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青時雨運動会03

「なんで私がこんなことに」


 運動会当日。ブルーシートの上には、俺、妖刀使い、そして魔法少女ルルシュシュ・リラ・ルシエがいた。


「今日はよろしくな、ルルシュシュ・リラ・ルシエ」


「魔法少女よ! なんでフルで覚えてるのよ!」


「もの覚え良いんだよ、俺。共に戦った仲間じゃないか」


「うるさい! それとこれは別よ! なんでカメラマンなのよ! しかも運動会って。あんたの娘さんなんかそれこそあたしとは無関係でょうが!」


「でもここに来てくれたじゃないか」


「それは妖刀使いと戦えるからって聞いたから」


「運動会が終わったらな。いやー、カメラが趣味なやつが身近にいて良かったわ。どうしようかなって思ってたんだ」


「うるさい! 戦いとは別にお金貰うわよ!」


「ああ、もちろん。ただ働きはさせないさ。ほら、もうすぐ競技が始まる。頼むぞ」


「ふん!」


 運動会にカメラは必須アイテム。お父さんは必死にわが子の勇姿を見逃すまいと奮闘するのである。しかし、俺はカメラを持ってなかった。毎年スマホ。良いカメラマンがいたらなぁ、と思っていたらたまたまエスエヌエスで見たことある奴を見つけた。これは都合が良いなって思って、餌を撒いて招集。妖刀使いの情報でみごと魔法少女を釣り上げることに成功し、ここに呼んだのだった。自慢のカメラを持って来れば妖刀使いと一騎打ちできるよと。いやぁ、助かる。


 キャラクターが描かれた大きいビニールシートを広げ、隣のご家族と「どうもどうも」「すみませんすみません」と気を配りつつ最前列を確保した。お弁当も朝早く起きて妖刀使いと作った。しかし、カメラマンはいるけど、俺は俺でやはりスマホで撮影する。動画とかな。


「妖刀使い! 今日こそは決着つけるわよ!」


「ほらほら、魔法少女さん。そんなことより魔法少女さん。今、瑠美が玉入れの玉を。ほら、投げています。写真を」


「あ、はい(カシャ)」


「引いて全体がわかるように」


「はい。(カシャ、カシャ)」


「今度は寄ってください。ズームです。周りの様子を映し込みつつ久瑠美が投げる姿がわかるように」


「はい。(パシャ、パシャ、パシャ)」


「次は表情を。周りの景色はカット。さらにズームして顔を中心に一枚」


「はい。(パシャ、パシャ、パシャ、パシャ)」


 いやー、ホント助かるね。スマホのカメラしかない低脳な父親が情けなくても無問題。それにしてもこの魔法が使える女の子のカメラ。この写真はもう実写だよ。仮にカメラが趣味だったとしてもこれはプロでも持ってなさそう。だって見たことないもの。魔法界のカメラか? その場でスマホにデータ送れるので手間もなし。すご。まあ、俺も震える手でスマホで写真撮るけど。少なくとも三百枚は撮る。足りないな。もっと娘に愛情のシャッターを。


 妖刀使いも今日は特に熱が入ってる。もう親代わりじゃなくて本当に親だよ。育ての親。まだ日は浅いかもしれないけど、きっと久瑠美には関係ないだろうな。本当、助かる。この温かな気候の青空の下で汗一つかかずに艶やかな着物でうちわ持って応援してるのはもう親だよ。親戚のおばさんでもそこまでやらない。



〉次は、四年生のかけっこです



 玉入れの次の次の次。かけっこ。さすがの俺もこれにはチカラが入る。ふたりにも声を掛ける。


「かけっこだ! いいか、ここは見逃すな! ふたりともしっかり見ろ! 今日のために練習してきたんだ。おい、魔法少女、十万枚撮れ」


「ええ……普通のカメラなら寿命到達ですよ、それ……一応容量とかその他無限の魔法のカメラですが、それに加えて私が魔法を使って連写すればなんとかなるかもしれませんが……そこまで限界超えるように使ったことないし、使う機会ないし、そんなことする必要ないんだけどな……」


「頼むぞ」


「分かりましたよ」


 ルルシュシュ・リラ・ルシエがカメラを構える。先生がスターターピストルを上に向け、そして青い空めがけて撃った。


 いっせいにスタート。久瑠美は頭一つ抜け出した。 


「いいぞ! 頑張れー!」


「久瑠美ー! 頑張ってくださーい!」


 ふたりの応援が響く。魔法使いカメラマンは必死に追いかけて撮り続ける。


 久瑠美は綺麗な、然して勢いと迫力ある走りで圧倒。二位と大きく差をつけ、ダントツでゴールした。他の子は置き去り。遅れてゴールしたみんなを迎え、讃え、そしてみんなで拍手。平和だった。みんなで手をつないでゴールより平和。ちなみに令和なのでタイムが自動測定されて電光掲示板に表示される。久瑠美は九秒ハチイチだった。……え、速すぎないか? 確かに綺麗なフォームで女子走りしない基本を最初から身につけていたけど。ボーイズに特訓してもらったけど。それはさすがにできすぎじゃないか、うちの子。かけっこもできるのか。文武両道、他を寄せ付けない圧倒的才能。天才児。どの言葉を持ってきても足りない。やはり俺の娘ではない。なんで俺に懐いちゃったかな。


「お父様! 久瑠美が一番ですよ! やりました!」


 おい。どさくさに俺をお父様と呼ぶな! お前に娘はやらん!


「名声籍甚、為虎傅翼ですね」


 メイセイセキジン、イコフヨク。ムズ。ずいぶん賢いような、賢くないような言葉がでてきたな。どうせ読書大好き妖刀使いの言葉なんだろうなと思ったら、声が違って反対見たらそれは魔法少女の言葉だった。おい、その台詞は桜お姉ちゃんがこのあとに言う予定の台詞だったんだよ! 先に使うなよ! 名声が世に広まるとか、元々強く賢い子がさらに強く逞しくなったとか、その前から久瑠美のことを知っていた人間が言わないと辻褄合わなくなるんだから。作者のことも考えて。頼むよ。その後なんか会話があって辻褄合わせたことにしておくから。今回だけだよ。頼むよ。次のエピソードはお弁当を食べる話になるから。今度は話合わせてよ。それにしてもその言葉は漢検一級レベルだな。



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