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無敵で最後の恋04////

 それから一ヶ月調べた。青山はなかなか見つからない。ハルさんには何回も会って話をし、進まない調査の進展を頻繁に共有した。


 根気よく調べ、情報を集めて、なんやかんや奮闘することでようやく俺はこのトラブルに関する情報をひとつ手に入れることに成功した。とても有益。しかしまだ決め手に欠ける。だから有識者に話を聞いてもらうことにした。


「どうした、創」


「成哉。最近さ、青山って名前を聞いたことある?」


「青山?」


「実はタカも俺も青山って男をずっと探しているんだ。ふたりとも同じ青山を探しているかは分からないけど、なかなか見つからなくて。この街のホットワードになっていたら成哉もどこかで聞いてないかと思って」


「ああ、そうだな。青山なら、男ではないが女を探している。青山という名前の女だ。そう聞いている」


「女?」


「そうだ。青山という名前が本名だとは思っていないが、しかし他に手がかりがない。不思議な人間だ」


「ちなみに、成哉はどうして青山を探しているんだ? 理由は」


「ボーイズの問題でな。重要参考人だ」


「ふーん」


「そういうお前は、その青山を探すのにボーイズのチカラが必要なのか」


「いや、今日は人手が欲しくて電話したんじゃない。教えて欲しいことがあって。そういう意味だとボーイズガールズの手を借りることになるのかもしれないけど」


「青山の女のことか? それはわからないぞ。まだ調査中だ」 


「いや、そっちじゃない。男の青山。話変わるけど誰かさ、誰かシベツに詳しい人間はいないかな。シベツに詳しい人がいたらシベツのことが聞きたい」


「は? それは北か。東か」


「そう。問題はそこなんだ」


「は?」


「北海道には士別町と標津町があるのは知っての通り。上川と、根室。場所は全然違うけど、音は同じ。でも他の地域の人間は同じ名前の町がふたつあると知っている人は少ないと思う。探しているその青山はシベツという言葉を知っている。使っていることを突き止めた。青山はシベツという言葉を、音をどこかで聞いたんだろうな。しかしそれが何なのか、そもそも町の名前であることすら知らなかったんだ。音だけ。こっちの人間じゃないことはこれでわかるが、問題はそこじゃない。ドサンコ判別問題を出したかったわけじゃない。青山はシベツという言葉を使っている。青山は普段青山とは呼ばれていないんだ。だから、シベツに詳しい奴いないか」


「何が言いたいんだ、お前は」


「サムライシベツって、わかるか?」


「は?」


「根室の標津は『根室の標津』って普通に言うらしいんだけど、上川の士別は根室の標津と区別するために名前がついてるんだ。サムライ士別って。士別の士は武士の士だからサムライ士別。ラジオとかでさ、『今日のシベツ町のお天気はーー』って言うとどっちかわからないだろ。そこから使われ出した言葉らしい。サムライってさ、ほら、外国人も日本人も好きだろ。前者は日本史や映画、後者は野球とかサッカーかな? どこかで聞いてもおかしくない。だから音だけ聞いて勘違いして使ったんだ。サムライシベツって言葉を聞いて、それをそのままサムライに関係する名前だと思い込んだ。町の名前じゃなくて、たぶんヒトの名前だと思ったんだ」


「それで?」


「青山はサムライシベツと呼ばれている。サムライシベツという言葉を使ったからだ。タカが探している青山か、俺が探している青山か、成哉が探している青山かはわからないが、その不思議な人間青山はサムライシベツと呼ばれている。姿瓜二つの青山が道内各地で複数目撃されている。あの探偵の情報だ。一人わかれば他も芋づるになるはず。その中に探している青山が見つかるかもしれない。この情報でようやく辿り着けそうなんだよ」


「そうか。それはよく頑張っているな。青山という使い捨ての名前を追わず、事実を追いかけるのは賢明だ。お前が面倒を見ている依頼人の話を真に受けていないのも、その探偵から渡された情報が全てでないことを、一部でしかないことを理解した上で行動したのは賢明だ。これは創の成長だな」


「いいから。そういうのいいから。俺は成長しても、へっぽこ探偵オーガナイザーから抜け出せないよ。そんなことよりさ、何か知らない? サムライシベツを名乗っていたら誰かしら知ってそうじゃん。インパクトあるし。一度聞いたら忘れないよ。俺は知らなかったから、違う世界の人間だと思うけど」


「サムライシベツなら知っている」


「え! 本当か!」


「ああ。お前の話しを聞いて思いだした。おかげで全貌が見えた。よくやった。これでタカも、お前も、俺様も探している青山の行動範囲が予測できる。すぐに見つかるだろう。どこにいるか調べて、教えてやる。それにしても情報で俺様を超えるとは。これも創の成長だな」


「だからいいから! そういうの! なあ、もったいぶるなよ。どこにいるんだ青山っていう男は。いや、女か。どっちだ」


「お前が先にもったいぶったんだろ。今は俺のターンだ。楽しませろ」


 なんて理不尽なビッグボス。やはりグループのトップを出し抜いたり、得意げに情報をひけらかすのは金輪際やめよう。良いことない。


「なあ、男か、女か。どっちだ」


「両方だ。両方いる」



 えっ。



 俺は百世紀に一度の褒め言葉に仰天していたが、「両方だ」に続けて成哉が口にした一言に声が出なかった。その正解に近い推論に絶句した。成哉はさらに加えて「バンドだ」とも言った。成哉の言った「両方だ」と「バンド」だの間の言葉。これが今回の正解。


 俺の掴んだ情報と成哉がもったいぶって教えてくれた情報。まだ仮説の域を出ないが、これはただの人探しではない。きちんとしたトラブルだと、事件だと、今さらではあるがこれまでの認識の方向を変えることになった。全ての事実が間違いではなかった。全部正しかった。薄々嫌な予感はしてたけど、まさか。まじかよ。


 サムライシベツと呼ばれ、青山と名乗った男。女。各市町村に複数体いる可能性もある。失踪の情報もある。さらには恋愛活動中。写真に写って探偵の行動を見透かしすように、わざと自分の存在を教えた。怪異か、超常現象か、人間か。全部の疑問に対する答えがようやく出た。


 ただの人探しじゃなかった。


 俺は成哉と出した答えを一度伏せてハルさんに連絡を取った。すぐに返信があり、ハルさんは会って話したいと言った。



 ここでようやく冒頭に戻る。





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