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無敵で最後の恋08////////

「俺が話せるのはここまで。これが青山の事実。俺が手に入れた青山事件の真実。奴らの特殊能力の呪いのせいで、突き止めたこの真実のほとんどが話せないけど。だから、お前に絞り出して口に出せる言葉の限界はここまで。公開情報は成哉と出した答えが限界地点。頭の中には全てが残っているんだが、どうしても口にできない。すまん。秘密事項と核心に近い言葉は伝えられない。口にしたり、文章として紙に書いたり、何か媒体に記して残すことが許されない呪いだ。他の記憶は欠けることなく残ってる。俺の好きなものとか、娘のこととか、仲間のことか、友人のこととか。覚えている。欠けているものはない。これは全部話せる。支障ない。記憶を抜かれて消されたのではなく、伝えることを曖昧にされた。そんなところだよ、タカ」


「ふーん、なるほどね。まあ、俺たちが探していた青山も見つけてくれたんだ。さすがだよ。そこは感謝してる。早めにお前に言っておいて良かった」


「そうか。それは頑張って良かった」


「でも、その青山はすぐにいなくなっちまってよ。まともなこと聞けなかった。なあ、創。本当に何も話せないのか? 口ぶりからすると何か重大な、世の中をひっくり返してしまうような真実を手に入れたんだろ。青山って人間が普通の人間じゃないことは、直接会った俺たちも分かった。実験とか、使命とか、何か命令を受けていたように思えた。お前から貰った青山は俺たちの質問に少し答えたらいつの間にか消えていた。真実は闇の中か。全く不思議な人間しか居ないな、この街は」


「そうだな。青山という人間は不思議な人間だった」


 成哉と出した答えは、青山は人間ではない人間であるという結論だった。同じ顔と姿の青山が複数体作られたか、コピーされたかで存在している。常識では考えられないが、人間ではないことを見抜いた以上は認めるしかない。詳細は実験施設で聞いた通り。


 もう一つ覚えていたことがある。


 ハルさんとの恋の物語。これは忘れていなかった。口にすることも出来た。奴らにとって重要な記憶ではないと判断されたのか。それとも情けで俺に残したのか。いずれにしてもハルさんは回収されてもういない。俺が実験施設見学をしている内に成哉が捕まえたであろう彼女は、成哉さえも出し抜いた青山組織が救い出したと社長から聞いた。


 そう、俺のことを好きだと言ってくれた彼女はもういない。


 彼女は奴らの実験体。恋をするようにプログラムされていて、8番目の対象者となった俺に恋をした。作られた運命に仕組まれていたことに気が付くことすら、それすらできなかった。


 甘酸っぱい恋とは、こういう事を言うのかもしれない。


 俺にとっては儚く切ない、初めから叶わないことが決まっていた恋。彼女にとっては儚く切ない、最初から叶わないように仕組まれていた恋。


 両方が片思いするように仕組んで操り、奴らの期待と思惑通りに恋愛が進んだ。恋人になるまでの過程の実験だから、恋人になった瞬間に実験は終わり。俺が恋人になってもよろしく、と言った言葉が終わりを告げる鐘の音だったわけだ。その時に鐘が鳴っていたことに、また気が付かずに。


 俺は恋する気持ちを、どこか作品的にしか思うことができなくなっていた。高校生を抜け出した頃には既に恋をする感情は捨てていたと思う。恋愛のトラブルはめちゃくちゃ多い。だからいちいちそのすべてに共感し、心に寄り添うことはできない。している暇が無い。そこにある事実として、恋という現象として見ることが日常になっていた。だから自分の中に恋愛感情が僅か一ヶ月で生まれるとは自分でも思わなかった。


 人を好きになること、娘以外に好きになってもいいかもしれない自分の感情を楽しんでいたのかもしれない。できれば最後の恋にして、無敵の家庭を築きたかったので残念に思っているのは否めない。俺は自分の人生を生きることができない、自分の人生を生きることを辞めて娘のために生きているから、母親ができたらまた違う愛情を娘に与えられると思っていた。親代わりのポストには妖刀使いが就任している。おかげで娘の寂しさは少なくなったかもしれない。しかし、母親がいない家庭は苦労していると思われるのだ。俺はそのことがあまりも苦しかった。娘に不便を強いてしまっている家庭の事情を作っていることが、そんな状態なのに自分の子供として久瑠美を迎え入れたことが。それをいつも後悔しているが、久瑠美は「何言ってるの、創くん。そんなことないよ」と笑って、俺のことを指さして笑ってくれる。


 娘の母親になる人は、まずは俺のことを好きになってもらえないと意味がないと思っている。娘の母親になると言うことは、娘のことを好きになって愛さなければいけない。そして娘は俺のことが好きだ。そんな娘の好きな相手が好きでなければ、娘のことを本気で好きになれるわけがない。だから俺のことが好きであること、俺の恋人になり、そして家族になれる人。それだけが条件。容姿も中身も思考も常識も教養も、俺の母親として求める条件とはせず問わない。父親の俺のように人生のすべてを犠牲にして尽くして欲しい。全ての最優先事項を子供に捧げてくれ。だから本当は恋愛なんてしている場合じゃない。もしもするならば、それこそ無敵で最後の恋にしないと。もう恋愛ごっこを楽しむ年齢じゃないよ。


 事件は終わったが、それでも青山製作所の使命は未だに理解できなかった。どうしてそんなことをするのか。どうしてそんなことをしなければいけないのか。その過程で作られた青山たちは、青山28号のハルさんは、人間ではなかったのか。人間を作るために作られた人間。道行く人に混ざっているかもしれないと思うと、どうにもできない気持ちになった。青山たちのような人間に罪はない。そのことを知らずに青山たちと会話をしている人間にも罪はない。やはり世界征服みたいな野望を叶えるために暗躍している人間が悪い。しかし、その野望のために実験が行われなければ俺は彼女に会うことはできなかった。作り物の感情と恋心だとしても、そこに偽物はなかった。本物の人間関係があった。だからどうにもできない気持ちを抱えることに、そうなってしまった。


 今回の件は喪失が大きい。せっかく突き止めた真実を誰にも話せない言葉の喪失。本気で家族になれそうだった女性との恋の始まりよ喪失。娘に嬉しい報告ができなかった喪失。


 今の俺にできることは、これらのことを忘れずに覚えているだけ。どうせまたすぐにトラブルが舞い込んできて忙しくなる。俺はそういう人間だからな。俺が手当たり次第トラブルに手を出して解決するようにプログラムを仕組まれて、その為に作られた人間じゃないことを祈るぜ。自分の心も行動も判断も自分のものだと思いたい。自己喪失ほど恐いものはないよ。


 この青山事件が2024年7月25日。


 次の話は少し遡って、約半年前くらい。同年2月4日から始まったお祭りの話。毎年やってくる冬の恒例。


 まつりって名前ついてるけど、今はもうまつりってイメージじゃない。イベント。ちなみに1年後の25年はラノベのキャラクターとか大人気狩猟剥ぎ取りゲームの大雪像が作られるとか。そんなことを作者が聞いたらしい。ほんとかな? ガンダァムもあるとかなんとか言ってたけど。それは、作者世界線の話だからなぁ。こっちでは今年、何が作られていたっけ?


 それにしてもこれはもうメディアミックスだな。ノベル化、マンガ化、アニメ化、実写化、ゲーム化、雪像化。そうだな、俺の希望としては4丁目は初号機、5丁目は弐号機、7丁目は零号機、8丁目は量産型、10丁目は……月から降ってくる子が乗ってるの何号機だっけ? 


 芸術だ、アートだ、素晴らしい、これが雪像か!


 賞賛され続ける強化版雪だるま展示博覧会。外国人にも道外の観光客にも大人気! 白くなることに定評のある恋のお菓子でもお土産にすれば、もう冬の北の大地を満喫できるな!


 そんな素晴らしいイベントだからこそ、だからやっぱり、ああいう醜い事件は扱いたくないと、心からそう思うよ。 



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