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vsすすきの代理戦争03

 超能力兄妹対決。


 キエン・マツシマの上空、その宙には百をゆうに超える業炎の火の玉がメラメラしていた。今まさにその火球が放なたれようとしている。これに対して妹超能力者は紫の緩やかな揺れる炎を帯びた弓を作り、矢を引いて構えた。


 放たれた火球と一本の矢。矢は無限に分裂し、紫炎矢羽根として火球を迎え撃つ。衝突。相殺。上空で爆発が起こり戦場を包む。


 転換。


 茨戸創、黒武士との対決。


「我は妖刀使いと同じである。長年、並の人間では目にすることができないところに安置されていた。眠りについていた。しかし特別な人間が現れ、我が身である〝千紫万紅・無銘刀〟を手にした。人の手に渡ってことで魂を手にした。その魂のチカラでこの影を生み出した。馬を生み出すことも出来る便利な能力だ。とても気に入っている」


 千紫万紅なのに無銘なのか。なんだそりゃ。すすきのに降臨した武士景久は見ての通り真っ黒なのに。色とりどりの花が咲き誇る風景とはかけ離れている。そんなことを思い、少し心で笑った。


「聞いてもしょうがないけど、ちなみにお前を拾った人間の名前は?」


「雁来成哉という殿方である。実に聡明な方でいらっしゃる。主として世に相応しい」


「やっぱり。妖刀使いの言葉にも偽りは無かったか」


 木刀と木刀がしのぎを削る最中の会話。本体が刀のくせにチカラが強い。負けてないが、いつまでもつか。


 次。


 南4条西2丁目。


 ボーイズは左右に分かれ、左右からガールズを攻めていた。その戦いは拮抗しており、次々と脱落者が出た。


 各個人に与えられた魔力、妖力は多くの人間に与えているため無限ではない。その上限がこの戦いにおけるライフ値、つまり戦うことができる限界である。それが減少してゼロになると倒れる。倒れても意識はあるが、一定時間動けなくなる。旗は消滅し魔力妖力から解放される。また、解放された人間は戦闘に介入することはできない。ほう助、作戦への加入は魔力妖力に妨害される。これに抗える人間はいない。よって夜の街を散歩するか家に帰ってぐっすり寝るしかない。


「くそっ、さすがはガールズ。普段のお淑やかさとは違い、鍛えられた武術で迎え撃ってくる。隙がない」


「武闘派ばかりのボーイズなのに、意外と筋肉バカが少ないから攻めきれないわね……」


 あるボーイズは果敢に右をガールズに放った。それをガールズは足で受け止め、その勢いのまま回転。蹴りが炸裂する。それをボーイズは腕で正面から受け止め、振り払った。ガールズは振り払われる前にボーイズの腕を足場にして飛び、宙返りして勢いのベクトルを反転させて急襲。木刀を振り下ろす。ボーイズはすぐさま落としていた自分の木刀を拾い、地に背中をつけながら応戦。両者一歩も引かず。それを見た違うガールズが木刀を手に歩いて来て、無防備なボーイズの頭を見つけると殴った。ライフをゼロにされたボーイズは脱落。なんて卑怯。


 次。


 某所。


『TV父さん』はさっぽろテレビ塔の非公式キャラクターの座を狙っている無名マスコットキャラクターである。よく名前が似ているが、本家はテレビでこっちはティービーである。


『とけのとっけとけ』は札幌市時計台の二大非公式キャラクターの次点、三番目を狙っている無名マスコットキャラクターである。既存の二体については知らない人が多いだろうから調べてくれ。片方の名前には大臣がついている。


 この二体はマスコットキャラクターであるため、喋ることができない。また、機敏な動きも、殴る蹴るもできない。体当たりで勝負するしかない。妖刀使いと魔法少女はなぜこの二体を選んだのかまったくわからないが、すすきの夜の街で静かな戦いは確かに行われていた。詳細は記すまでもないので割愛。結果は引き分け。勝負つかず。



 次。



〉藍旗

「ついにこの時が来たな、深々の狂騒パレード・ウルフズベイン!」


〉朱旗

「全てを終わりにしましょう。永遠の墓参り・フロクシノーシナイヒリピリフィケイション!」


〉藍旗

「見るがいい! これぞ俺様が生み出した究極魔法! セント・ダイファナス・ルナティック!」


〉朱旗

「その程度ですか。興ざめですね。では私もお見せしましょう。深々の狂騒・慟哭の泡沫、涅槃のパレードウルフズベインの伝統、東方和術『戦死者の館ヴァルハラ』」



 誰だ、お前たちは。知らん。



 次。



「茨戸殿! 本気を出せい! 雁来殿のご友人ならば立ち上がれぃ!」


「くそっ。俺には怪力も、超能力も魔法もないって何度も。無理だってこんなの」


「苦戦してるわね、妖刀使いの子分」


「子分ではない。俺はそんな認識なのか」


「形勢不利には変わりないでしょ?仕方ないわね。加勢するわ」


「それなら、ルルシュシュ・リラ・ルシエ。お前が戦えよ」


「それはルール違反だからダメ!でも加勢は禁止されていない。転移魔法!」


 いつの日だったか、ファドと戦ったときと同じような光の魔法陣が複数展開された。


「いてっ。なんだ、ここは。あれっ、創先輩!」


「ボーイズか?やっぱりお前らも戦わされてたのか。しかもこんな大人数」


「ええ、これでもだいぶ減りました」


「相手はガールズだっけ?大変だったな」


「ほんとですよ。無茶苦茶です。創先輩も?」


「ああ。俺は連戦。あの黒い武士が二戦目の相手。アレこそ滅茶苦茶だよ」


「ここに呼ばれたってことは、加勢ですかね」


「魔法少女はそのつもりだろうよ」


「やらしてください。理由はどうであれ、これは俺達の戦いでもあるんです。いつも創先輩や成哉さんに頼りっぱなしじゃいけないって、みんな思ってるんです」


「そうか。頼りになるな」


「はい!」


 これを見た妖刀使いも即座に転移妖術を展開した。大量の巻物が現れ、広がってそこから次々に人が現れた。創成川リバーサイドガールズ。あいつらも酷使させられて。かわいそうだな、と茨戸創は思った。


「えっ。敵なの?私たちも創先輩の味方が良い!」


「そう申すでない。我は雁来成哉殿に仕えている。こちらは雁来成哉殿の陣営である」


 妖刀使い陣営である。


「えっ、成哉さんの?じゃあ、仕方ないか。気合入れていくよ!成哉さんにかっこ悪いところ見せられない!」


 あれ、魔法少女vs妖刀使いじゃなかったの? 俺vs成哉? あれ?


 茨戸創は代理戦争の代理人が入れ替わっていることに疑問を抱いたが、戦いはすぐに始まる。


「妖刀使い!あんたも出てきなさい!全員突撃!最終決戦よ!」


 ちなみに、超能力者二人はチカラを使い果たしてライフゼロ。勝敗つかず。明るい月の下で、二人背中を合わせて休んでいるらしい。


 既に述べた通り、ご当地マスコットキャラクターの座を夢見る着ぐるみ対決も引分。最後は中の人が汗だくで出てきて握手を交わして感動的だったらしい。


 他に、代理人を立てる時に放たれた魔法と妖術を偶然手にした中学二年生が二人いたらしいが、微量であった為にすぐ魔力妖力切れで解放された。本人たちは解放されたくなかったらしいが。


「成哉さんのために!」


「創先輩のために!」


 これではほんとうに誰の代理戦争か分かったもんじゃない。ただの小競り合いである。身内で喧嘩をしているだけで、戦争でも何でもない。


「決着よ! 妖刀使い!」


「余興はここまで、ということですか」


 最終的にお前らが戦うなら俺たち巻き込まなくてよかったじゃん。茨戸創は心底憤ったが、まだ魔法に束縛されている。戦いは避けられない。


「来い、茨戸創!そなたの相手はこの景久弥五郎ぞ!」


「ったく、仕方ないな。おい、魔法少女」


「何よ」


「この木刀をあの黒い武士に勝てる数値に強化してくれ」


「反則よ!」


「人智を超えた相手のチカラこそが反則だ。戦うなら対等に戦わせろ。ほら、その代わりあいつの攻撃全部俺が引き受けるから」


「しょうがないわね。一回だけよ?」


「サンキュ」


「準備は整ったか」


「ああ。あのさ、その前に俺も名告なのって良いかな。さっき俺やってなかったし」


 ぐわらきーん!花は桜木、男は、ってやつ。


「構わん」



 それでは、失礼して。



「千紫万紅!雷鳴蹴散らし、いざ参らん!百戦百勝無敗無敵のオーガナイザー、茨戸創ここにあり!ぶっ倒してやるから覚悟しやがれ!」



 斯くして、妖刀使いvs魔法少女・すすきの代理戦争は一夜にして終結した。全ての人間にとって迷惑なことこの上ない戦いであったが、魔法と妖術の加護のおかげで己の力量の全てを出せたことに、どこか楽しんでいた者も少なくないだろう。


 もちろん、妖刀使いと魔法少女の戦いは終わらない。代理戦争に決着はついても、二人の戦いに決着はついていない。


 今回のように、トラブルはいつもこの街全てを巻き込む。戦いを拒否しなくても、迷惑なことこの上ないと思っても巻き込まれるのが茨戸創のさが


 物語はまた始まり、終わって続いていきます。





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