その飲み会の帰り道。疲れ果てたが、なんとか意識を失わなかったので自力で帰れそうだった。
「なあ、山本。最新のあのゲーム機持ってない? 娘が欲しがっていて」
「ゲーム機ですか。どれです?」
「携帯ゲームとしても、テレビゲームとしても使える一番新しいやつ。コントローラーはスティックのようなやつでさ、ほら取り外し式の青と赤色。画面は液晶画面とかだと。そう娘から聞いている」
「ああ、あれですね。一応最新ですけど、発売されたのは七年前ですよ」
「えっ、そんなに前なの。もっと最近なのかと思ってた。それじゃあ俺が持ってるやつは、とっくの昔にレトロゲーム扱い?」
「若い子供はきっと見たことはないでしょうね。どこかで画像とかで見たことがあったとしても、馴染みはないと思います。最新のゲーム機を買えないご家庭の親御さんが、型落ちで安くなったゲーム機を買って与えていたら違うでしょうが。昭和とか、平成のゲーム機も年数が経てば正常に動くものが少なくなるので、保存状態がよければプレミア価値がつくかもしれないですね」
「なるほど。いいこと聞いた。大事にとっておこ」
ゲームソフトを箱付き、説明書付きで揃えていればいい値段で売れるかもしれないと山本は言った。貧乏な俺にはありがたい話。いらないものは売って、必要な人に買ってもらって大事にしてもらえるのが一番。無論、転売人にはならない。最初から高値で売るために、モノを現金扱いするやつらには成り下がらない。親からモノは大切にしなさいって言われなかっただろうか。忘れてしまったのか。親がいなかった俺ですら知っているのに。
こうして山本から手に入れた最新ゲーム機を後日娘に渡した。
「どうしたの、これ?」
「中古なんだけどさ、なんとか手に入った。少し使用感あるけど、ほとんど新品だって。動作確認済み。もちろんそれだけじゃ遊べないだろうからひとつくらいソフトを買ってやる。今はほとんどがダウンロードだっていうから驚き。昔ながらのカセット式は廃れるのかな。接触悪かったりしたらふーふーって埃を取り除いていたんだよ。本当は気休めでしかなくて、ほとんど意味なかったかもしれないけど、当時は信じてやってたんだ」
「時代遅れね」
「すまない。時代に取り残され、置き去りにされた人間なんだ。娘は流行のトップ集団で走り続けろよ」
「その考えも遅れてるのよ、創くん。自分の人生を振り返った時に認識した時間のことを時代と呼ぶのよ」
「お前は何歳だ。ませてるとか大人びてるとかねび者っていうレベルじゃないぞ。五周くらい人生経験してるだろ」
「親が優秀なのよ」
「そうか。それは号泣だな」
「とりあえず、気になっているゲームがひとつあってね。友達と一緒にやりたかったの。あまりしゃべれない子なんだ。学校の先生が言うには発達障害っていうのに近いらしいんだけど、そんなこと気にならなくならない普通の人より抜群に頭が良いらしいの。寡黙で頭脳明晰。かっこいいわ。あたしらとは脳みその出来が違うのね」
「本当にお前はよく喋れるな。言葉も大学生より豊富だし。それよりその友達は男の子なのか?」
「そうよ、創くん。何人かいるボーイフレンド候補のひとりなんだから」
「聞き捨てならぬ。簡単には娘は渡さないぞ」
「創くんより頭いいかもしれないのに?」
「それは、そうかも知れないけど。勝ち目ないけど。でも寵愛のレベルでは負けない。誰にも。そうじゃなければ久瑠実を娘にはしてないよ。久瑠実に直接する話じゃないけど」
「そうね。それはひしひしと感じているわ。お返しに今度お弁当を作ってあげる」
「ええ!? そんなことしてくれるのか? マジで! それは嬉しいなぁ」
「ちょっと焦がしちゃうかもしれないけどね」
おーい! それはむすめぇい! むすめ、それは、むすめぇい! もうお父さんも嬉しくなっちゃうよ。幸せを感じてしまうよ。うきうきだよ。
娘のとっておきの発言にうきうきしてしまったお父さんは娘のために奮発してゲームソフトを三つ買った。しばらくはゲーム三昧の毎日を過ごすことになるかな。楽しみだな。