まず始めに、被害者の一つである氷永会に連絡を取った。タカは忙しくて捕まらなかったので、代わりに山本を呼んだ。山本は俺に恩があるからな。電話したらすぐにすっ飛んできたぜ。
「久しぶり、フィクサー」
「創さん、その呼び方はもう辞めてくださいよ」
「悪い悪い。急に呼び出してごめんな。手短に済ませよう」
「はい。ブラックバイツの話ですよね」
「そう、それ。殴り合ったって聞いたけど」
「ええ。面倒な奴らですよ」
「あっ、その前に。本題に入る前に一つ、聞いても良いか?」
「はい、もちろんです」
「俺の向かいに座っている山本の隣にいる黒サングラスのスーツ男と、近くに立っている黒サングラスのスーツ男は誰だ?ここが俺の仲間だらけの喫茶店じゃなけりゃ、一発通報だぜ?」
「ええと、俺の上の人間です。すみませんが、詳しくは言えない決まりなんです。表の名前は許可されてます。隣が秋月。季節の秋に月です。立っているのは照月。照らす月です」
ふーん、今度は秋月型駆逐艦か。戦艦系好きね、お宅ら。
「まあ、いいや。余計なことさせないための監視見張りと、余計なこと言わないようにするための監視見張りか。ご苦労さんだね。じゃあ、言える範囲で教えてくれ。成哉からは少し聞いたんだけど、あいつ口数少ないから。あまり具体的じゃないんだよ」
「はい。もちろんです」
※ ※ ※
山本はブラックバイツと組が殴り合いに発展するまでのことを教えてくれた。
この街での活動を拡大し続けていたブラックバイツは、ある夜〝すすきの〟のガールズバーを襲撃した。営業中のバニーガールも蝶ネクタイの男たちも、客も全員殴られ、売上金と金庫の金、約三百万円を強奪。その店は氷永会の息がかかっていたので、報復のために氷永会はブラックバイツを探し始めた。
ブラックバイツは派手な活動をしているだけあって氷永会はすぐに居場所を突き止めた。仮のアジトを襲撃し、殴り合いに。しかし、予想外の強さに決着がつかず、その場の両リーダーが出て来た。これ以上は互いに犠牲者を増やすだけだとやむなく停戦に合意。その場は解散。現在に至る。もちろんこのまま引き下がれない氷永会は決着をつける機会を常に窺っている。ってことらしい。最低でも取られた金の十倍を要求するつもりだとか。まあ、金の請求よりもロープで吊るし上げて恐怖を教え込む方が先だろうけど。
「なるほどな。実は成哉もブラックバイツを潰したいらしくて、俺はその命令を受けてるんだ。リバーサイドボーイズのラーメン店が襲われたって。めちゃくちゃに壊されたって。お金を取られたことよりも、スープを失ったことが辛いって。作り上げてきた物が一瞬で無くなる悲しみを、俺は想像できるが体験したことは無い。成哉は憤っている。我が物顔で暴力を振るっている人間を許さないってな。もちろん、ボーイズガールズは別で動く。先に潰しちゃうかも。情報は共有するから、俺の情報でお前たちが潰せるならそうしてくれ。どのみち俺達と氷永会を敵にして勝てた奴はいないんだ。たとえ街が居場所を許しても、敵にした俺たちが許さないことを教えてやろう。タカによろしくな。それじゃあ」
「分かりました。よろしくお願いします」
黒サングラスの男二人は最後まで口を開かなかった。徹底している。やはりこの手の人間は苦手だ。安易に頼りたくないし、共闘したくない。アイツは友達ではあるけど、仲間ではない。住む世界が違うのだ。もう何年も前からな。
今回の事件も表のガキ共、裏のヤクザの橋渡し。暴力の専門家ではない俺は、両家の暴力専門家に出動をお願いする場面づくりが仕事。名場面に設定しないと出演者に怒られちゃう。メンツとか大事にする連中だからね。ふたりとも。