「北海道満喫修学旅行は、楽しかったか?」
「え?」
「静かに。敵がすぐそこにいる。バレないように話を合わせて」
「え、あ、はい」
「何か美味しいもの食べたか?」
「え、ええと、蟹を」
「おお、それは良いな。美味しいもんな、蟹。どこか見てきた場所で良かったところはあったか? 景色とか、イベントとか」
「え、ええと、夜景を」
「函館?」
「あ、そうです」
「へえ。それは良かったな。じゃあ、結構日数長めに取ったんだ。北海道は広いからな。地図で見たらすぐそこに見えるのに。そっか。楽しかったんだな」
「で、でも」
「どうした」
「僕、大変なことを」
「言わなくていい。分かっている。わかっていなかったら、こんなおじさんは君に接触したりしない。俺は君の味方だ。助けに来た」
少年はもちろん驚いていた。だから分かりやすく俺のことを、ここまでの活躍を簡単に話した。子供でも分かる言葉でな。
「あれからエスエヌエスとかのアカウントに酷いメッセージがなくなっただろ。アレは俺が手を回して火を消した」
「え?」
「直近数日。札幌の街を友達などと一緒に歩いていると、この街の人間またはこの街を訪れている違う街の人間に指をさされたり、声をかけられた。でも途端になくなった。親切に道も教えてくれた。何もなかったかのように」
「あ、はい」
「それも俺がやった。まあ、正確には俺の仲間が俺と一緒にやったんだけどな。仲間に頼ることしかできないように見えるかもしれないが、実はやるときはやるんだよ。何もできない人間に信頼も仲間もいない。覚えておくといいよ」
近くに本命が見えた。そんなことはさせない許さない。俺はヤツらを絶対に許さない。中継のアナウンサーの足元に及ばず、画面の向こうで鼻くそほじりながら、筋トレとかしながら見ている人間共の娯楽を提供するという名目で自己満足を跋扈させるだけ。配信なんて、顔だしても、動くキャスターでゲームやっても、世の中で話題になっている話題を話すだけの雑談。
気持ち悪いよ、普通に。俺はそう思う。
突撃動画を試みた人間が、釈放された奴らが現れるのは分かっていた。この少年はまだ修学旅行中。即刻中断すべきだと学校側は言ってきたそうだが、生徒から激しい反論により継続に。一生に一度だからな。隣にいる少年はずっと謝り続けているという。みんな優しくて、責め立てる人はいなかったって。理解ある生徒の多くて良かった。
今回の敵に向けて俺は手裏剣を何本か投げた。拾った時に見えるきゅーあーるこーどが付いた最近作ってもらった手裏剣。投げてどこかに刺さった気がする手応えがあった。まあ、刺さっても刺さらなくても敵に刺さればそれでいい。牽制球には十分だ。ちなみにこれは裏世界を走り回る人間と言ったら忍者だと思って作ってもらったいつものヤツ。脅しに使うぐらいならうってつけ。
「少年。君は友人ではない行動班みたいな、作らされたグループの生徒にそそのかされて、唇を噛んでやったんだろ。分かってるからな。少なくとも君がこの街にいる間は守るから」
「ありがとうございます。内輪ノリというか、それがエスカレートして無茶な事言われて。そのせいで仲良い友達にも無視されたり、クラスからハブられるとか怖かった。でも、どうしてか今は班の人と対等に喋れて。なんで変わったのか分からなくて」
「それも、俺たちが手を回した。自己紹介が遅れたな。これが俺の名刺」
「ありがとうございます。えっと……お、お、おーがない、ざー?」
「ダサい肩書きだろ。どこかにいるこの街最強の社長がつけたんだ。思いつきで。嫌になるよ。分かりやすい名前でいうと、探偵とか、トラブルシューターとかになるんだろうけど、残念ながらどっちでもない」
「でも、どうして僕なんかを助けるんですか。悪いことを、酷いことをしてしまったのに……」
「それは違うな。君だから助けたんじゃない。君だからたくさんの知らない人間に攻撃されたんじゃない。対象は誰でも良かったと言うと、それは可哀想だけど、スマートフォンの向こう側の人間にとっては同じことだろうよ。配信者を含めて、誰でもよかったんだ。面白そうなことなら」
「そうですか。僕も動画とかよく見るんですけど、ちゃんと考えたことなかった」
「俺みたいに一方的に嫌うのもどうかと思うけどな。それでもその類いの人間は全て許さないし、理解できないけど」
少年は何か考えているようだった。考えることは良いことだ。
「修学旅行、まだ日にち残ってるんだろ」
「え? あっ、は、はい」
「そろそろ俺は行くよ。楽しいところだよ、ここは。誰かひとりの人間の発言で壊れるほどしょぼい街じゃない。楽しんでな。それじゃあ」
始また人間の次は、無駄に騒ぎを大きくした人間に会うことにしよう。容赦しないから覚悟しとけよ。