みな率先して手をあげるとは思えないので、先にすべての委員会を説明して、その間に考えてもらうことにした。
立候補を受け付けたところ、空気を読んだのか、定員に達するとだれもそれ以上手をあげることはなかった。
すんなりと決まった。このクラスは協力的でいい。
そして放課後、俺はすぐに担任のところに向かった。
管理社会で呼び出しを無視するのは、悪手以外の何物でもないからだ。
「中学校からきた大賀くんの
願書を出したときの内申書に書いてあったのだろう。
「はい。高三生の模試を特別に受けさせてもらいましたが、しっかりと結果を残せたと思います」
大学受験生用の模試を二回受けて、両方ともT大はA判定。総合で全国一桁の成績を取ることができた。
俺はT大に入学できる学力を有していることが、客観的に証明されたことになる。
もちろんそこまで言うつもりはないが。
「なんでウチにきたの? それだけ頭が良かったら、AやKの高校だって受かるでしょう」
「両校とも受かりましたよ。当然、蹴りましたけど」
「…………」
担任は「あっ、これ問題児だ」という顔をした。
この時代だとまだ、人と違うことをした場合、『個性』より『問題行動』と
「生徒を偏差値順に振り分けるのが、教育ではないでしょう。中三のときの担任がこの学校の卒業生だったので、選ばせていただきました」
志望動機を語ったのに、担任は
「そういうタイプには見えないけど……まあいいわ。それで本題だけど、人前で
「はい。重々承知しています。ただ言わせてもらえば、止むにやまれぬ事情があったのです」
「事情って?」
「個人の尊厳にかかわることですから、それは言えません。ですが、決して不純な動機ではないと言えます」
「それを信じろと言いたいのかしら」
「それ以外に告げられる言葉がありませんので、信じていただけないのでしたら、それでも構いません」
「…………」
やっぱり「コイツは問題児だ」と目が語ってる。
「話は以上でしたら、帰りたいのですが」
「……いいわ。まだ初日だし、大目にみてあげる。ただし、名出さんにはちゃんと謝っておくこと。本人がどう思っていようと、それだけはしておいてね。それと二度目はないわよ」
「分かりました。先生の言葉です。
「……あなた、15歳よね」
担任は、本日一番、胡乱な目で俺を見た。
○神宮司あやめ
「よかったね、
「うにゃあ」
委員会決めが終わり、席に戻ってきた彼女にそう囁くと、琴衣さんは顔を真っ赤にして机に突っ伏した。
かわいい。
入学式のあと、たまたま私の前を歩いていたのが彼女だった。
毛先だけパーマをあてた髪がふわっと広がって、ちょっとだけ目を奪われた。
教室でさりげなく隣に座ったのだが、彼女は気付いただろうか。
どうせこのあと、名簿順か何かで席替えをするのだ。
いまだけは彼女の隣にいようと思った。
「なにあの人……ちょっとタイプかも」
そんな呟きが聞こえた。
耳を澄ませていると、「うわっ」とか「うにゃ」といった声が聞こえてくる。
どうやら妄想しているようだ。
入学初日から男ですか。なんだかそれが、とてもおかしかった。
だから彼女のお目当ての男性がクラス代表になったとき、その相方に彼女を推薦した。
名前が分からないので、手首を取って、挙手させたのはやり過ぎだったかしら。
「しかし凄かったね」
先生が、明日からの諸注意を喋っているため、小声で琴衣さんに囁く。
「なにが?」
「大賀くんだっけ? 彼、何者? ……委員会決めのときの手際。あれは尋常じゃないわよ。慣れてるってレベルを超えてたわ」
「よくわかんない」
「まあ……さっきは終始俯いてたしね」
琴衣さんはときどき、彼の顔をチラッと見ては目を逸らしていた。
恋する乙女の表情を見せられた男子は、どんな気持ちだっただろう。
少なくとも、大賀くん以外はみな、彼女の気持ちに気付いたはずだ。
それはいいとして、一年一組の教室で、彼だけが異質だ。
レベルが違うというか、生きてる世界が違うというか。
「なんか違う時間軸で生きているみたい……」
そんな気がした。
あともうひとつ。時折見せる険しい表情……あれ、人殺してる目でしょ。
ぜったい、秘かに何人か殺してると思う。
そんなことを思いながら私は、彼女――琴衣さんの脇腹を突っついた。
「うにゃぁあああ」
彼女は奇声をあげ、先生に怒られていた。
ごめん。いまのは私が悪かった。