「創くん、たまご焼きとって」
「ああ、ほら」
「どうも」
「へぇー、美味しいですね。あなた料理できたんですか。それとも、そこの妖刀使いが作ったたんですか?」
「いや、九割九部俺が作った。こいつは飾り付けだけだ。ウインナーのカットはしたか。実はタコさんウインナーを買ったつもりが、間違えて普通のやつ買っちゃって。そしたらこいつが一個一個タコさんにカットしてくれたよ。おかげで見栄えは可愛くなった」
「もうタコさんって年じゃないんだけどね」
「そう言うなよ。このふたりで作ったんだ」
「それで、創くんは食べないの?」
「いや、食べたよ。ここのこっから半分は俺がすべて食べた。今は写真をチェックしてる。この魔法少女、なかなかいい写真が撮れてる。これはもうプロのカメラマンだろ」
「褒めてくれてどうもありがとうございますー」
「……そんなの、家に帰ってからやればいいのに」
「わかったよ。残り全部食べるよ」
「それはだめ! みんなで仲良く食べなさい!」
「そうかよ。なあ、久瑠美。そのみんなにはこの魔法少女もカウントに入ってるのか?」
「もちろん! アルバムの写真撮ってくれたんでしょ? 午後もお願いします。ダンスをします」
「わかりました。ここまで来たんですから、まあ、帰りませんよ。最後まで撮りますよ」
ちなみにダンスの曲はくるりの「ワールドエンド・スーパーノヴァ」だった。いや、歌詞ににダンスミュージックって出てくるけど。令和だぞ? 踊りにくそ。子供たちがかわいそうだ。振り付けは単純で簡単のように見えるが、それにしてもこれは先生の年齢がまるわかり。今の子供も、下手したら大人も知らないかもしれない。俺は大好きだけど。バンドとかロックとか好きなんだ。
「これ、何ていう曲ですか? 最近の音楽はよく知らないんですよ。魔法少女なので」
シャッターを切りながら俺に聞いてきた。
「音楽知ってる知らないは魔法少女関係ないだろ。これはちょっと前の曲だ。最近の曲じゃない。くるりってバンドのワールドエンド・スーパーノヴァだ」
「へぇ、そうなんですね」
魔法少女は興味なさそうに答えた。生返事なのはカメラマンとして集中しているからだろう。俺は彼女がどう答えようといい写真を撮ってくれればそれで良かった。だから気にすること無く娘のダンスを、きちんと見ていた。
ダンスを見ながら、ふと思った。こういうのを、あと何回見ることができるだろうかと。ずっと見ていたい。ずっと見ていたかったが、しかしそうはいかないことも俺はよく知っている。涙と共に成長を見守るのが正しい。せめて今の姿を、頬を撫でるような何かを青時雨にして娘を見つめてよう。俺は何もできない人間だけど、久瑠美のためなら、何かできるのではないかと思っている。
こうして運動会は終わった。娘の見どころだけ見ていれば他はどうでも良い。ダイジェストだ。全部で五本用意された保護者参加の綱引きで俺が惨敗したこと、妖刀使いが綱を一気に引き抜いて圧勝したことは記すまでもない。
片付けをし、魔法少女から全データを受け取って金を払って解散した。それと、これもどうでもいいが、約束の魔法少女と妖刀使いのタイマン勝負は引き分けた。
今日の夕飯は運動会お疲れ様会。何を食べようかと、久瑠美と妖刀使いと帰り道に話をしながら。トラブルとは無縁の日を惜しんで。
運動会は無事終了した。