けているのか。
この中で唯一人、様々な事柄を全て知る人間が一人いたが、その人物は衆に紛れて密かに笑うのみ。
既に事態は、転がりはじめていたのだから。
下り坂に投げられた石のように。
それを止める事は、誰にもできなかった――。