目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

無敵で最後の恋07///////

「まさかここに来る人間がいるとはな。この街を軽く見すぎていた。歓迎するよ。無事に帰れないことぐらいは覚悟して来ているだろうから、案内しよう」


「ああ、わかってる。とりあえず説明してくれ。理解できるかはわからないけど」


 青山のアジトに足を踏み入れた。見るからに研究所だった。研究者のひとりが俺の対応をした。俺はかなり警戒していたが、武力も科学も魔法も使ってくることはなかった。むしろ奴ら自慢の研究施設を見学することを許された。何を考えている。


「M6A1-K。青山って名前の戦闘機を知っているか? 試製晴嵐改、名前は青山。彼女たち、彼らの機体のプロジェクトコードネームは晴嵐(せいらん)。各試作機に名前はない。それぞれ青山+通し番号で区別している。君が出会い、問い詰めた彼も試作機。頻繁に逢い引きしていた彼女も試作機だが、正確には試作機体の改良版。一番新しい、テスト個体だ」


「戦闘機の名前をとって青山か。晴嵐。やっぱり作ってるのか。人間を」


「想像通り。人工人間ではなく、生命としての人間を作っている。第二次世界大戦で造られた水上攻撃機、晴嵐の試製晴嵐改は青山とも呼ばれたとか。正確には違うと仲間に言われたが、それでスタートしたからな。設定も名前もこだわりはない。それに、今回の場合は青山のほうが都合が良かった。青山なんて名前の人間、日本では幾らでもいる。カモフラージュにはピッタリ。だから、コードネームとか、設定も、名前もはぜんぶ後付けだ。名前なんて、本当になんでも良かったが、これを考えついた戦闘機とかその類を好む変態仲間の案を採用してこの名前にした。あとから違うと言われたが。そこの彼女、巷では青山ではなく晴嵐の頭文字を取って晴(ハル)って名乗っていたらしいが、我々がつけた彼女の正しい名前は青山28号だ」


 成哉が追っていた青山という女は俺が依頼者として会っていたハルさんのことだった。タカが追っていた青山は全く別の青山で、羊ケ丘の青山も別個体。何かトラブルがあれば失踪という名目で回収していたのだろう。きっと全国には青山とは違うコードネームの試作機が実験に励んでいる。誰も気づかず。誰もその存在を疑わず。


「人造、人工人間だっけ。クローンってわけじゃないよな」


「その通り。クローンではない。クローンなら作るのは簡単だ。実験はいらない。我々が作っているのはロボットでもクローンでもない。生命そのもの、生命としての人間を作るのがこのプロジェクト。人間は生まれてから成長するまで時間がかかるからな。最初から成長した人間を作ることができれば、どんな場面でも即戦力になる。将来の日本が求めるのは、必要なところに必要な人間をいつでも配備できる環境。また、この実験は軍事利用が主目的ではないことも教えておこう。もっと大きなことのために行われている。軍隊を作るだけなら、こんな面倒なことをせずにそれこそクローンを大量に作ればそれで済む。青山シリーズの個体は全てゼロから設計してそれぞれ別の特徴を持たせて作ったオリジナル。日本米のように掛け合わせて改良していく、みたいなイメージだ。どうだ、驚いたか」


「そうだな。驚いたぜ。現実でこんなことやってる奴がいたとはね。エスエフ業界も青が特長の文庫もビックリだろうよ」


「生命としての人間を作るプロジェクトはかなり進んでいる。心に似たモノを作るところまで来ている。しかし人間の心というのは、かなり複雑。やはりその全てを網羅して完全再現するのは難しい。だから実験をしてデータを得るために試作機を現世に放った。生活をさせてデータを取る実験を繰り返した。本人たちには実験や目的は教えない。最低限の感情、思考、判断だけを与える。各試作機はそれぞれ異なる環境に送った。例えば北海道の全179市町村に。青山36号の役目は恋。人間の恋の仕組みとプロセスを解明することが任務。恋の結果ではなく、その前後の情報が必要でね。何度も試行してデータを積み重ねる必要があった。青山36号が出会い、恋人に近い関係になったのは君で8人目。君は使われていたのだ。ハルと名乗った彼女ではなく、我々に」


「そうだな。そうだろうなとは何となく思ってたけど、ここまで真っ当な闇の組織だとは思ってなかった。普通ではないと思ってはいたけど、さすがに予想外。試作個体がどんどん作られてるなら、似たような個体が北海道各地に現れるのも合点がいく。男も女も両方存在してるのも頷ける。ここまでに遭遇した多くの現象に合点がいく。このやり方は人道的では無いだろうけど」


「我々も予想外さ。この研究所まで、ここまで辿り着いて我々の存在を突き止めた素人は君が初めてだ。危機感を覚えざるを得ない。機体の不具合で実験がうまくいかないことはよくあるが、こんな形で実験が中断せざるを得ないのは想定してなかった。警備とセキュリティ、個体の搭載機能を強化しないといけない。もちろんこのアジトはすぐに撤収、移動する。予備の施設はいくつかあるんでね。君が知りたいだろうと我々が考えたことは一通り話した。では、君のことをこれから対処する」


「どうするんだ。記憶でも消すか? それとも口封じで殺すか」


「そんな証拠が残る野蛮なことはしない。しかし、我々の存在は絶対に知られてはいけない。国でさえ知っている人間はいない。総理大臣なんかは当然知らない。これはもっと大きな組織による犯行だ。だから秘密主義を徹底している。さっき教えたコードネームも、その由来も、人工人間のことも、全部を君の口から話すことができなくなる処理を特別な方法でもって口を封じる。この研究施設で手に入れた君の記憶と知識を曖昧にし、口にできないようにする。この処理の内容を君に丁寧に教えてあげると、貴様が何か言おうとしたとしても何を言いたかったか分からなくなるようにする処理を施す。人間そのもの作りを研究している我々に掛かれば、それくらいは造作もない。ではさっそく」



 俺は次の瞬間気を失った。ガスでも物理的殴打でも薬でもない。何を使って俺の記憶を曖昧にし、意識を喪失させたのかはわからなかった。


 いつの間にか意識を取り戻し、辺りを見回すとそこはすすきのアウトサイドパークであった。現在地を認識するまでの間、俺は奴らがこの実験施設見学で説明したことを全て覚えていることに恐怖した。忘れていなかったことを恐れた。意図されたものだろう。


 また、俺を元の世界に帰す為に処理として青山問題の知見全てを話すことができない状態にされたことも、それも確かに覚えていた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?