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無敵で最後の恋02//

「青山という男を見かけたり、その男の情報を何か掴むことがあれば教えろ」


「青山?」


「わかるやつにはそれでわかる。いいな」


「珍しいな。お前がそんなに急いでいるというか、焦っているというか、切羽詰まってるの。どうした? なにかあったの?」


「お前には関係ない。今はまだな。とにかく頭に入れておけ」


「まあ、お前がそう言うなら。覚えておくよ。それじゃあな」


「ああ」



 これが始まり。度々会っているタカとの会話が強気な鐘を鳴らす始まりになることが多い。その合図が、しかし既に鳴っていたことには気が付かなかった。


 その頃、俺は探偵の手伝いをしていた。美少年にしか見えないが、しかし美少女のような気がしたあなたは大正解な女の子の探偵の手伝いをしていた。この美少年美少女探偵は謎にお金持ちなのでありがたいことに報酬がいい。どケチお金持ちセレブの雁来ビッグボスとは大違い。


 休憩時間。おいしい紅茶を振る舞ってくれたので堪能していた時。喫茶店以外では質のいい紅茶はここでしか飲めない。ペットボトルのやつも美味しいんだけどね。


「スパイローズ。実は今いくつか案件を抱えているんだけど、ひとつ厄介なのがあってね」


「へぇ、敏腕探偵でも手こずることあるんだな」


「ボクはいつでも解決できるわけじゃないよ。依頼人の望む結果を出せなかったことは幾つもある。ローズみたいに受けたトラブルは全部解決、常に結果を出すなんてことは普通の人にはできないよ。本当にすごいとずっと思ってる」


「よせよ。俺もここまで来るまで失敗ばかりだったさ。無駄にヒトサマのトラブルに首突っ込むだけのクソガキ。いつの日だったか、詐欺師にしてやられたことあっただろ。あのときなんて、俺はあまりにも何もできなかった。なにやってんのか、なにをしたいのか、今俺がやっていることは正しいのか、意味なんてあるのか、独りよがりじゃないのか、自己満足のため、己を満たすためだけなんじゃないか、他人の窮地を利用して人並みの人生すら歩けなかった自分を無理やり肯定しているだけじゃないかって。迷わないときはないし、挫けてばかりだけど、俺には仲間がいるからな。自分は信じられなくても仲間と友は信じることができる。偶然にもお前みたいな優秀なやつがたくさんいるからさ。そのおかげで俺は百戦百勝の大連勝でいられるんだよ」


「そっか」


「ああ。それで、厄介なやつって?」


「うん。青山って男を探しているんだけど、どうやら何人かいるらしいんだ」



 青山? つい最近どこかで聞いた名前だな。



「何人もいるってことは、同性とか? それとも双子?」


「たぶん双子とかだと思うんだけど、それが四人も五人もいて。それぞれ違う場所で同時にいることが分かっているんだ」


「は? それは妙だな。どこで目撃されたんだよ」


「羊ケ丘、長万部、標茶、襟裳、留辺蘂、標津」


「は? 北海道各地じゃん。難読地名クイズかよ。道民かクイズ王しか分からないぞ。っていうかそれホント?」


「うん。一応ボクが調べたからね」


「そうか。それなら間違いないな」


「無条件に信じられても、それはそれで困るんだけど」


「言ったろ。俺は仲間のことは信じるんだよ。なあ、その青山は背丈とか、顔つきとか、髪型とか、名前だけじゃなくてそういうところまで一緒なのか?」


「うん。一応写真撮ってきたんだけど」


「それは分かりやすい。どれどれ」


 確かに青山という男の写真は、各地で写っている男は同じように見えた。北海道観光旅行をしているとしか見えなかった写真ばかりだった。写真の日付と時間はほぼ同時刻である。これら全ての写真が合成でない限り、現実としてその青山という男が複数存在していることになる。つまりドッペルゲンガーか?


「ボクはそういうオカルト信じてないんだけどね。でもさ、ほら、この街には毎晩、妖刀使いが出るって噂があるじゃん。信じたくはないけど、この現象はほぼ事実で間違いないみたいだから」


「それにしてもこの写真どうやって撮ったんだ? まさかお前が分身して道内各地に瞬間移動したわけじゃないだろう」


「羊ケ丘のはね、青山さんの目撃情報とか調べてなんとか情報をゲットしたから待ち構えていたんだ。他の写真はネットで拾ったもの。羊ケ丘で撮った写真を画像検索にかけて調べたら偶然にもヒットして。エスエヌエスとかじゃなくて別々の個人ブログに掲載してあった写真ばかりだったから合成じゃないと思う。どのブログも他の人が絶景を紹介するために撮った写真に写り込んでいた。撮ってそのままなにも加工しないでアップしたんだと思う」


「たまたまねぇ……」


 それはさすがの俺でも、これを偶然だと決めつけるのは早計だと思った。この状況ではわざと写り込んだと考えるのが自然だ。しかし、なぜそんな回りくどいことをしなければいけないのか。疑問が同時に生まれる。どうして自分がこの探偵に写真を撮られると分かっていて、さらに各地で写り込むことで自分が複数いることを伝えたかったのか。これは偶然ではない。意図がある。


 仮にそれがドッペルゲンガーだというのであれば、するとその理由はますます分からなくなる。分かりそうだったのに、一気に解釈できなくなる。怪奇現象そのものが人間的な思考を持ち、策略、計画して実行するのだろうか。そいつは妖刀使いのように人間的な意図を持つ存在なのだろうか。意図して同時刻に、何百キロも離れた場所で同時に写り込むことで自分が複数体存在することを示し、おそらくわざと流した目撃情報を探偵に掴ませ、画像検索用の写真を羊ケ丘で撮らせた。分からん。そんなことをしていったい何の意味がある。


「もう一つ聞いてもいいか」


「どうぞ」


「青山を探してくれって誰から頼まれたんだ?」


「ハルさんって言う女性が十日前くらいに事務所に来たんだ。青山さんを探してくださいって。どうしても会いたいんだって。彼女の名前はたぶん偽名だけど、調べれば分かると思ったんだけど、いくら調べてもそれ以上の正体がまったくわからなくて。だからより気になって青山さんを探して証拠の写真を撮った。でも写真から分かった青山さんがドッペルゲンガーかもしれないという情報のおかげで混乱。だからスパイローズを呼んだんだ。解決できるかなって」


「無茶言うなよ。広すぎる北海道のどこにいるかも分からない複数の青山という男を探し出し、その中から目当ての青山をそのハルさんという女性の元につれていくなんて。札幌にいる個体を探すだけでいいならできるかもしれないが、きっとそうにもいかないんだろ? それにしても幽霊だかドッペルゲンガーだかわからんが、普通の人間じゃないそいつを探せだなんて。ハルさんにはこのドッペルゲンガーのこと話したのか?」 


「いや、まだ。本当ならすぐに調査経過を報告するんだけど、状況が状況で。その前に誰かに相談したかったんだ」


「なるほど。俺は妖刀使いとか超能力者とか魔法少女とか非存在とか、人外系はけっこう相手にしてるからな。しかし、超常現象は守備範囲を超えている。どうにかなるだろうか……。まあ、お前の願いだ。全部は解決できないかもしれないけど、少しならやってみるよ。とりあえずそのハルって女性に会いたい。依頼人に会うのはトラブルに踏み込む基本の第一歩だ」


「ありがとう。話しをつけてみるよ。ローズのことも最低限のことは教えておくね。スムーズになるだろうし」


「ああ、頼む。ちなみに俺の名前はローズじゃなくて茨戸創だ」


「もちろん知ってるよ」


「そうか。それは良かった」


 こうして俺はハルという女性に会うことになった。まさか好意を寄せられることになるとは夢にも思わずに。



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