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第3話 勇者現る

「きゅぅ~っ?」

(う……ん。ここは?)


 ふと目が覚めると、俺はベットの上へと寝ていた。しかもドラゴンだというのに、ちゃんとして部屋の中で清潔なシーツと毛布がかけられている。


「きゅ~っ」

(そっか……そういえば、俺はまた死んでどこかの異世界に転生しちまったんだったな)


 段々と意識が覚醒していくと、改めて異世界へ来たことを自覚する。


「きゅ?」

(にしてもこの柔らかなものはなんだよ?)


 俺は目の前にあるそれ・・にそっと触ってみることにした。

 ポフポフ♪ それはとても柔らく、どこか温かい何かであった。見ていると前後に膨らんだり、萎んだりしているが……もしかして生き物なのか?


「んっ……あっ♪」

「も、もきゅ!? き、きゅ~っ!?」

(ひ、人か!? って、さっきの女の子だし!?)


 見ればそれは先程俺を抱きしめていたメイドの美少女だった。それがなんとなんと俺の目の前で寝ていたのだ。


(もももも、もしかしてさっき触ったのは彼女の……)


 そしてもう一度そこにある楽園エデンの感触を確かめるべく、そ~っと右手を伸ばし触れてみようと試みることにした。


「もきゅ~~っ」

(そ~っと、そ~っと……)

「ん~っ? もきゅ子? もう起きたのですかぁ~? おはようございます……っと、言っても先程より一時間経ったくらいですがね」

「もっ、もっきゅー! もきゅきゅ~っ」

(あっ、あぶねーっ! 危うくバレちまうところだった)


 手が胸元へと触れるその瞬間、騒がしくしてしまってせいなのか、彼女を起こしてしまった。

 残念と思う気持ちと同時に「触れなくて良かった……」という謎の安心感とが葛藤する。


「ふぁあぁ~っ。うん? どうしたのですか、もきゅ子? そのように自分の手を見たりなんてして?」

「も、きゅきゅ! きゅ~……」

(い、いえなんでもないです! はぁ……)


 彼女は不思議そうに首を傾げている。

 やはり悪いことはできないと改めて思ってしまう。


「さて、お昼寝もすみましたし……少し遅めのお昼といたしましょうかね。ね、もきゅ子?」

「もきゅ~……きゅ!」

(そういえば朝から何も食べてなかったんだ……そうだな!)


 そうして俺はまたもや彼女に後ろ手に抱きしめられながら、部屋を後にする。

 どうやら彼女の部屋はこの建物の二階なのか、そのまま一階へと降りて行った。


「なんだシズネ。もきゅ子と共に二階で昼寝をしていたのか? 客が来ないというのに、本当に暢気なヤツだなぁ~」

「ふふっ。これも経営者の特権のようなものですよ。アマネのような従業員は働き、この店のオーナーたるワタシは気ままに休む。これこそ、資本主義というものではありませんかね? くくくっ」


 一階へと降り立つと、これまた見知らぬ美少女に声をかけられた。


 どうやらその赤く長い髪をした見た目派手な格好の彼女は『アマネ』という名の従業員らしい。

 また同時に俺の飼い主である少女は、何かのお店の経営者らしく『シズネ』という名前のようだ。 


「私の本職はあくまで魔王を倒す勇者なのだぞ! たまには休むくらいくれても罰は当たらないのではないか?」


 アマネはその見た目の通り、本来の職業と言うか役割は『勇者』のようだ。

 ま、それっぽい鎧を着て、これまたそれっぽい剣を持っていれば勇者以外の何者でもないだろう。むしろ違うと言われれば、コチラが戸惑ってしまう番である。


「別に休みたいのであれば、勝手に休んでもいいですよ。ワタシは構いませんよ」

「な、なに、それは本当かっ!? ほんとのほんとに休んでもよいのか!」

「た・だ・し。休んだ分はちゃ~んとお給料から天引きして、部屋を貸している家賃と食事代、それに光熱費などをきっちり負担していただくようになりますがね。くくくっ」


 どうやらアマネは働いている対価として、部屋や食事を提供して貰っている住み込み従業員のみたいだ。


「ぐぬぬぬぬっ。そ、それはとても困るぞ。私はお金がないからここで働いているのだぞ」

「それにギルドを追い出されたから他に行くところも無いでしょ? 違いますか?」

「ぐっ……。そ、そのとおりだから何も言えん。……にしても、シズネは相変わらず意地悪なのだなぁ~。私の事情を知っていて、そのような意地悪を言うだなんて……」

「ふふふふふっ。でしょうね。ええ、ええ。ワタシは困ってる人の弱みに付け込むのが得意であり、また救済の手を差し伸べるのが何よりの楽しみなのですよ」


 しかもしっかりとその手綱を握られ、現代における社畜奴隷のように働かされているのかもしれない。


「まぁ……とは言ったものの、世話になっているのは確かだからな! シズネよ、いつもすまない」

「えっ? あ、ああ……はい」

「ふふっ。なんだシズネ、もしや柄にもなく照れているのか?」

「あっ……あ、アマネッ!!」

「あっははははっ。すまんすまん」

「まったくもう……ふふふっ」


 いや、二人の間には経営者と従業員だけの関係だけではないようだ。

 それは互いに冗談を言い合い、笑っていることからも見て取れる。



 第4話へつづく


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