最低な例えの間違いだろ、の続きから。
「青山のことはもう良いのか? あれだけ探していただろ」
「もちろん、青山さんのことはとても心配です。でも、この一ヶ月でこうして創くんにお会いするのはもう二十六回目。デートの回数が、報告の回数より多くなりました。私はどこか人を好きになりやすい脆い人間なんだと思います。青山さんには申し訳ありませんが、私は私の人生を生きたいです。私は青山さんのご家族ではありません。そこまでしなくても良いと最近思います。たとえるなら良く行く喫茶店でたまに見かける素敵な男性。声を掛けたこともない、何も知らない男性ですから」
「それもそうか。俺も二十六回も続けて会った女性はハルさんが初めてだ。成哉でも、タカでも、そいつらは友人なんだけど、そいつらでさえ数回がいいとこ。娘は家族だから別で」
「そうなんですね。ずっと会ってくださって嬉しいです」
「嬉しいと、そう思うのか。そっか。話を戻す。今日は久しぶりに青山探しの報告だ」
「はい」
「青山を見つけた。だいぶ時間がかかったが、間違いじゃないと思う。念に念を入れた。これでも街のトラブルに十年近く突っ込んでいる。証拠に基づく作戦しか建てないし、報告もしない。可能性と憶測の段階で話を共有するのは、あとにも先にも協力してくれる仲間だけだ。依頼人に話すときは、実行に移すかどうかの選択肢を提示できる時だけ。一ヶ月も待たせてしまった。百の保証はできないけど、間違いなくここに連れてこれる。どうする」
彼女は煙草を消した。そして向き合った。真面目に。
「それはもう創くんに会えないということでしょうか」
「さあな。それは俺とハルさん次第だ。確かなのは青山が捕まればそれで依頼人とオーガナイザーの関係はなくなる。仕事として会う理由は無くなる」
「そうですか」
「俺はハルさんのそうやって素直に受け入れ、感情的にならないところが好きだよ。逡巡と迷いを消してきちんと相手を見る。俺は頭が良くて、常識があって、人間としての基本を守って、自分のやりたいことをやり、やれないことを悔しがり、愛がある人が好きだ。ハルさんは全てを持っていると、この短い時間で俺は思っている」
「では、これからもお会いできますか……仕事の関係でも友人としてでもなく」
「もちろんそのつもり。恋人になってもよろしく。他人のトラブルに突っ込むのが趣味だからしばらくは無職だけどな」
ハルさんはとても嬉しそうであった。恋人紹介サービスを利用するくらいだ。恋人ができる願いが叶うなら、それこそ幸せなのだろう。俺はそれぐらいで幸せになることはないが、徳は積めたかなと下世話なことを考えた。しかし俺は俺で慣れないことをしたからか、実は地に足が着いてない。らしくないな。らしくないことをするから。
ハルさんは青山捕獲を選んだ。会えるのなら会いたいと。
了承。
当然、これが彼女との最後になった。これが彼女から受けた仕事の最後。だって、探していた人間は最初から目の前に居たのだもの。