目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

札幌ブラック03

「置き配泥棒?」


「そうなんすよ。配達されたって通知来たのに荷物がなかったから、ミスかなって問い合わせたらやっぱり配達してますって。証拠の画像とかデータもあったんで、業者はきちんと配達していたみたいで。それで調べたら、近所でも最近同じ事が起きているって聞いて。置き配泥棒だってみんな言ってます」


「置き配泥棒ねぇ……」


 成哉の命令を受け、山本に話を聞いてから数日。あちこち調べたらブラックバイツは指名手配の悪人として超有名人だった。抱えきれないほど情報が出てきて整理できない。どれを信じてどれを使えばいいか決めあぐねていた。そこにちょうど良くガキ共の定例集会が開かれたので、世間話ついでに情報を集めて整理することにした。やっぱり信用できる仲間の話が一番。


「その置き配泥棒ですけど、実は歌を歌って去るって噂があるんです。配達完了のメールとかで連絡を貰った住人が、リビングからすぐに玄関に取りに行くと荷物が無くて辺りを探すと必ず歌が聞こえるらしいです。軽く調べましたが、何十件もの被害者が同じ歌を聴いています。明らかに気が緩んだ鼻歌ではなく、自分の犯行を残しているんです。形には残らない歌で」


「歌う置き配泥棒ねぇ」


「ブラックバイツは大問題ですが、こっちも大変なんですよ」


「まあ、広い意味で捉えればどっちも泥棒か。暴力強盗も荷物泥棒も。他人の物を盗んでいることには変わりないな。なんとも物騒なことで」


 現代の泥棒は置き配泥棒か。なんとも時代に合わせた仕事をする泥棒だこと。セキュリティ増し増しの家ばかりでは泥棒も商売上がったりなのかもしれない。そもそも商売とは言えないけどね。


「本当ですよ。物騒です。ブラックバイツも置き配泥棒もそうですけど、潰して湧いて出てくる新規参入闇バイトも大概強盗ですし。まあ、半グレのモノマネ犯罪者集団なんて俺達の敵じゃないので良い獲物ですが。効率よく稼げるって、成哉さんも認めてます」


「そうだな。あれは素人ばかりだからな。纏め役に半グレ経験者はいるだろうけど、そいつらもきっと自分達の世界でうまく仕事できなかった奴の下方転職先。悪人も一つの組織でずっと活動なんてしない時代。ヤクザじゃないし。転職大歓迎社会、転職してなんぼ、ひとつの企業に勤めあげるのは時代遅れ。悪人も詐欺強盗性商売人間も次から次へと転職を繰り返し、手を変え品を変え悪さを続ける。ほんと、大転職時代だよな。俺も転職しようかしら」


「えっ。創さん、他の仕事するんですか?」


「ウソウソ。息を吹きかければ簡単に吹き飛ぶライターとオーガナイザーで精一杯。俺は一生オーガナイザーかもしれない。それはそれでどうだろうな。後期高齢者オーガナイザー。昔はぶいぶい言わせていたこの街に生きる伝説の人間。みたいになれば老後は安泰か?金にならない仕事だから将来不安だね。やっぱり成哉の会社に入れてもらって、書類にハンコ押すだけの偉い人になろうかな」


「創さん。今はハンコなんて使わないですよ。ずっと前からペーパーレスです」


「まじか」


 確かに、俺も最初は小さな雑誌に不定期で書いていたけど、廃刊になって今はネット連載。不倫スクープ連発の週刊誌ぐらいしか売れないか。


 紙はいらない。不要。資源の無駄。コストがかかる。郵便も値上げ。年賀状じまいブーム。請求書、領収書、報告書、全てペーパーレス。紙の本はかさばるだけ。時代は電子書籍。一冊三十円のセール乱発、定価で買う時代ではない。ポイントとセールでいつも半額。買う人間、使う人間にとってはそれで良くても作る人間にとってはそれはあまりにも厳しい。書籍化とは何か。誰でも電子書籍は作れるのだから、尚の事。職業として、仕事としての物書きに、求めれることは何か。


「ブラックバイツについて他に何か知らない?成哉から潰すように言われているんだ」


「ええと、たぶん創さんが既に知っている大きな事件ぐらいのことしか分からないです。直接見たこともないですし」


「そうか。でも、置き配泥棒の話はどこかでつながっているかも知れない。この街は広いようで狭いからな。登場人物はそんなに多くないし。ありがとう。他のやつにも聞いてみるよ」


「はい」


 次はガールズに話を聞いた。


「実は、ブラックバイツが喧嘩というか、複数人で一方的に殴っているところをこの前見ました」


「本当か。詳しく教えてくれ」


「はい。友達とカラオケでオールした帰り、朝の五時ぐらいだったと思います。聞こえてくる声の感じから喧嘩だとすぐに分かったんですが、何台かバイクが停めてあったんです。バイクの色はベースが黒で、アクセントに青のラインが入っています。その特徴のバイクはブラックバイツで間違いないです」


「なるほど。他の友人はブラックバイツのこと知っていたのか?」


「はい。あれから他にも聞いて回ったんですけど、殴られた被害者はみんなこのバイクを撮影しています。ガールズの被害者も見ています。彼女は、彼女は女の子なのに顔を殴られて大きく腫れてしまって。痛々しくて、可哀想で。見境なく、容赦なく殴ってきたと言います。創さん。何でも手伝います。奴らを捕まえてください」 


「ああ、もちろん」


「お願いします」


 それから彼女にバイクの写真を何枚か送って貰った。特徴的な、奴らのシンボルみたいなバイク。このバイクで毎回現れ、このバイクが存在証明か。俺達はここにいる。今ここに来たれり。9と9が9を迎えて我ら来たれり。俺達は今ここにいるぜ、逃げることも隠れることもしないって。常に自分をアピールして犯行を繰り返す。それだけ聞くと低俗だね。


 俺は奴らに直接会いに行くことにした。お行儀良く人の噂やネットの情報だけで作戦を立てて通用する相手じゃないだろう。もちろん、一人では行かない。それは死ぬ。仲間を引き連れて行く。奴らと殴り合って一勝すれば即解決は無理だろうけど、それでもこの規模の強さを持つ相手を敵にするのなら、一回戦っておく必要がある。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?